幸運のコイン
製作時間:三十分くらい
ジャンル:コメディ
――コインの女神はいつだって正しい
ターゲット捕捉、対象は、世界的に有名な大金持ちの女性。対象は、VIPしか入れないラウンジでティータイムを、定刻通りに始めている。今回の作戦は、その女性に毒を盛ることであった。気の毒なことだが、忠実に任務をこなすしかない。
俺は事前に用意しておいた毒入りの角砂糖を彼女のティーセットの中に忍び込ませる必要がある。
俺は彼女の席の近くで待機する。タイミングが肝心だ。彼女が、紅茶に砂糖を入れるタイミング、そこを狙う。
彼女の元にティーセットが届く。さぁ、始めようか。俺の座る席は対象を座る席をはさんでトイレがある。俺はトイレに行くふりをしながら、彼女の席に近づく。あとは、相手の意識の隙を狙って入れるだけだ。俺はどうも運が悪い、だが今回くらい、何事もなく終わってほしいものだ。
ティーセットの砂糖入れを彼女が開ける。今……ちょうどよく落ちるように調整しておいたグラスが落ちるはずだ――そのはずだった。グラスが落ちるとこまではまだよかった、しかし、それを驚異的な反射神経でキャッチする店員、それは違うだろ!
結果、対象はその事態に気づくことなく着々とお茶を飲む準備を進めている、まずい。いや、まだだ、少し強引になるが。やりようはある。
俺は砂糖を持っていない方の手でコインを弾く、気を引くために他の客の机にコインを当て、音をだす。これなら誰かがコインを落としたようにしか見えないだろう。
弾かれたコインは、しかしくしゃみをした客に遮られる!? そんなことがあってたまるか、いや待て問題ない、今のくしゃみで彼女も気がひかれたはずだ。
そう思って彼女の方を見て、意識がそれているのを確認する、今だ。このコンマ数秒の間に色々起きた気がするが、今度こそ……俺は彼女が掴もうとした砂糖を、圧倒的な早業で入れ替える。そう、誰も俺が入れ替えたことには気づいていない。
勝った! 彼女は、毒入り砂糖を紅茶に入れた。ポトン、何故かそんな音が聞こえる。それは、対象の紅茶に、コインが入った音だった。は?
「――あら、このコインは私に何か伝えに来たのかしら?」
コインは俺が見ない間に不可解なルートを通って対象の紅茶にまで落ちてきたのだ。
「私の勝ちね。腐食したコインが教えてくれたもの。“私が頼んだ”暗殺が止められたって。私、やっぱり私は世界で一番幸運らしいわね」
彼女はこちらを見ない。しかし、今回ばかりは俺の運のせいではなかったらしい。
お題:『世界一不運なスパイの、優雅なティータイム』
【設定】
ある高級ホテルのラウンジ。ターゲットに毒を盛る任務を帯びた、超エリート(のつもりの自称)スパイ。しかし、彼の周りでは信じられないほどの不運(ピタゴラスイッチ的な連鎖)が起き続ける。




