出会いは必然のように
少年は、崩れゆく世界を見つめる。
歩き慣れた歩道、見飽きた景色、思い出の場所。そのすべてが、悲鳴を上げて崩れ去る。
まるで今まで過ごしてきたところが、夢であったかのように消え失せていく。
きっと自分以外、このあたりにすんでいたものは死んでしまったであろう。悲鳴の声すら聞こえず、建物の崩れ去る音が、あちらこちらで鳴り響く。
町をこのようにした原因は、もし生きてるものがいれば理解できるだろう。
悪魔、いや宇宙人か。はたまた、どっかの研究者が作り出した生物か。そんなことは考えずとも、人ならざるものの仕業であることは、明白だった。
異界の生物たちは、人を建物を植物を破壊していく。
少年は身を潜めた。彼の心の内には、恐怖とそれ以上の憎しみが宿る。血が、自分の感情に影響されているのか、熱く、早く、身体中を巡っていく。
きっとこれが物語なら、英雄のようなものたちが解決してくれるかもしれない。神話のような力で世界を救うかもしれない。
だが、僕は思う。きっと、そんな人間は現れないと。
誰もが、自分のために生き、他人を犠牲にして生きる。
誰もが、金のために生き、心を犠牲にして生きる。
強きものは、自分の欲望のために人々を助け、悦に浸る。これこそが、人の本懐だと。
救われたものは、助けたものに依存してしまう。
そいつなしには生きていけない。
この話の向かう先は、絶対王朝。一人の、もしくは一団体の力に逆らえず、朽ち果てていく世界。
これは、火を見るよりも明らかな、この先くるであろう未来。
きっとこの状況をなんとかするには、自分でなんとかするしかないのだ。
♢
多くの人が行き交う繁華街。家族連れや友達と遊びに来たであろう人々を横目に、大城雄馬は走って通り過ぎる。
今日は、雄馬の通う大学で、授業があっているのだが、いつもどうりさぼっていた。
しかし、勉学に励んでいる人たちの方が異端だ、と思っていた。
世界中で異界の生物――≪厄災の獣≫と名付けられた彼らは、暴虐の限りを尽くし、人類は大陸から離れた島にまで追い詰められた。大陸のほとんどが≪厄災の獣≫に淘汰され、四面楚歌のような状態。
正直、将来のこと以前に、明日ですらくるか危ういという状況で、将来のための勉強をしている彼らは、雄馬にとってある意味滑稽に思えた。
だが、それは俺の考えすぎなのかもしれない。人間だってやすやすと滅ぼされるような矮小な生き物ではないらしく、世界中でいき残った優秀なものたちが、ある情報を元に組織を立ち上げた。
その名も、対厄災撲滅協議会、通称 JAGG。
世界で超常的な、人智を越えた力を持つものたちがいることを耳にし作り上げた、まさに人類最後の希望である。
実際に、大きな抑止力となり、設立してから≪厄災の獣≫に侵略されていない。
JAGGの設立は、人類の大きな功績であり、失敗でもあった。
人智を越えたものたちをスカウトするため、多額の金を必要とした。これが、どんどん大きくなっていき、JAGGの構成員であるだけで、地位も名誉も確立され、やりたい放題状態である。
だがこれをとがめることは、誰一人としてできない。
毎日の筋トレを欠かさず、一般的な男性であれば、勝率ほぼ100%だと自負している雄馬でも、能力者であれば勝率0%だ。勝つためには、自分も相手と同じ領域にたたなければならない。
「まったく、困ったものだ」
独り言をつぶやく。筋トレしても勝てないことは、十分知っている。
それでも、体を鍛えていないと、不安でしょうがないのだ。
日課のランニングを終え、家に帰ろうとしたとき、路地裏で倒れている人を見つけた。
正直、関わり合いになりたくはない。こういったことは、なんか変なことに巻き込まれそうだ、というジンクスがある。なんなら、フラグの方がまだましである。
だが、性格上見て見ぬふりをできないたちで、なんだかんだ近づいていく。
「あの、大丈夫ですか」
返事は返ってこない。
倒れている男は、身長180cmほどあり、かなり爽やかな顔立ちをしている。男の全身を見てもけがは見られないし、脈もあった。おそらく、ただ寝ているだけであろう。
ここに放置してもいいのだけど、やっぱり一度関わりを持ったのであれば、最後までめんどうを見るのが人情だろう。
家は一人暮らしで、睡眠以外使ってないようなものなので、役に立つのであれば御の字だ。
おそらく寝ているであろう男を担ぐ。正直、筋トレしていなければ持てなかったであろう。
「やれやれ」とため息をつきながら、家に帰るのだった。
ある意味、雄馬とこの男の出会いで、多くのものたちの人生が想像もしなかったものへと動き出す。
人生の分岐点。世界の分岐点。物語の始まり。
とにもかくにも、今まで何もなかった大城雄馬の物語は、ようやく動き始めるのだった。




