1 ◆ 押し倒すのはOKで、噛み付くのはOUT
世界を終わらせないで下さい。
有栖川真梨花はそう言った。俺と彼女のほかは誰もいない生徒会室、扉の前に立つ彼女は、明かり取りの窓から差し込む夏の強い日差しに背後から照らされている。
逆光の中、暗い影のようになって立ちはだかる彼女を呆然と見上げながら、俺はふと、こんな光景を以前にも見たことがあるような気がした。
逆光、せっぱ詰まった様子でたたずむ有栖川、そしてそんな彼女を前にしてどうしようもなく戸惑っている俺。
いつの出来事だったろうかと考えた途端、そんな記憶がどこにも見当たらないことに気付くが、それでも既視感は俺にいやらしくまとわりついて離れない。
いや、でもそういえば、今はのん気にそんなことに思い悩んでいる場合か?
俺と有栖川は今現在、鳥の羽根らしきもの(有栖川曰く『人の体を傷つけるような効果はない』らしいが、刺さるとてきめんに気絶してしまうところから考えてどうやら危険物)を俺たちに投げつけてくる謎の金髪美女から逃げている最中なのである。
そして今、彼女は何と言った? 『世界を終わらせないで下さい』、そう言ったのだ。教科書を忘れてしまったので貸して下さい、とか、急な用事ができたので今日の掃除を代わってください、ではない。
それなら俺もまだ気軽に「うん、いいよ」と答えられただろう。しかし彼女の先ほどのお願いはどうにも突飛かつ壮大すぎて、容易にうんともすんとも答えられそうにない。
大体、なぜ俺にそんなことを頼むんだ?
俺は欠点のたった一つも見当たらない完璧超人の有栖川に比べれば、長所のたった一つも見当たらないどこにでもいる平凡な男子高校生でしかない。たこ焼きを焼くのが上手いことを長所と見なしていいというのなら、まだ話は別だけど。
そもそも『世界を終わらせないで下さい』ってどういう意味だ? 俺ごときが「うん、いいよ」と答えたくらいで食い止められる“世界の終わり”って、一体どんだけしょぼいんだよ。っていうか、世界がそんなに簡単に終わったり始まったりしてたまるか。
思った以上に頭が混乱しているのか、とりとめもなくそんなことを考えながら黙り込んでいる俺を、有栖川は今も睨みつけるようにして見つめている。
「あの……それは、一体どういう意味?」
喉の奥から搾り出すようにして、俺はやっと答える。
「言葉通りの意味です」
「言葉通りの、意味」
「はい。まだ誰も気付いている人間はいないのかもしれませんが、恐らくこのままでは世界は終わってしまいます、だから周防くんが」
「ちょ、ちょ、ちょっと待った」
右手を上げて、彼女の発言を一旦制した。明日の天気の話をするくらいの自然さで、有栖川は『世界の終わり』に関する会話を続行しようとしている。
「あの……有栖川さんの言う世界の終わりって、つまり地球に隕石が落ちてきて人類が滅亡するとか、そういうこと?」
「……いえ、そのような局所的な現象ではなく、もっと大規模な……具体的に、どのように世界が終わるのかは残念ながらわかりません、それを観測したことがある者はこの世界にまだ存在しませんから。ただ、おそらく、昨夜遅くに月の自転速度が修正されたことによる大規模な“歪み”の影響で太陽内部の水素が急激に減少し」
「あの! あのさ、仮に」
「はい?」
理解不能な言葉を並べ連ねはじめた有栖川の言葉を再び遮って、俺は言う。
「仮に、世界が終わるとしてもだよ。もしそうだとしても、それを俺に頼むっていうのはちょっとお門違いっていうか……そういう大それた話は、よくわかんないけど例えば警察とかNASA」
「違うんです……駄目なんです!」
今度は、有栖川が俺の言葉を遮る番だった。俺が彼女の言葉を全く理解していないらしいことを悲しむように二度ほど首をふってから、有栖川は言った。
