いつも通りで
製作時間:三十分くらい
ジャンル:終末モノ
――別に、特別でなくたって構わない
誰もいない空間、時刻は午後二十時。いつもなら、値引きシールを求めて客がそこそこいるはずの空間は、今は俺といつもレジ打ちをしているお姉さんだけ。
「いらっしゃいませ」
お姉さんは、いつも通りの定型文を放つ。俺はいつも通り、無言を貫こうと思った。それが、ある種のマナーのような気がして、やっぱり、いつも通りを貫きたかっただけな気がして。
お姉さんは、静かな空間にバーコードの読み込み音を響かせる。こんな時でも、電気はついているものなのだな。とふと思って、やっぱり聞くことにした。
「1180円です。あ、袋はつけますか?」
「……お姉さんはどうして、こんな日まで仕事しているんですか? あ、袋の分の代金持ってきてないのでいらないです」
「じゃあ、サービスです。どうせ最後の日ですしね」
お姉さんは、そう言いながら、開かれた窓の先を見た。そこに広がったているのは、この時間にしては明るすぎる空。空との摩擦で真っ赤に染まった大きな石があと数時間くらいで到達するところだった。
「それで、どうして仕事してるか……ですか」
そう言いながら、慣れた手つきで商品を袋に詰める。一つだけだから、すぐに終わる。
「シフトが入っていたもので。私、最後までいつも通りでありたいタイプなんですよ。昔やった診断でもそうでした」
“地球最後の日には何をする?”
そんなありがちな診断が実現する日が来るなんてきっとその時のお姉さんは思わなかっただろうな。何せ俺は、その診断通りに動く人がいるのだなと感心しているくらいだ。
「そういう貴方は?」
「今日は実家で飼ってた犬の命日なんですよ。今年で三年目です」
俺は、そう言いながらペットフードとおもちゃが入った袋を眺める。
「なんだ、私と同じタイプじゃないですか」
お姉さんは、そうくすくすと笑う。地球最後の日なんて嘘みたいな、楽しそうな笑顔。
でも、確かに俺も同じタイプだったらしい。でもそれ以上に、
「あいつに吠えられた嫌なので」
「確かに、もうすぐ会っちゃいますもんね」
「どうでしょう? 多分あっちに行く人多いですよ?」
「確かに地獄は多そうです」
「なんで地獄確定何ですか?」
俺たちはそんな言い合いをして、笑いあう。今まで話したこともなかったのに、こんなに気が合うものなんだな。それとも、最後の日だからだろうか。
「私も行ってもいいですか?」
「さぼりは良くないですよ」
「最後くらいやっぱり、いつもしないこともしなきゃ」
さっきと言ってること、違うや。
お題:『世界最後の日、スーパーのレジにて』
【設定】
巨大隕石の衝突まであと数時間。世界がパニックに陥る中、なぜか通常営業を続けているスーパーマーケット。




