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シン型神話物語〜レベル1のクソ雑魚ソシャゲ勇者、現代で神話を攻略する〜  作者: 独駝海栗坊
第二章「レベル1のクソ雑魚ソシャゲ勇者だけどレベル1で逆天竜魔神王・レベル200に挑むことになった、誰か助けて(涙)」
21/22

2-1-8「それは兄・我道心牙からの最期通告であった」

「結局は引き分けか」

 心牙は自室のベッドサイドに腰掛けてスマホの画面を眺めながら独り言ちする。

 心牙、ヴィヴィアン、ピッキオーネンの三人で挑んだ対ファロゥマディン戦の決戦クエストは、最終的に心牙が第四の鍵・ムスペルグリズルの杭をファロゥマディンの顔面に直撃させたは良かったものの、ファロゥマディンもまた心牙の心臓を自らの右手で貫き、両者全滅による引き分けという結果に終わった。

 クエストを終えた心牙は普通に自宅に帰宅し、風呂に入って夕飯を妹たちと食べて自室で寛いでいる最中である。

 少しばかり心臓が痛むが、その程度は心牙にとって日常茶飯事だった。

 心牙の背中を背もたれにするように、妹の雛泰と雛凪がそれぞれ寄り掛かって本を読んでいる。双子はよくこうして兄の心牙の部屋で体を寄せて来る。二人の体温が心地よく心牙も悪い気はしないので今のように多くの場合そのままにしていた。

 スマホの画面にはヴィヴィアンとピッキオーネンから誘われてログインしている勇者ゲームのチャットルーム画面が表示されている。

 チャットの内容は基本的に今日の決闘クエストの反省会だが、女勇者二人はどうやら心牙に強く感謝しているようだった。

 ファロゥマディンもチャットに参加しているが、チャットのやり方が分からないのか、意味不明な文字列を送ったり消したりしているのでほとんど会話にならない。

『本当にありがとうございました。貴方のお力添えがなければ、あそこまで善戦はしていませんでした』

 とヴィヴィアン。それに対していいね!のスタンプを連打するピッキオーネン。

『俺もあそこまで華麗な連携は始めてみたよ。戦えたのは二人あってのことだ』

 と心牙は返した。

『(笑顔のスタンプ)わたしと姫様であれば造作もない!が、お前もよくやった!(いいね!のスタンプ)』

 とピッキオーネン。

 二人とも出身国も母国語も違う筈だが、勇者ゲームのチャットはかなり精確に翻訳出来ているようだった。

 そういえば欧州と日本とでは時差がかなりある筈だが、二人はその辺り大丈夫なのだろうか、と心牙が考えを巡らせた時。

「え、何々!?カノジョさん!?」

 気づけば我道家次女の雛泰が心牙の右肩から顔を覗かせて心牙のスマホの画面を見ていた。

 心牙は咄嗟に右手で雛泰の額を掴む。そのまま指先に力を込めてアイアンクローを発動。同じシャンプーとリンスを使っている筈なのにそこはかとなくいい香りがする雛泰の頭部を圧迫する。

「ギャーッ!ギブギブ!」

 雛泰が痛みにたまらず叫び声を上げ、平手でベッドを叩いて降参を申告する。

 兄妹であってもお互いの知られたくないプライベートには干渉しない、が我道家の家訓の一つ。それを破った者には容赦のない制裁を。だから兄の心牙は妹たちがそれぞれ何の本を読んでいるかは知らない。勇者ゲームのアプリは基本的に対象勇者でなければ無関係なアプリに見えるよう細工をされており、チャットの場合はコミュニケーション用アプリに偽装されているが、それとは別である。

()()()()()()!いたいよ〜!」

 アイアンクローから解放された雛泰は、わざとらしくかわいこ妹ぶって双子の姉である雛凪の太ももに顔を埋める。

「たーちゃん…、めっ!にぃ…さま、困らせ、ちゃ」

 軽度の吃音により辿々しく注意する双子の姉の雛凪だが、基本的に兄に似て妹に甘いので、頭を撫でて慰めている様子が心牙には容易に想像出来た。

「言っとくが、カノジョとかじゃないぞ。」

 心牙から発せられた「カノジョ」、という言葉に雛凪の頭が僅かに揺れる。雛凪は表にこそほとんど出さないが割と嫉妬深い。微かに揺れた髪から広がる同じシャンプーとリンスを使っている筈なのに確かに違うDNAが心牙の鼻腔をくすぐる。