「周防くんじゃなきゃ、駄目なんです」
「な……なんで?」
「何で、って」
ついと俺から目をそらし、彼女は急に言い淀む。眉根を寄せて悩むような表情をしたのち、やがて意を決したように突然こちらをキッと睨みつけ、有栖川は言った。
「恐らく、全てあなたの望みに即して起こっていることだからです」
「……あなたの、望みに即して起こっている?」
彼女の言葉をただ復唱してみせる俺。そんな俺をみる有栖川の表情は、なぜか気まずそうにひきつって見える。
まるで、伝えたくないと思っていたことをうっかり打ち明けてしまった、とでもいった様子だ。
「それは、一体どういう……」
数分前にしたのと同じ質問を、俺はまた繰り返そうとしていた。
その時だった。
誰かの手が俺の手首の辺りをつかみ、ぐい、と引いた。
背後に誰かがいることを認識すると同時に、悪寒が背筋を駆け上がる。
その直後、俺はおかしなことに気付いた。その誰かは、俺の下方から俺の手を引いているのだ。床に座り込んでいる俺の手を、そのさらに下から。
馬鹿な、そんなことができるはずがない。恐怖と強烈な違和感に一度に襲われた俺は反射的に手を振りほどこうとするが、しかしその誰かはなおも手を離そうとしない。
それどころかさらに強い力で下に向かって俺を引っ張ろうとしていることに気付き、俺は有栖川に助けを求めようと彼女の方を見た。
しかし――いない、有栖川がどこにもいない。
先ほどまでそこに立っていたはずの彼女が、煙のように消えうせている。それどころか、彼女の背後に見えていた生徒会室の扉もない。誰かが唐突にそこにあった何もかもをインクで塗りつぶしてしまったかのように、俺の眼前にはただ真っ白い世界が広がっている。
どういうことだ?
ぽかんと口を開けたまま、俺は左右を見回す。
床も染み一つない白色に塗りつぶされていることに気付き、平衡感覚が狂ってぐらりとめまいに襲われた瞬間、魔法陣だけがいまだ確かに俺の足元にあることに気付いた。
黒い線で描かれていたはずのそれは、なぜか光がプリズムするように次々と色を変えながらめらめらと輝いている。
確か、有栖川は天使避けのコードとか――……
「周防くん!」
突然、すぐそばで有栖川の声が聞こえた。彼女の姿はどこにも見えないというのに、確かに俺の耳元で彼女が名前を呼んでいる。
「あ、有栖川さん? これって、一体」
「……失礼します!」
情けなく声を裏返しながら問いかける俺を無視して、有栖川が唐突に叫ぶ。
失礼しますって――そんな脈絡もなく謝罪されても一体どうリアクションしていいのやら、だいたい、こんな三百六十度真っ白の状況だし。
戸惑う俺を置いてけぼりにして、次の瞬間、有栖川は俺に何かをした。
「痛っ」
右腕の上腕部に走った鈍い痛み。皮膚を何か固いもので挟まれたような、そんな感触がした。思わず、痛みと同時に固く両目を閉じる。
「周防くん、目を開けて」
有栖川が囁く。言うままに瞼を開くと、目の前に彼女の姿が見えた。
「……あ、居た」
「はい、ここにいます……ちゃんと、そばにいます」
安堵のあまりか、無意識に漏れた俺のアホな呟きに、有栖川は微笑んでそう答える。彼女もまた安心したような様子だ。
いつのまにか、有栖川はその長い髪が俺の顔にかかるほど近くにいた。座り込む俺の両肩に手を置いて、彼女は俺に覆いかぶさるようにしている。どうやら、さっきまで肩を揺さぶりながら俺に声をかけていたらしい。
「有栖川さん、今のって……」
「周防くんのシャツ」
「え?」
「右の二の腕のところが、切れてしまっているでしょう? さきほどの羽根が掠めて切れたんだと思います。皮膚にも、目に見える傷はありませんが、恐らくごく微かに触れたのでしょう」
見てみると、彼女の言うとおり、制服のシャツの右二の腕のあたりが気持ちよくばっさりと切れていた。
