エピローグ 世界の淡路島
春が過ぎ、初夏の気配が淡路島に満ち始めていた。
海沿いの風は少しだけ暖かく、
潮の匂いに混じって、草の青い香りがふわりと漂っている。
六人はもう、毎日のように集まることはなくなった。
それぞれが、それぞれの道を歩き始めていた。
湊は神戸の大学に通いながら、
淡路島の歴史や文化を本気で学び始めた。
通学路の途中で見える海は、
高校の頃よりも少し大人びて見えた。
紗季は大阪の専門学校で観光を学び、
授業の合間に淡路島のパンフレットを眺めては、
「いつか自分で作りたいな」と胸を躍らせていた。
凛は岡山の看護学校で忙しい日々を送りながら、
ふとした瞬間に淡路島の海を思い出していた。
疲れた帰り道、
「六人で走った夕陽」を思い出すと、
少しだけ背筋が伸びた。
陽斗はまだ淡路島で進路を探していた。
アルバイトをしながら、
「人と関わる仕事がしたい」とぼんやり思い始めていた。
迷いながらも、
その迷いを恥じることはなくなっていた。
美咲は文学部の教室で、
淡路島の風景を思い出しながら文章を書いていた。
「言葉で島を残したい」
そんな気持ちが、静かに芽を出していた。
悠真は映像の学校で、
淡路島の海を撮った映像を編集していた。
画面の中の光は、
高校の頃と同じように優しく揺れていた。
六人のSNSアカウントは、
今もそのまま残っている。
更新は止まったまま。
でも、
消えてはいない。
トップページには、
大きく、誇らしげに、
「世界の淡路島」
という文字が踊っている。
6人が世界に誇った淡路島。
アワイチの夕陽。
初詣の影。
海沿いの笑顔。
風の音。
六人の声。
どれも色褪せず、
淡路島の魅力を静かに伝え続けていた。
誰かがふと訪れれば、
そこには変わらない淡路島があった。
六人が見つけ、
六人で歩き、
六人で残した淡路島が。
ある日の夕方。
悠真はふと、
アカウントのトップページを開いた。
画面の向こうで、
六人の影が並んでいた。
あの日の風が、
胸の奥でそっと揺れた。
そして、
画面の一番下にある固定された一文を見て、
静かに笑った。
『世界の淡路島ですけど、何か?』