 心牙が再びチャット画面に視線と思考を移すと、妹たちと戯れている間にピッキオーネンとヴィヴィアン姫の二人は既に他の話題に移っていた。

 曰く、「普段ならああいう決闘はしない」だの「奇妙な高揚感があった」だのといった内容だ。

 心牙も何か引っ掛かるものがあったのでチャットを続ける。

『俺も好戦的になっていた気がする。どう考えても、リスク高過ぎてやらないだろ、あんなクエスト』

 事実、勇者ポイントは貰えたが、ファロゥマディンへの命令権は得られず、三人ともライフポイントを一つ失っている。結果でいえば大損であり、レベル差から考えても何故戦おうと思ったのか今となっては心牙自身も不思議だった。ヴィヴィアン姫のマイルームで勇者三人だけで話し合いをした時から変だった気がするな、と心牙は思い返す。

『それに関しては私のほうからご説明を』

 突然、何者かがチャットルームにログインしてきた。チャットに表示されている文字はキラキラと輝いており、アイコンは三日月と弓矢のレリーフ調のもの。そして“神々”であることを示す特殊なフレームが付いている。

『アルアテルミス様!?』

 ヴィヴィアン姫が驚いたような文面をチャットする。ピッキオーネンは……本当に驚いて誤入力したのか意味不明な文字列を送って即座に消していた。ファロゥマディンは『あ』とだけ送っている。

『私は月明かりにして狩りの名手、乙女の守護者にして森の主。ヴィヴィアン姫のサポーターの4代目狩猟月光アルアテルミスです』

 心牙の頭の片隅にイメージ映像が投映される。満月色のロングヘアを靡かせた見目麗しい美女が、弓に矢を番え構えている姿だ。ただし、胸から腹にかけて左右3対ずつ6つの乳房がたわわに実っていた。6つの乳首を隠すように6つの緑の葉が並び、陰部には緑の葉が生茂っている。

 心牙はこの女神改め痴女にどう対応すべきか迷い沈黙した。それは見知らぬ神がログインすることで発動する勇者ゲームのチャットの機能だ。性欲などより困惑が勝り心牙は眉根を寄せる。

『ヴィヴィアン姫の“祈り”を受けまして、それに応えたく思い、どうすれば良いかと思案している時にかのファロゥマディンからのクエストの誘いを受けまして』

 心牙の思案を他所に、アルアテルミスと名乗った痴女神がチャットを続ける。

『討伐クエスト、すなわち狩りであれば私の権能で狩猟本能を増幅させて、ヴィヴィアン姫の“祈り”を成就出来るかもしれないと』

『ちょっと待て』

 心牙は聞き捨てならない事を読んだ気がした。あまりに不意だったから、ふらっと顔に出ているんじゃないかと考えて右手で顔に触れる。表情が大きく変わった様子も双子が何かに気付いた様子もない。

『クエスト以外での神の祷り手(プレイヤー)への直接干渉は原則禁止じゃなかったか?』

 本来神々のチカラをもってすれば人間など塵芥に等しい。手の平に乗せた蟻のように簡単に生殺与奪権を握ってしまう。故に勇者ゲームに祷らざるもの(ノンプレイヤー)として参加している神々には厳しい制限がついている。

『えぇ。なので、以前ヴィヴィアン姫に贈ったアロマのバフ効果を一時的にブーストさせて狩猟本能と闘争本能を高めるよう仕向けました。問題になるような行動ではありません』

『そう、問題はない』

 新たな神がチャットルームに入ってきて相槌を打つ。アイコンは黒い丸、ただそれだけだ。

 心牙に投映されたイメージは、フードを被り外套を羽織った人のシルエット、あるいは空間にポッカリと空いた超長髪(スーパーロング)の女性の形をした洞窟のような姿。頭部の目に相当する部分だけ、月明かりのような光が灯っている。

