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あれから一週間後、僕は茶色のブレザーを着ていた。
晴海の葬式も終わって、僕には日常が戻っていた。僕は高二の学生だ。
有明高等学校、東京の第一次埋め立て事業の際に有明地区にできた高校。
海浜公園のある台場地区とは、歩いて十分ほどの距離にある隣り合った地区。
いつも通っている分厚い鉄板の門に囲まれた学校の壁を、横目で恨めしそうに見た。
鉄の壁はドラゴンを阻むための物。この学校にもドラゴンに備えてシェルターがあった。
周りの生徒は、みんな何も変わらずに登校していた。
晴海の死から、僕は無意識に人を避けるようになった。
今まで楽しかった世界が、楽しく感じられなかったから。
食べ物もおいしくない。
空気さえまずい。
楽しそうな生徒たちが疎ましい。
一人で苦しそうな顔で歩く僕は、晴海のピンク色のスマホを握り締めながら校舎の中に入っていた。
愛する人が目の前で殺された。
安らかな顔で眠る彼女に僕は何もできなかった。
肩を落として歩く僕は、玄関を抜けて教室へと目指す廊下の中。
その廊下に、僕と同じブレザーを着た一人の男がやってきた。
背が高く、日に焼けた小麦色の男は僕を見るなり睨みつけてくるような目を見せていた。
「おい、誉!」すぐさま力強く肩を掴んできた。
「弘明……ごめん」反射的で罪悪感にさいなまれて謝った。
「何がごめんだよ!」
明らかな苛立ちと怒りを僕にぶつけていた。僕は黙っているしかなかった。
彼の名は、『木田 弘明』。彼は僕と同じ年で幼なじみだ。
「晴ねえは、お前のせいで死んだんだぞ!」
弘明が言い放ったその言葉に、僕はうつむいているしかなかった。
言われるがままに、僕はなにも反抗ができなかったからだ。
弘明が叫んだことで、周りの注目を一気に集めた。
「なんで晴ねえは、お前なんかを選んだんだよ!」
ブレザーの胸ぐらを掴まれて、うつむく僕をゆすった弘明。
「……」
「黙っていないで答えろよ、誉!」
「……ごめん」
「謝って許されるかよ!」
「やめて!弘明」そんな時に弘明の背中から女の声がした。
僕は弘明の後ろをぼんやりと眺めると、同じブレザーを着てポニーテールの少女が腕を組んで睨んでいた。
声だけで誰か分かった。振り返った弘明が、心なしか怒りを収めたように見えた。
「結衣……けど誉のせいで……」
「誉は何も悪くないわ、悪いのはドラゴンよ。
むしろ、晴ねえの件はあたしたちの方に責任があるでしょ!」
「……分かったよ」
そう言いながら弘明は、ブレザーを掴んだ手を放して僕を突き飛ばした。
咳き込む僕は、苦しそうな顔で呼吸を整えていた。
見上げるように僕は弘明の後ろ姿を見ていた。
そのまま弘明は、僕の前から去っていった。
対照的に僕の方に近づいたのが、『結衣』と言われた少女。
活発そうな少女は、僕の口にハンカチを当てていた。
「大丈夫?晴ねえのことで弘明も相当荒れているから」
「大丈夫、平気だよ」なぜか僕は強がった。
彼女は、『蓼沼 結衣』。僕と弘明とは幼なじみだ。
僕と結衣と弘明は、同じ場所にかつていて、同じような場所に引っ越してきた。
心配そうな顔を浮かべた結衣は、しゃがみこんだ僕を見ていた。
「誉……今日休む?生徒会」言ってきた結衣の腕には『生徒会副会長』の腕章。
「もちろん、いくよ。行かない理由もないし」
「あたしに気を使うのね、誉らしいわ」
すると、僕はいつの間にかはにかんでいた。
結衣もまた、笑顔で僕の肩を叩いた。女子なのに意外と力があるな。
「気なんか使わないって……」
「じゃあ、放課後に生徒会室集合ね。金森会長は少し遅れて来るみたいだから!」
そう言いながら結衣は、やや大きめの声で僕にいってきた。
大きい声出さなくても、廊下だから問題なく聞こえる。むしろ声が響きすぎだ。
そんな結衣の太陽のような笑顔は、僕に少しだけ元気をくれた。




