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この世は、ありえないことが起きていた。
六つの赤い目のドラゴンは、とんでもなく強いと直感した。
レベルは???だけど、圧倒的な強い威圧感を放っていた。
そんなアジ・ダハーカの隣には、一人の人物がいた。正確にはつかまれていた。
「自己紹介がまだですね、私は『アジ・ダハーカ』。こちらが……」
「金森会長!」
紹介前に叫んだのはヴァルキリアだった。僕もそれを見て驚いた。
509のフィールドには、ありえない光景が見えた。
レベル???のドラゴンと、金森会長が一緒に出てきた。
それにしてもこのドラゴンはなんだ、ものすごく嫌な予感がする。
「騒がないでください、ヴァルキリアさん。折角紹介できると思っていましたのに」
「アンタ何者?どういうこと?」
「その前にあなたがたの他己紹介させてください。『たまだん』のみなさん。
あなた方のことを知っていますよ、『K・シューター』こそ有明高二年G組『木田 弘明』君」
「な、なんで俺のことを……」
いきなりアジ・ダハーカは『K・シューター』の弘明のことを話してきた。
K・シューターはいきなり言われて動揺していた。
さっきまでの余裕は、どこかに吹き飛んでいた。
「どういうことなの?」
「あなたは美しい戦場のバラの様です、『ヴァルキリア』こそ有明高二年G組『蓼沼 結衣』さん」
「えっ、あたしも……」
509のシェルターにいたリアルで僕の隣にいた結衣が、スマホを見ながら声を漏らした。
「『ナツナイト』の豊洲高一年三組の『親園 棗』さん、
『ジャイアント・キリング』こそ、豊洲高三年七組の『壬生 太』君」
「うそっ、なんで……」
「……」
ナツナイトは驚いていて、ジャイアント・キリングは黙り込んでいた。
リアルでそばにいる太は、黙ってスマホを見ていた。
「それに、『ハルヒメ』でもある浜大二年『鐙塚 晴海』さんも」
「晴海……」
「しっ」僕がしゃべろうとしたとき、リアルの結衣が僕の口を抑えた。
「えっ、どういうこと?」
だけど黙ったまま結衣は、そのまま首を横に振っていた。
再びスマホの画面に戻っていく。
「君たち五人は、すでに『アジ・ダハーカ』であるこの私に知られているんだよ。
君たちがどんな生活をして、どういう人間で、君たちがこれを探しているのも。
全部知っているんだ、全部手の内にある」
そう言いながら、アジ・ダハーカの隣にいる金森は大きなアタッシュケースを持っていた。
そこにはコインがいっぱい見えた。
ドラゴン視アターで見たコイン、女性の横顔が描かれていたあのコインと同じだ。
「知っているからなんなのよ!」
鬼気迫る顔でヴァルキリアが動いていた。剣を構えてアジ・ダハーカに向かっていく。
だけど、アジ・ダハーカは全く動かない。
接敵すればオート戦闘に変わるのもあるが。
「いけない、ヴァルキリア!」
「うるさいわ!」
K・シューターの制止を無視して、上の方にいるアジ・ダハーカに向かっていく。
怒りや恐怖が、結衣のヴァルキリアを走らせていた。
「守らないと、アジ・ダハーカの言うとおりにさせてはいけない!」
ハルヒメの前にいたナツナイトが、ヴァルキリアに近づいていく。
僕もナツナイトに引っ張られるようについて行く。
「戦争は情報戦だ。相手の情報をいかに知っているかが、勝敗を分ける」
「どういうことよ」
「つまり、お前たち『たまだん』は絶対に負ける!」
結衣が接触する瞬間に、アジ・ダハーカの動きが横に流れた。
金森会長からすうっと離れていく。
「いいものを見せてやる」
アジ・ダハーカの赤い六つの目が同時に光った。
そして、アジ・ダハーカが指を鳴らすと、アタッシュケースのコインが金森会長を包みこんだ。
「なんなの?」
「金森は私に服従しているのだ。金森にはたくさんのお金が必要なのよ!
だから与えてあげる、浴びるほどお金を与えるの。欲望を満たせるように。
何より欲望を邪魔する、『たまだん』メンバーを完全に始末するために!
