24話 転位
第二王子は動かなかった。
少なくとも、表では。
だが三大貴族の会合の翌日。
議会に一通の正式請願が提出される。
「王家財務監査の再審査」
提出者は第二王子。
名目は透明性の確保。
文言は穏やか。
だが意味は明白だった。
第一王子は報告を受けても声を荒げない。
「想定内だ」
低く言う。
だが指先がわずかに硬い。
「兄上」
第二王子は私室で対面する。
二人きり。
王位継承者と、その次位。
「三家が動いた」
第一王子は言う。
「お前が裏で煽ったか」
第二王子は否定しない。
肯定もしない。
「均衡が崩れれば、王家も傾く」
淡々と。
「一年後だ」
第一王子は言う。
「婚姻は可能」
まだそこに賭けている。
「その前に」
第二王子は静かに返す。
「議会が動けばどうなる」
沈黙。
短いが重い。
「兄上は強い」
第二王子は続ける。
「だが王位は血だけでは決まらぬ」
能力。
支持。
均衡。
第一王子の目が細くなる。
「お前が欲しいのか」
「王家が崩れぬことが最優先」
それは建前。
だが嘘ではない。
数日後。
王城にて非公開の継承協議が開かれる。
出席者:
王族重臣。
三大貴族代表。
議会長。
議題は明確。
「財務疑義と王位継承の安定性」
証拠はすでに共有されている。
宝石商。
国外口座。
側近の送金。
言い逃れは難しい。
第一王子は弁明する。
「国家のための投資だ」
声は落ち着いている。
論理も破綻していない。
だが。
三大貴族は沈黙を保つ。
支持も否定もせず。
それが最も重い。
議会長が言う。
「信頼の問題です」
一言。
それで十分だった。
協議は結論を出さない。
だが方向は見えた。
「再評価」
それは事実上の凍結。
王城を出た後。
第二王子は夜風の中で立ち止まる。
「兄上は、もう戻れぬ」
低い呟き。
ヴァルディエリ家。
報告が届く。
「継承順位の再評価が正式議題に」
当主が言う。
重いが、揺れていない。
ビアンカが息を吐く。
「……動きました」
私は静かに答える。
「まだ終わりではない」
だが確実に傾いた。
第一王子はまだ失脚していない。
だが王位は“確定”ではなくなった。
均衡は崩れ。
継承は再審査。
第二王子は表に立ち始めた。
そして私は知っている。
一年後の婚姻など、もはや意味を失いつつある。
王位が揺らげば、婚姻の話も消える。
夜は静かだ。
だが王家の中心は、確実に動いている。




