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シン型神話物語〜レベル1のクソ雑魚ソシャゲ勇者、現代で神話を攻略する〜  作者: 独駝海栗坊
第二章「レベル1のクソ雑魚ソシャゲ勇者だけどレベル1で逆天竜魔神王・レベル200に挑むことになった、誰か助けて(涙)」
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2-1-5「ピッキオーネンという少女」

「我が勇者ああああよ、汝の戦い方は理解している」

 ファロゥマディンが、左腕を突き出したままの状態で氷像と化した勇者ああああの頬にそっと自らの頬を寄せ、口から垂らした蠍の触肢《ハサミ》で彼の頬を撫でる。その様子はまるで得物を奪われまいと、自分のものだと周囲に主張する猛獣のようだな、とピッキオーネンは思った。

「自ら死地に飛び込み、「死の危機に立ち向かう勇気」で神器の出力を上げる……我にそう何度も魅せるものではなかったな」

 神器には水の流れの高低差によって回る水車のように、相反する感情の高低差を水の流れに見立ててタービンを回すように出力を増大させる「エモーショナルエンジン」というものが組み込まれている。恐怖に立ち向かう勇気は、エモーショナルエンジンの恰好の燃料だ。

 切り札であった勇者ああああは魔王の手に落ちた。最早勝ち筋はない。よくよく考えてみれば量産型(やられ役)メカみたいな見た目のアバターアーマーだ、期待した自分が馬鹿だった。そう、ピッキオーネンが思い始めた時

「俺って凍ってるのか?これ」

 死んだ筈の勇者ああああの声がピッキオーネンの耳と頭の片隅に響いた。念話チャットだ。送りたい内容を思考と意思だけで送りたい相手へ送ることが出来る、勇者ゲームの便利機能だ。

「あなた、自分の状況がお判りになりませんの?」

 ヴィヴィアン姫が同じく念話チャットで勇者ああああに応じる。

「体が動かないし視界もボヤけているが、何だか暖かで……心地良い」

「暖かい?心地良い?」

 凍っているのに何をバカなことを、とピッキオーネンが言い掛ける前にヴィヴィアンが更に問う。

「第一の鍵とやらで脱出は出来まして?」

「第一の鍵は俺が瀕死じゃないと開放されないんだ。」

 勇者ああああの念話にピッキオーネンがステータスを視界の端で確認すると、確かに勇者ああああは「死亡」ではない。自分やヴィヴィアンと比較すると最大値は低いがHPはほぼ満タンでありながら、「状態異常による戦闘不能」扱いだった。

「なら、状態異常をどうにか解除出来れば、戦線復帰するのだな!?」

 諦めかけていたピッキオーネンにとって、それは希望の光であった。

 しかし、念話を続けているせいで半ば放置されていたファロゥマディンという影もまた動き始めた。痺れを切らしたらしいファロゥマディンが再び超高速で今度はピッキオーネンを狙って駆け寄る。

 あっという間にピッキオーネンの眼前まで駆け寄ったファロゥマディンがやはり無表情で右手の爪を振るう。袈裟懸けに振るわれた暗黒の爪を、大盾から防御フィールドを発生させて弾くピッキオーネン。弾かれることが分かっていたかのように、今度は地獄蠍の毒針がかの魔神王の肩越しに伸びてきた。防御フィールドでの正面防御は無理と判断、斜めに発生させた防御フィールドで逸す(パリィする)。続いて左の爪が突き出される。これも防御《パリィ》。続いて右左右、毒針。防御フィールドでパリィパリィパリィ、パリィ。

「おぉっと!魔王ファロゥマディンの猛攻を、勇者ピッキオーネンが防ぐ防ぐ!防戦一方ですなー!!」

(通常攻撃でも直撃から即死コンボがくる……!)

 一秒にも満たない攻防は、一瞬の油断が命取りの死のダンスだった。ピッキオーネンは勿論、ダンス相手のファロゥマディンも楽しくは無さそうだが。

 幾度目かの防御の後、そのストレスと恐怖への逃避から目を瞑った瞬間、地獄蠍の毒針が、ピッキオーネンの心臓を、貫き……貫く寸前でファロゥマディンの気配が消えた。

 恐る恐るピッキオーネンが目を開けると、勇者ああああの氷像を庇うように、ヴィヴィアンの神器ソハヤノホシマルに右掌を貫かれたファロゥマディンの姿が見えた。

「なんたることか!勇者ヴィヴィアン姫が勇者ああああを攻撃ぃ!」

「何故《なにゆえ》、勇者ああああを討たんとするか」

「彼を庇う必要はないのでは?まだ残機(ライフポイント)はありますでしょう?」

 普段通りの口調で、ヴィヴィアンがファロゥマディンに問う。

「……よもやデスリカバリー狙いか」

 デスリカバリー。それは凶悪な状態異常(バッドステータス)を受けた時などに回復手段《リカバリー》がない場合にとる最終手段。勇者がリスポーンした際に初期状態に戻ることを利用してわざと死ぬことで、状態異常(バッドステータス)を無理矢理解除(リカバリー)する半ば裏ワザである。この即席パーティには状態異常を回復出来る者がいないし、クエストの設定は「リスポーン可能」となっているから、狙う意味はある。