『わたしは暗黒界の主にして地底の女王、原初の闇にして始原の幽冥。暗黒魔神王エレボバス、2代目。ピッキオーネンのサポーター。故あって馳せ参じた(ガッツポーズのスタンプ)』

『エレボバスひさびさ』

 エレボバスと名乗る神の登場にファロゥマディンがやっと意味の通じる文字列を表示させる。

『ファリファーはチャットに不慣れよ。大目にみて(ウィンクしているスタンプ)』

 そうチャットするエレボバスはかなり手慣れた様子だった。

『わたしたちサポーターが出来ることはあくまで勇者の意志を尊重し、その応援をすることだけ。松明と火種を用意することは出来ても、火を灯し暗がりの荒野に進むか薪として暖をとるか何もせずにいるかは勇者の決意による(炎のスタンプ)』

『そうのとおり』

『言いたいことはある程度分かったが、ヴィヴィアンは何を祈ったんだ?』

 心牙の問いに、今度は誰も答えなかった。代わりに不敬だぞ、とでも言いたいのかピッキオーネンが怒りのスタンプと注意のスタンプを送っている。

『お恥ずかしい話なのですが』

 少し間を空けてヴィヴィアン姫がチャットを送る。

『何を祈ったかはよく覚えておりませんの』

 再びしばしの沈黙。心牙がストレートに「覚えていないとはどういうことか」と聞こうとした時

『私が受信した祈りは「迷い」でした』

 アルアテルミスが答えた。

『「迷い」の元であるファロゥマディン殿と対峙すれば、少しは答えが得られるのでは、と思いまして』

『ヴィヴィアン姫は霊媒体質だから、わたしたちに祈りが届きやすい。純粋な祈りなら、尚更』

『じゅんすい祈りよくひびく』

 神々が口々?にそうチャットする。

(純粋な祈り、か)

 心牙には少しばかり心当たりがあった。

 「あの日」……心牙は確かに神に祈った。そして()()()()()()()()()()()信仰を捨てた。

(祈りが、神に届いたから?)