「スキル『血の金』か!」
無数コインが、金森会長の体を完全に覆った。
だけどそのコインは邪気のような赤と黒が混じったオーラを放っていた。
「どういうこと?」
「この星に生まれし、新たなドラゴンよ!姿を現せ!」
アジ・ダハーカの挑発にリアルでそばにいる結衣は唇をかんでいた。
なんだか、スマホを持つ手が震えているようにさえ見えた。
そして生まれたのが、一匹のドラゴン。
僕が晴ねえとデートした時に見た、額にコインをつけたドラゴンがそこにあった。
レベルは60、さっき戦ったコインドラゴンのレベルが倍以上だ。
名前表記はコインドラゴン、だけどこれは金森会長が元の人間だったドラゴン。
だから『カナモリドラゴン』と呼ぶことにする。
「ふざけないで、あたしは負けない!
あたしは覚悟があるの、誰が相手であっても!」
叫んだヴァルキリア、いや結衣の心の叫び。
結衣の頭の中は、いろいろ起きてきっとぐちゃぐちゃだろう。
自分のことを敵の総大将であるアジ・ダハーカに知られ、自分の知り合いである金森会長が敵になった。
そして、そのドラゴンと命を懸けたゲームをしないといけない。
それでも結衣は前に進んでいく。勇気をもって敵と対峙していく。
僕もそんなヴァルキリアの勇ましく頼もしい姿を見て、羨ましく見えた。
(僕も覚悟を決めないといけない……後は)
迷いが無くなりつつある僕の目の前に見えたスマホ画面。
だけどヴァルキリアと距離が離れていた。
「いけない、ヴァルキリア。下がって!」
ジャイアント・キリングが叫ぶが、進撃をやめないヴァルキリア。
「勝てないんだよ、人はドラゴンに!」
いきなり現れたカナモリドラゴンと、アジ・ダハーカに挟まれたヴァルキリア。
オート戦闘で、ヴァルキリアが狙っているのはカナモリドラゴン。
レベルはヴァルキリアよりももちろん高い。
「させないわよ!」
挟まれたヴァルキリアは、あっという間に体力が減っていく。
それでも強気のヴァルキリアは、端から見て痛々しかった。
実際のダメージもあってリアルの結衣の顔が、苦痛でゆがむ。だけど目は前を向いていた。
「なによっ!あたしは絶対ひるまない!」
「余計なことするな、ノーキン。迷惑かけるなよ!」
「今助ける!」
K・シューターの文句と同時に、ジャイアント・キリングが急いでヴァルキリアの方へ加勢しに向かう。
しかし、カナモリドラゴンはジャイアント・キリングにスキルを使ってきた。
「『蔦の術』」
カナモリドラゴンのスキルだ、ジャイアント・キリングに緑色の蔦が向かっていく。
あっという間に緑色の蔦が、ジャイアント・キリングを包み込む。
だけどジャイアント・キリングは拳を構えてそのまま走ることができた。
「僕には効きません」
緑色の蔦がジャイアント・キリングを包み込んだ。
だけど、すぐにそれをブチ破ってカナモリドラゴンの背後をとった。
そのままカナモリドラゴンを殴り始めた。
「まあ、いいでしょう。残りは動きを封じましたから」
ナツナイトは蔦にまんまとはまっていた。当然ハルヒメの僕もだ。
K・シューターは遠隔攻撃だから全く影響はないようだ。
「どうやら、情報戦はこっちの方が上だな」とK・シューター。
ずっと遠隔攻撃をしていた。だけど顔は浮かない。
やはり金森会長を知っている有明高の人間は、戦うにはきつい相手だ。
「どういうこと?」
「ジャイアント・キリングの足元を見て見ろ。茶色のブーツを履いているだろ」
「うん」確かにジャイアント・キリングの足は茶色いブーツだ。
「あれは『大地系魔法』、つまり蔦とかの弱体スキルを無効化できるブーツなんだ」
「へー、そうなんだ」
「ストーリー報酬だぞ、俺がプレゼントしたんだ。そんなことよりヴァルキリアに回復!」
K・シューターに言われて、僕は「はい」ということなくすぐさま回復をしていた。
ヴァルキリアの体力が半分を切っていたし、回復が激しい。
どうやらアジ・ダハーカの攻撃力はかなり高い。
逆にカナモリドラゴンの方はダメージが低かった。
「ジャイアント・キリングはあれで無効化している、だけどリアルは話が別だ」
K・シューターがそう言うと、スマホ画面ではないリアルは別だった。
「た、助けてくれっ!」
それは地下に響く声。僕はすぐにリアルへ引き戻されていた。