「……本当だ」
「あの羽根には、情報を書き換える力があります。あれで人の身体を傷つけることはできませんが、わずかでも体内に侵入させることができれば、その人の意識に何かしらの干渉を行なえるんです。掠めた程度だったので、記憶の改変ほどの大規模な干渉は不可能だったようですが……。ごめんなさい、私の目が行き届かなかったばかりに」
「いや、別に謝らなくても……つまり、羽根が掠めた傷のせいで、さっき俺は意識に……『干渉』をされてたってこと?」
「はい。意識に干渉することで、周防くんの現在の正確な位置を探ろうとしていたのでしょう。おそらく、今のことでほぼ居場所を特定されてしまったと思います。ここはもう危険です、どこか別の場所に行きましょう」
「でも……行くったってどこに?」
「体内に侵入した羽根はさきほど除去しましたから、これ以上の干渉を行なうことはできません。それから、周防くんの身体には天使避けのコードが刻んでありますから、メリイにはもうあなたの姿が……」
有栖川がそこまで言いかけた時、彼女の肩越しに、入り口の扉がゆっくりと開くのを俺は見た。
「ちょこまかと、無駄な足掻きを」
流暢な日本語で、再びあの天使が冷酷に言い放つ声が、薄暗い生徒会室に響く。
「有栖川さん、後ろ!」
◇ ◆ ◇
「心臓、止まるかと思った……」
県立西高へと続く坂道、毎日往復しているその通学路を、俺と有栖川は自転車に二人乗りして下っていた。
「周防くんに、あらかじめコードを刻んでおいて本当によかったです……」
自転車は俺のものなので、ペダルを踏んでいるのも当然俺である。有栖川は荷台に腰かけ、実に遠慮がちに俺の腰あたりを両手でつかみながら、安堵したようにそう呟いた。
生徒会室にメリイが入ってきた瞬間、俺はもう全てが終わったと思った。具体的に何がどうなってしまうのかはよくわからなかったが、とにかくあの天使に捕まれば再びあのただただ真っ白い空間に放り出されて、二度とそこから出てはこられないのではないかという気がしたのだ。
俺たちの姿を目にした途端、あいつはすぐさま例の羽根を投げつけてくるに違いない。そう思って、無駄な抵抗と知りながらとっさに顔を庇うように両腕を上げた俺を前にして、しかしメリイは全く予想外の行動を取った。何をするわけでもなく、相変わらずの無表情でただ俺と有栖川のいるあたりを見つめはじめたのである。
わずかに眉のあたりが顰められていたので、苛立っているか、あるいは戸惑っているかのようにも見えた。俺たちを見ているにしては視線の行く先がもう少し下方に向いているような気がして不思議に思っていると、有栖川が先ほどと同じ姿勢のまま小さな声で言った。
「メリイには、見えていません。あなたの姿も、私の姿も」
「え?」
「恐らく、床に描かれているコードを見ているのだと思います。コードは本来門外不出の機密事項で、こんな場所にあるはずのないものですから」
彼女のいうとおり、メリイは俺が尻に敷いている魔法陣のようなもの――これが彼女のいう“コード”なのだろう――を見つめているようだった。メリイはその一点を凝視したまま、何事かぶつぶつと呟いている。日本語で、「なんて恐ろしいことを」などという声が、微かに聞こえた気がした。
メリイが入り口から離れたら、この部屋を出ましょう――そう言う有栖川に促され、俺たちはそっとその場所から立ち上がり、張り付くように壁に身を寄せた。
メリイはしばらく床を見つめていたが、やがて室内に数歩入ってコードの側にしゃがみこみ、そっとなぞるようにそれに手で触れる。
その隙をつき、俺たちは生徒会室を脱出した。
「そういえば、周防くんって電車通学じゃありませんでしたか?」
「え? いや、時々自転車で来ることもあるんだ。帰りは下り坂だから、こっちのほうが楽だしさ」