 「あの日」の忌まわしい記憶が灰と炎と黒煙と共に染み出してむせる。

『ヴィヴィアン姫、少しは迷い晴れましたか?』

『えぇ!お陰様で!』

 心牙が軽く頭を振って思考をチャット画面に戻すと、ヴィヴィアン姫がアルアテルミスの問いにそう答え、ピッキオーネンがやはり称賛のスタンプを連打していた。

『まぁ何か納得出来たんなら、死んだかいがあったよ』

 少しの皮肉と称賛を込めて心牙はそう送った。

『勇者ああああさま、本当にありがとうございましたわ!このご恩は必ずお返しします!』

『私も良い戦いが出来たと思う!何か困ったことがあれば手を貸そう!』

『良い戦いが見れましたよ、また戦うことがあれば観戦させて貰います』

『素晴らしい勇気の輝きに感謝を(親指を立てるスタンプ)』

『勇気きれい』

 心牙も健全な青少年だ。神々は兎も角、二人の女勇者から褒められて悪い気はしない。

 そうしてチャットを終え、真っ暗なスマホに映ったのは、少しニヤけた自分の口元と、二人の妹の顔だった。

「……おい。」

 心牙はスマホを裏返して膝の上に置き、二人の顔を見ないようにして出来る限り低い声で唸る。

「ゃっぱり、カノジョ、さん……?」

「あれ絶対女の子だった!」

「五人、くらぃ、ぃた…」

「お兄、カッコイイもん!モテるよ絶対!」

 いつの間にか心牙のスマホの画面を見ていた双子が心牙の耳元で口々に騒ぎ立てる。

 兄妹であってもお互いの知られたくないプライベートには干渉しない、が我道家の家訓の一つ。それを破った者には容赦のない制裁を。

 心牙は大きく息を吸って大きくため息を吐く。それは兄・我道心牙からの最期通告であった。が、双子は最早留まるところを知らない。

「姫って名乗ってる人はちょっと地雷っぽいかも!」

「ピッキオー…ネン、さん…は凛々しい…カンジ?」

「アルアって人は丁寧だけど怖そう!エレ何とかって人のほうが優しいカンジ!」

「ファロ…マディン、さん、はこの前の…」

「お前らーーー!!!」

 鬼の形相となった兄が怒号と共に怒気を爆発させる。

 「ウワッ逃ゲロー」「きゃーっ」と双子は未だふざけたようにわざとらしい叫び声をあげて逃げ出そうとした。

 しかし兄は本気だった。そして妹たちは思い出すことになる。鬼位(おにい)ちゃんの腕力による恐怖を。鬼位ちゃんの体力に圧倒される屈辱を。

 心牙は、即座に立ち上がり離脱直前の双子の身体にそれぞれ腕を絡ませ、一気に抱き寄せる。

「オラァ!男子高校生舐めんな小学生女児(クソガキィ)ーーー!」

 そしてそのまま抱き上げて二人の足を浮かせて逃げ足を奪い、腕に力を込めて二人纏めて締め上げる。ボディロック、鯖折り、ベアハッグだ。

「ぐぇぇぇ…」

「ぁっぅぅ……ごめ…」

 背骨と肋骨、肺と内臓を圧迫され、双子はあっという間に沈黙する。如何に心牙がそれなりに鍛えているとはいえ、鍛えた程度の男子高校生の腕力で「141センチ、33.3kg」を二人分抱え続けることは難しい。故に勢い任せの短期決戦であったが、それが功を奏したようだ。

「これで少しは懲りたかぁ〜?」

 力を緩ませると途端にぐったりとした双子の首根っこを掴み、心牙はそのまま引き摺るようにして本来は来客用の部屋まで運ぶ。

 既に三組の布団が敷いてある部屋の中央に雑に双子を放り投げ、心牙は自室に戻るため踵を返す。

「じゃ、兄ちゃんは勉強と宿題すっから、今日はもう大人しく寝ろよ」

 双子が寝付くいつもの時間にはやや早いが、たまにはたまには寝る前に宿題も勉強も終わらせたい、と心牙が油断したその時

「逆襲だーっ!」

「……だー?」

 素早く起き上がった雛泰が心牙の胴にしがみつき、心牙の踏み出される直前の軸足たる左脚に自身の足を絡ませ、そのまま重心移動の要領で引き倒す。

「うおっ…」

 後頭部と背中が重力に引っ張られる不快感に、心牙は何かに掴まろうと手を伸ばすが、それを予期していたかまるでワルツを踊るかのように雛泰がその腕を掴み心牙の転倒を制御する。

 そして心牙は正座待機していた雛凪の柔らかで温かで仄かに香る太ももに顔面から軟着陸した。

「お詫びにマッサージしてあげる!」

「にぃ…さま、ゅっくり、くつろぃでね」

 うつぶせに倒れた心牙の背中に雛泰がその小ぶりな尻を乗せる。

「おいふざけんな!そういうのいいって!」

 腕立て伏せの要領で無理矢理をあげる心牙だが、ベアハッグで筋力を使ったのが祟ったのと雛泰の体重に加えて、雛凪が肩を押さえてくるから、顔を横に向けるのが精一杯で、結局は雛凪の太ももに沈む。背中からは雛泰の体温が駆け回り、雛凪の心臓の鼓動が耳の奥に這い上がってくるようだった。

「ここがリンパで、ここが経穴?」

「い゛て゛ぇーっ!何のツボ押してんだ!」

「ん〜!?まちがったかな…」

「クソッ!マジで舐めんなよ!」

 背中のツボ?を体重をかけて押す雛泰に肩を揉む雛凪、ジタバタと藻掻く兄心牙。

 そうして三兄妹の夜は清く楽しく()けていく。騒いで笑って疲れ果てて結局はいつものように三人一緒に寝ることになる。


 その日、心牙は久方ぶりにいつもの悪夢を見なかった。それはツボ押しやマッサージの効果なのか、あるいは仮にも(ファロゥマディン)と渡り合えたという満足感からか、二人の勇者に感謝された充足感からか、それとも――()()()()()()()()自罰的な達成感からか。

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