 勿論、リスクが大きい。掛かっていたバフが解除されることもそうだが、勇者ゲームにおける「死」は、現実の死とあまり変わりがない。苦痛と恐怖、心臓の鼓動が止まったという多大な喪失感、肌から温もりが放出され暗闇と静寂が訪れる様を何も出来ずに受け入れるしかないという絶望感はそのまま反映される。残機《ライフポイント》が残っていても、もし喪失感に沈み、絶望に飲み込まれ、死を受け入れて「復活への希望」を喪ってしまった場合、リスポーン出来ずに真摯な死(ゲームオーバー)となりそのまま本当に死んでしまう。

 狙う意味があってもやる価値があるかは疑問だ。

「俺の残り残機は4だ。俺から提案したんだよ」

 勇者ああああ(コイツ)は頭がおかしいのか?とピッキオーネンは本気で思った。

 ピッキオーネンはこれまで2回死んでいる。最初の死はヴィヴィアン姫との勝負に負けて。2回目の死はファロゥマディンと初めて戦った時。

 残機は残り28回あるとはいえ二度と死にたくないと心に誓うほどに絶対に嫌だし、自らの神器が生存性能に秀でた「加護の神器アンキーレイ」であることに今はとても安堵している。だからこそ20回以上も死に、あまつさえ遊戯《ゲーム》如(・)き(・)で命を投げ捨てるなど、ピッキオーネンには正気の沙汰とは思えなかった。

「させぬ。我が勇者は弱い、残機4程度ではすぐに真摯な死(ゲームオーバー)となる」

 完全な無表情からやや両目が見開かれ眉が僅かに釣り上がった逆天竜魔神王が猛然とヴィヴィアンに向かって走り出した。どうやら「怒って」いるらしい。

 慌てたピッキオーネンは咄嗟にヴィヴィアンを庇おうと二人の間に割って入る。

 邪魔だ、と言わんばかりに逆天竜魔神王の右手が振るわれる。ただし、先程までのただ神として、魔王として暴力任せに振るうだけではなかった。指を真っすぐ揃えて伸ばし、その指と爪を槍となして貫き通す「貫手」だ。神の臂力(ひりょく)で振るわれた貫手が、先程まで防御出来ていたピッキオーネンの防護フィールドを容易く引き裂いて行く。

(これは……防げないなぁ……)

 ピッキオーネンは防御をいともあっさりと諦めた。

 ファロゥマディンの右手が、いともあっさりとピッキオーネンの首筋を掠める。

 続いて左の貫手がやはり首筋を掠める。

 右、左、右、左。そして毒針。ピッキオーネンは致命の一撃の全てを紙一重で回避し続けた。

 ピッキオーネンの神器アンキーレイは「加護の神器」、その真価は「生存戦略」である。ちゃんと扱いさえすれば、適宜適切な方法で状況に対応した生存戦略を行う。

 半ば諦めたことで死の危機に瀕したピッキオーネンは所謂「走馬燈を見ている」状態となった。走馬灯とは、死の危機に瀕した人間が、過去の体験から状況を打開するために行う回想だ。走馬灯を見ているかのようにピッキオーネンの体感時間が100倍に引き延ばされ、あらゆるものがゆっくりとしたスローモーションに感じるようになったのだ。ピッキオーネンが【100倍システム《チェンテージモ・システマ》】と呼ぶそれもまた神器アンキーレイから齎された機能(祝福)の一つで、彼女の必殺技の一つである。

 ただしあくまで100倍になるのは感覚とそれに伴う体感時間だけで身体能力は元の倍率から2倍程度にしかならない。だから常に回避はギリギリだった。そして走馬燈もまた見続けなければいけない。

 そして見る走馬燈はいつも決まって同じ――ヴィヴィアン姫と出会った日だ。


 ピッキオーネンという少女は、伊国において美女モデルの母と美男俳優の父という環境に産まれた、比較的恵まれた少女だった。

 中性的で目鼻立ちが整った容姿に軽めの努力で体形を維持出来る体質、好きなアニメグッズを買える財力。その上で「勇者」という才能を持った彼女は、やや傲慢で生意気な少女へと育った。

 さながら「ガンドゥム11」の主人公(ピッキオーネン)のように仲間たちを率いて下々を護ってやる、剣になったのだと。

 勇者ゲームによって傲慢になりかけていたピッキオーネンの剣先《鼻柱》を折ったのは、他ならぬヴィヴィアン姫である。

 それはギルド同士の対抗戦の日だった。

 騎士団という新進気鋭のギルドを率いていた当時のピッキオーネンは、ギルド「魔法少女連合」を率いるヴィヴィアン姫に4人で挑み、ヴィヴィアン姫たった一人にものの見事に完敗した。

 柔和な笑みを浮かべながら、優雅に気品溢れ高貴さを滲ませながら次々と他の勇者を斬殺していくその姿に、他の仲間たち3人は恐怖したようだが、ピッキオーネンは逆に見惚れていた。