再び、有栖川がそんなことを知っている事に驚きながら俺は答える。
この坂道を自転車で登るなんていうハードな運動を朝っぱらからしても構わないという気になった奇特な日にだけ、俺は自転車で学校に通っている。行きは汗だくになるほどキツいが、帰りはペダルを漕ぐ必要すらないし、風を切って坂を滑降するのはとても気持ちがいい。
「これから、どこに行こうか? あいつ、そのうち外まで追ってくるんじゃ……」
「地主神社に行きましょう」
「地主神社?」
「はい。あそこは特殊な力場……天使が侵入しずらい場所なんです。コードを用いて、擬似的に生徒会室にも同じような空間を作り出そうとしたのですが……やはり一朝一夕には難しいようですね」
「はあ」
西高は切り開かれた山に沿って建てられた住宅街の中にあり、商店の並ぶ駅前の通りはこの山を下りた先にある。校門前の長い一本道を下ると二手に分かれた道に突き当たり、右手の道は住宅街、左手の道は駅前へと続いている。
地主神社は駅前の通りに面しているため、俺は左手の道にハンドルを切った。カーブを曲がる際にぐらりと自転車が傾き、それと同時に有栖川の腕がさっきよりも強く俺の腰に回される。身体が投げ出されるのではと不安になったようだ。
一瞬、変に意識してしまいそうになったが、今はメリイから逃げる事が最優先だと邪まな気持ちは振り払った。
「あのさ……色々、聞きたいことがあるんだけど」
「はい」
頭の中を整理しつつ、質問の内容を考える。有栖川はぽつぽつとこの状況の説明らしい話をしてくれているが、それでも未だに訳が分からない事だらけで、何から聞けばいいのかすらよくわからなかった。
「さっき、もしかして……俺のこと噛んだ?」
「えっ」
逃げている最中、先ほど痛みの走った右の二の腕をちらりと確かめてみたら、そこに歯並びの良い綺麗な歯型がしっかりと痕になって残っているのに気付いたのだ。
後になって思えば、あの真っ白い空間で感じたのは間違いなく誰かに”噛みつかれた”感触だった。一体いつのことだったかもう思い出せないが、小さい頃ケンカか何かをして誰かに噛みつかれた時も、同じような痛みを感じたような気がする。
しかし、言ってから、今聞くようなことじゃなかったかもしれないと気付いて少し後悔した。
「あっ、あの……すでに発動してしまった抗原を鎮めるためには、抗体を注入するしかなくてっ……ああするしか、他に方法が……」
平然と俺に馬乗りになり、シャツを半分脱がせまでした有栖川のことだから、また冷静な態度で何かわけのわからない説明をされるに違いないと思っていたら、彼女は思いのほか動揺した様子でそう答えた。後ろにいるので顔は見えないが、きっと赤面しているに違いない。
押し倒すのはOKで、噛み付くのはOUTなのか? 彼女が一体どこで“恥ずかしい”の線引きをしているのか、いまいちよくわからない。もしかしたら、一見落ち着き払っているように見えた有栖川も実はかなり動揺していて、俺を押し倒した時点では恥の感覚もすっかりマヒしていたのかもしれない。
「あ、いや……ごめん、変なこと聞いて」
「い、いえ。……あの、痛いですか? 噛んだところ」
「全然大丈夫!気にしないで」
実はまだ少しひりひりとするのだが、彼女があまりに申し訳なさそうに聞くので俺は必死にはぐらかした。
「あの、えーと……そうだ。俺たち、そもそもなんで追われてるの?」
話題を変えようと、新しい質問をぶつけてみる。考えてみれば、噛んだ噛まないよりもこちらのほうがよっぽど重要な質問だ。
「それは……たぶん、私が周防くんに話してはいけないことを話してしまったから」
「話してはいけないこと?」
「はい……例えば、天使が何であるか、とか、ここ最近の変異についてだとか」
「……」
天使が何であるか? ここ最近の変異?
