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再びスマホ画面に戻った。時間がたって画面の中も劣勢だ。
二匹のドラゴンが、ヴァルキリアを攻撃していた。
あっという間にヴァルキリアの体力が減っていく。
何度『治癒』のスキルを使ったかわからない。
だけどぎりぎりの範囲でヴァルキリアの命を繋いでいた。
ヴァルキリアが間に合わない時は、薬も飲んでくれた。
だけど劣勢は変らない。カナモリドラゴンの体力はまだかなりあった。
「くそっ、堅すぎる。カナモリドラゴンだけを狙え」
K・シューターが銃を打つモーションを繰り返していた。
K・シューターに言われて、ヴァルキリアはカナモリドラゴンを狙っていた。
「私は護衛します!」
蔦の術が解けたナツナイトも、いつの間にかヴァルキリアのそばに来ていた。
僕は、そんなヴァルキリアに『治癒』のスキルで回復。
リアルで走りながら回復するのは、かなり難しい。
『たまだん』メンバーがそれぞれの役割をこなしていた。
だけど、当然カナモリドラゴンがハルヒメである僕に向かおうとしていた。
それをブロックしていたのが、ジャイアント・キリング。
業を煮やしたのか、アジ・ダハーカは動こうとしたがヴァルキリアが進軍を阻む。
「おやおや、結衣さん」
「なによ!あんた何者?」
「何者でしょうね、それ以上に体力が減っていませんから」
「性格悪すぎ、趣味悪すぎ」
ヴァルキリアは、険しい顔でアジ・ダハーカを見ていた。
アジ・ダハーカの体力は全く減っていない。元々狙っていないのもあった。
それとは対照的にヴァルキリアの体力は、常に半分に満たない。消耗が激しすぎた。
しかもそれを支えているのは僕だ。
「それよりあなたは、お兄さんが極度のブラコンだって聞きましたよ」
「な、な、な、何言っているの?」
「かわいいじゃないですか、「にいさん」、「にいさん」って」
「うるさい、今は卒業したの!」
リアルで僕の隣の結衣が、ものすごく顔が赤かった。
僕は長いつき合いだから、結衣が極度のブラコンなのは知っていた。
かなり内輪な結衣の話、そんなことまで相手は知っているのか。
それは小学生だった頃、遠足とか運動会にも年の離れた兄がいつもついてきたっけ。
結衣は兄が大好きで、いつもべったりしていたし。
そんなことを知っているアジ・ダハーカに、僕はずっと疑問があった。
(アジ・ダハーカはどうやって……そうか)
僕は一つの仮説に行きついた。だけどそれを喋るには時間も余裕もない。
ゲームでヴァルキリアを回復しながら、リアルで結衣と太とで区役所を目指す。
蔦が止まると、今度は激しくシェルターが揺れた。
それにも対応しながら、僕たちはリアルでは区役所を目指さないといけない。
結衣や太と走りながらも、ゲーム画面をじっと見ていた。
カナモリドラゴンを必死にブロックするジャイアント・キリング。
ただジャイアント・キリングの体力も減っていた。
「無駄だ、さっきも言った通り戦争は情報戦だ。ヴァルキリアの弱点は爪属性だ!」
「きゃああっ!」
アジ・ダハーカのスキルで、オート戦闘で戦っていたヴァルキリアを吹き飛ばした。
飛ばされたヴァルキリアは、かなり遠くのK・シューターの後ろに下がっていった。
すぐさま体力が大幅に減ったヴァルキリアを回復していく。
「アジ・ダハーカの体力が……」
「全く減っていない」
「そう、君たちは勝てない。全ての情報を知っているから……
くっ!邪魔が入ったか……いいところなのに」
一瞬だけ、アジ・ダハーカの体が歪んだ。姿全体がユラユラと揺れた。
再びヴァルキリアは、離れたドラゴンの方に向かっていく。
「アジ・ダハーカが……」
「カナモリ、後は任せるから!」
一言言ってアジ・ダハーカが下がっていく。
さっきまでの余裕はない、急に乱れているように見えた。
アジ・ダハーカの体が少し揺れながら、離れていく。
「逃がすか!」
「落ち着け、まずは一体ずつだ」
K・シューターをなだめるジャイアント・キリング。彼はいつも冷静で穏やかだ。
だけど、体力ゲージがまだ半分以上も残っているカナモリが前に立ちふさがっていた。
そう考えると、アジ・ダハーカの離脱はありがたかった。
だけどカナモリドラゴンは、さっきのドラゴンよりも強い。
アジ・ダハーカより攻撃力は低いけれど……スキルでダメージを与えてくる。
体力ゲージも半分を切っていた僕たちは、スキルもかなり尽きていた。
「けど倒す力が残っているのか?」K・シューターが問う。
「撤退しようよ」
ナツナイトは僕の前で、弱気な言葉を吐く。
それでもハルヒメをきっちり守ってくれた。ナツナイトは頼もしい。
今、カナモリドラゴンのそばでは、オート戦闘でジャイアント・キリングが戦っていた。
意外と持久力のあるジャイアント・キリングは善戦をしていた。