 勿論、ピッキオーネンがマゾヒスト(被虐性欲者)に目覚めたわけではない。その強さを見初めたものでもなかった。

 自分たちを完膚なきまでに斬殺せしめ柔和な笑みを浮かべた彼女の中に、気品と優雅さそして高貴さを纏った彼女の中に、何かの「憂い」を感じた。

 ピッキオーネンはその顔に煌めきを見た。振るわれた日本刀(ヤイバ)よりも、その太刀筋よりも、鋭く尊い煌めきを見た。目の前をミサイルとプラズマキャノンでぶち抜かれたようだった。

 端的に言えば一目惚れである。勇者とは、戦士とは、剣とはヴィヴィアン姫であり、自身はその御身を護る従者であり兵士であり盾なのだと直感したのだ。その日の内に仲間たちを説得して自身のギルドを解散したピッキオーネンは、直後にそのままギルド「魔法少女連合」に入った。

 間近で見るヴィヴィアンの姿からはより哀愁を感じた。立ち振る舞いは気高く気品に溢れ、『姫』と名乗っているだけあって洗練された雰囲気を纏ってはいる。が、その雰囲気はどこか「檻に囚われた人喰いライオン」のようなギャップがある。それがヴィヴィアン姫の美しさを、煌めきを、優雅さを引き立てているようにピッキオーネンは感じた。

 ピッキオーネンは自身のリアルな身の上を話してヴィヴィアン姫の話を聞きたがった。

 当然最初はかなり嫌がられた。時には神器ソハヤノホシマルを振るわれたこともあった。が、ギルド内で頭角を現すピッキオーネン自身の実力とピッキオーネンの忍耐力に屈したヴィヴィアン姫は次第に話をしてくれた。

 ヴィヴィアン姫は本物の英国王族に連なる人物であった。元々英国王族には――他の国もそうした貴族なり一族はあるが――国防や国益のために「勇者」の役割を果たす役目が秘密裏にあり、今代はヴィヴィアン姫がその役割を果たしていること。ヴィヴィアン姫本人は姫や王族といった「役割」をとても嫌っていること、勇者ゲームだけが彼女が「本来の彼女」でいられる場であることを。

 そう、ヴィヴィアン姫にとって「勇者ゲーム」とは彼女がありのままで(レット・イット・ビー)いられる場なのだ。彼女が本当に生きていられる場なのだ、と。

 そう、理解に至った時、ピッキオーネンは己を恥じた。ただ「勇者(ヒーロー)ごっこ」をしていただけだった、己を恥じた。

 そして自らの盾《神器》に、心に、その名に改めて誓った。

「わたしは!姫様《プリンチピッサ》の盾!姫様《プリンチピッサ》の騎士!勇者ピッキオーネンだ!」

 あぁ、今、ようやく理解し(わかっ)た。

 勇者ああああが残機を減らしながらも戦う理由が。彼にも「彼の姫様(たいせつなもの)」があり、それを護るために戦っているのだ、と。同時にヴィヴィアン姫の隣を迷わず突き進めるような自分でありたいと願った。それが自分が歩むべき騎士道なのだと。

 ピッキオーネンは彼女自身だけの騎士道を見付けたと思うと嬉しさで思わず顔が綻んだ。

 しかし、それが彼女の命取りだった。

 感情が諦めから喜びにシフトしたことで走馬灯を見なくなったピッキオーネンに、【100倍システム《チェンテージモ・システマ》】のI機能《祝福》が微笑むことはない。

 ファロゥマディンの地獄蠍の毒尾が、いともあっさりとピッキオーネンの心臓の左横を貫き通る。即死こそしなかったものの、明らかな致命傷だ。

 だが、ピッキオーネンの表情《かお》は苦悶に歪むことはなく未だに喜びに満ち溢れていた。彼女は、最早I走馬灯《思い出》に縋る必要はないからだ。ピッキオーネンの覚悟を讃えて、彼女のサポーターたる軍神マフォルスがボーナスポイントをピッキオーネンに与えたことで、ピッキオーネンのレベルが一つ上がった。それと同時に彼女の脳裏に「新必殺技」が追加される。

 説明はなくともこの「新必殺技」が何をもたらすかは理解し(わかっ)ている。必殺技の名前も使用者にとって最も馴染み深くかつクールでかっこいいものになる。必殺技の習得はいつもそうだった。

 ちょうどファロゥマディンは至近距離、地獄蠍の毒尾を引き抜くまでの僅かな隙がある。なので躊躇はない。する暇がない。

 意識を保つのがやっとの瀕死状態で、ピッキオーネンは自身を貫いているファロゥマディンの地獄蠍の毒尾を両手で掴む。

 この喜びを気付かせてくれた勇者ああああに感謝と敬意を示すためにも、あの日見た煌めきを靴底のガムにしないためにも。

「【愛と自由へ、翔べ《アモーレ・リベルタ・ボーラ・ヴィーア》】!!!」

 ピッキオーネンの体から鎧が弾け飛ぶと同時、その身は眩い炎へと変化した。そして愛と情熱を秘めた炎は、一羽の火の鳥となって我道心牙(勇者ああああ)に向かって飛び立った。


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