「そんな話……俺、聞いたっけ?」
「お話したんです、以前。昨日と、それから一週間前にも。周防くんは覚えていないと思いますが」
「俺が全部忘れちゃってる、ってこと?」
「私が周防くんにそれらの話をした直後、メリイが現れて、あなたの身体に例の羽根を埋め込んだんです。方法は他にもいろいろとありますが、天使には人の記憶を改変……都合の悪い記憶を消して、代わりに偽の記憶を上書きすることができるんです」
「それは……一体、何のために?」
「この世界の秩序を守るためです、本来は」
どこか含みを持たせた言い方で、彼女は答えた。相変わらず、いちいち話のスケールがでかい。
「世界の秩序、って……人の記憶を消すことと、一体なんの関係が?」
「それを説明すると、少し話が長くなってしまうのですが……」
彼女がそう言った時、 急に空が暗くなった。夕立の前、どこからともなくやってきた黒い雨雲が地面に濃い影を落とす時のように、自転車を漕ぐ俺と有栖川をすっぽりと覆ってしまうような影が、背後からすっと迫るように近づいてきたのである。
雨が降るのか。厄介だなと感じつつそう思ったとき、俺はけして聞きたくはないと思っていた音を聞いた。
バサバサバサッ。無機質で乾いた、そして、聞き逃しようもないほどに大きな羽ずれの音だ。
咄嗟にブレーキレバーを引き、空を見上げる。眼前に広がるその光景が何を意味するのか、俺は瞬時には理解する事ができなかった。
金色が空を覆っている、そう思った。俺の視界いっぱいに、ゆるやかな凹凸のある金色の壁が広がっていたのである。
ゆらりと壁の表面が蠢くと同時に、金色は所々めらめらと輝いたり、陰の中に沈んで澱んだ色彩に変わったりする。胸のあたりがびりびりとするような感覚があって、そのすぐあとに、自分がこの光景を美しいと感じているらしいことに気付いた。あまりの美しさに驚いて、言わば知らないうちに心を乱されるほど感動していたのだ。
何だ、あれ? 当たり前の疑問は、その感動のあとにやってきた。バサッと再び音がして、壁が一度小さく折り畳まれ、再び広げられて俺たちの頭の上を通り過ぎていったとき、俺はそれが例の天使の翼であること、それから自分の思っていたほど巨大なものではないらしいことに気付いた。真上に位置していた翼がたまたま視界を全て覆ってしまっていたために、空一面を覆ってしまうほどの大きさだと勘違いしたらしい。
しかし、思っていたより小さいと言っても、メリイの翼は俺が勝手に想像していた”天使の翼”に比べれば、信じられないくらいにでかい。メリイは今、地上から二十メートルほどの高さを飛んでいるが、それをここから見上げても、翼幅はおそらく優に十メートルは超えているように見える。ちょっとした小型飛行機が、街中を超低空飛行しているといったような眺めだ。
畳んで背中の後ろに隠せるような大きさの翼ではないし、どう考えても、先ほど廊下で遭遇した時にはメリイの背にはあんなものは生えていなかったと思う。となると、あれは着脱式の翼なのか? 都合よくにょきにょき生えてきたり、ぽろっと取れたりするわけか? なんだそれ、恐えぇ。俺の想像していたかわいらしい天使像から、さらに遠ざかった気がする。
「でっけー……」
「……私たちには、気付いていないようですね。多分、神社に向かっているのでしょう」
「神社に?」
「昨日、襲われたときも私たちは神社にいたんです。何かあればあそこに逃げ込むに違いないと、読まれてしまっているんだと思います」
「あれ? でもさっき確か、神社の中は安全だって……」
「神社の敷地内ならどこでも安全だというわけではないんです。本殿のあたりまで行かないと、完全に天使を排除することはできません。昨日は、閉門の時間が過ぎてしまってもう本殿には近寄れなかったので……」
ん? つまり昨日の閉門後の時間、俺と有栖川は神社にいたってことなのか? 俺はその頃、一人バイトに勤しんでいたはずなんだが。
「一旦、どこか建物の中に入りましょう。私達の姿は見えていないはずですから、空を飛んでいる彼女に発見されることはないと思いますが、それでも屋根のあるところにいるほうが安全ですから」
有栖川は言う。俺たちは駅前まで自転車を走らせ、通りの中でも一番大きいスーパーに、ちょっと小腹が空いたので菓子でも買いに寄っただけだという顔をして入店した。
長期間の放置のうえ、中途半端なところでの投稿になってしまい申しわけありません。
コンスタントに投稿を続けられるよう、努力したいと思います;;