ヴァルキリアの回復時間を稼いでくれて、ヴァルキリアもカナモリドラゴンに向かっていく。
「ハルヒメ、どれぐらいスキルある?」そのジャイアント・キリングが聞いてきた。
「後100ポイント以下、でも大丈夫」僕はスキルポイントを見て言っていた。
そのまま次の瞬間、『スキルテンパランス』を使って必殺技ゲージをスキルポイントに変換していた。
スキルポイントが400近くまで一瞬で回復した。
うん、かなり便利だぞ。このスキルを使うにはもう必殺技ゲージないけど。
「やっぱり撤退だね、無理はできないし」
「イヤ、殺す!」
K・シューターはひかない。弘明が負けず嫌いなのを僕はよく知っていた。
「でも、どうやって?」ヴァルキリアはじっと見ていた。
「こうなったら、思い切ってレベル4アイテムを習得するか」
「それは……まさか課金?」
K・シューターの言葉に、ヴァルキリアが声を荒げた。
「ああ、そうするしかないだろ!」
「ねえ、課金したら晴ねえみたいに……」
「いいだろ、こいつは絶対に倒す!ヴァルキリアだってこれじゃあ逃げられないだろ!」
K・シューターの意志は変わらない。
ヴァルキリアは、どういうわけか課金には反対しているみたいだ。
僕には原理がつかめないが、前を走っているリアルの結衣は悔しそうな顔を見せていた。
「ヴァルキリア?」
「……だめなのに……どうして」
「いくぞ、俺たちは勝たないといけない」
「時間……無くなっちゃう。晴ねえので……分かったから」
それでも、K・シューターはいきなり光り輝いた。
リアルでは前にいた結衣は悔しそうな顔で、スマホを見ながらシェルターを走っていた。
走る速度をむしろあげているようにさえ見えた。
スマホ画面では、持っていたK・シューターの銃が二丁とも、さらに豪華なモノへと変わっていった。
真っ白な機械銃、それがあっという間に強くなったようにすぐに感じた。
「……なんだ?」
「こいつは『星砕き銃』っていうのか、俺の相棒」
そう言いながら、K・シューターは早速一発撃つとカナモリドラゴンのダメージが跳ね上がった。
対するカナモリドラゴンが攻撃されて、K・シューターに向かっていく。
ブロックするジャイアント・キリングが弾き飛ばされた。
「やはり来たな。ナツ、ちょっとだけ俺を守ってくれ!」
「えっ、でも……」
「コイツならいける、ドラゴンと銃系の武器の相性はいいみたいだ。
一気に俺の必殺技を一発ぶっ放つ!」
K・シューターの自信みなぎる言葉に、ナツナイトは素直に従った。
僕はナツナイトに対して、最後のスキルポイントを使った。
「ナツ、これを……僕はこれしかできない」
優しい光に包まれて、ナツナイトの防御力が上がるスキル『防御上昇』を使用した。
お守り程度で使ったスキルに「ありがとう」と言ってくれたナツナイト。
ナツナイトが、襲い掛かるカナモリドラゴンの行く手を阻む。
体を張ってドラゴンの進行を止めていた。
ナツナイトの背後にいるK・シューターは、銃のモーションに入った。
「こいつを喰らえっ!」
それは、圧倒的な一撃だった。
「グアッ!」カナモリドラゴンの断末魔の叫び声が聞こえた。
そして、次の瞬間カナモリドラゴンの体力ゲージは半分ぐらいあったのにゼロになった。
WINの文字と、僕のハルヒメがレベル50に上がったとメッセージ。
ん、なんか必殺技を覚えたぞ。
「倒したようだな」歪みの無くなったアジ・ダハーカは離れた上の方で見ていた。
「次はお前の番だ」
「いや、その必要はない。お前たちは負けたんだ」
アジ・ダハーカはそれでも強気だった。
K・シューターは狙撃の準備を開始してうち放った。だけど、アジ・ダハーカがあっさりと消えた。
「無駄ですとも、私を探すことはできない」
最後にそうメッセージをのこして、アジ・ダハーカが消えて行った。
そこにはドラゴンが元に戻って倒れていた――
リアルに戻った。僕は結衣と一緒に走っていた。
スマホを持って、区役所に向かってひたすらに走る。
足が痛くなっても構わずに走っていた。
シェルターの案内表示は、『区役所下』をさし示していた。
どうやら上には区役所の玄関前に出るらしい。急いで階段を駆け上がった。
僕と結衣が階段を上ると、そこには蔦によって破壊された区役所の建物が見えた。
崩れる建物の傷跡は、地面に瓦礫が転がっていた。
そして、前の結衣は口を押えて悲しそうな顔に変わった。
僕も結衣の後に見ると、そこに見えたのは一人の人物がうつぶせに倒れていた。
「金森会長!」
僕と結衣は倒れた人物に駆け寄った。
そばにはアジ・ダハーカの姿はなかった。
結衣がすぐさま倒れている金森会長を駆け寄ってゆすっていた。
だけどもう動かない。
白目をむいて、心臓が動いていなかった。それは金森会長の脳死だった。
次の瞬間、結衣の目から涙があふれていた。
「ごめんなさい!」最後に彼女の口から懺悔の言葉が聞こえた。




