32
リアルで僕がいたのはシェルター。509の下にはシェルターが完備していた。
そのシェルターは便利なことに、渋谷区役所までつながっていた。
区役所までの道は太が知っていた。すでに調査済みという事か。
この渋谷は開発が進んでいて、地下通路がほぼあちこちに掘られていた。
509から駅も、巨大な商業ビルも、区役所も地下で全部がつながっていた。
そばには苦痛に顔がゆがんだ結衣と、冷静な顔を見せた太がいた。
それ以上にシェルターが慌ただしかった。走る足音と叫び声が聞こえてきた。
「大変だ!シェルターの中に、蔦が入ってくる!」
僕がスマホから目を上げると、奥の方から緑色の蔦が見えた。
そして逃げ惑うサラリーマンの背後から、巨大な蔦が襲ってきた。
蔦がシェルターの中に侵入してきた。安全だったシェルターが大混乱していた。
「あれは……」
「リアルがシンクロしている」
太はスマホを見ながら蔦と反対の方に走って行く。
「戦いに集中して!二人とも前を見て!」
「両方はできないよ!」
太が大声で叫ぶと、結衣と僕は顔を上げた。
それは植物の黄色い蔦が僕たちの方に襲い掛かってきた。
「なんなの!」
強張った顔で結衣は叫んでいた、蔦が出てきた方角は区役所からだ。
それをかろうじて太の合図で間一髪かわしていく。
「どうやら『蔦の術』を使ったことで、リアルに反映されたのだろう」
「そうじゃなくて、この蔦は僕たちを狙っているんだよね」
「そうかもしれない。でも……間違いなく市役所の方にはドラゴンがいる」
「怖い……」
青ざめた顔で結衣はいきなり恐怖を覚えていた。
今までのいきり立った強い彼女ではない、素顔の弱い顔が見えた。
「どういうことだよ?」
「金森会長がいるの、あたしの学校の会長!」
「分かっている、結衣!だから落ち着け!」
僕の制止を無視して結衣が走って行く。先に行く結衣を僕は追いかけた。
完全に結衣は混乱していた。金森会長がドラゴンにされたんだ、平静でいられるはずもない。
駆け出す結衣の手を落ち着かせるように僕は引っ張った。
「謝らないと……いけない!あたしは会長を疑ったんだ」
「結衣待て!会ってどうする?」
スマホを片手に持った結衣は震えていた。
「あたしは最低よ」
「分かっても、結衣がどうにかできるわけじゃない。
僕たちができることは、ただ戦うことしかできないのか?」
「うん……ごめん」
それでもスマホ画面を見ながら、結衣は泣いていた。
僕も悔しかった、でも泣けなかった。
ドラゴンになった金森会長は既に被害を出していた。
戦いをやめて逃げれば、渋谷の町が破壊されて多くの犠牲が出る。
皮肉なもので、いつの間にか覚悟が入れ替わっていた。
「結衣、迷っている暇はないよ。僕たちは……」
「わかった、ありがと……誉」
結衣はそんな僕に必死に笑顔を作っていた。
間違いなく強がっていた、結衣は絶対僕に弱みを見せない。昔から活発で強いから。
そんな結衣しかみせないところは昔と変わらない。
「カナモリドラゴンと戦える?」
「戦う……誉こそ……」
「僕は結衣やみんなを見て戦える、そんな気がするんだ」
ようやく僕は口にした、自分が戦う理由を。
ドラゴンになった人を殺すという状況でありながら、それでもゲームを続ける理由を。
はっきりしない想いがようやくまとまった。
それでも僕たちを狙ってか蔦が僕たちの方へと向かっていく。
それでも僕と結衣には区役所の方に向かう理由があった。
真実が区役所にある、戦うべき敵が区役所にいるのだから。




