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飾り屋店主の魔法使い  作者: 梨箒星
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第10話 水晶貝

( ・∇・)

 バレンは岩を伝って砂漠へ降りる。

 河の所もだったが、降るにつれて更に冷気が強くなる。

 滝から流れ、霧吹きのように飛散していく水。

 そのまま薄いモヤになって地下の砂漠に漂う雲の一部になって行った。

 最後の岩を飛び出し、凍てつく砂漠へと足を踏み入れる。

 砂が少しだけ跳ね上がり、その粒が靴を冷やす。

 

 「地上とはまるで違う……ん?」

 

 砂漠の砂丘を幾つか越えると、水晶が生えている他に、丸太や鉄片がチラホラと刺さっていた。

 それは、乱流に巻き込まれこの砂漠に落ちてきた蒸気浮揚船や、砂流船の墓標だ。

 その一つのものを見てみると、乱雑に彫られた文字で


 『4月21日 食料は尽きた もう何も無い』


 そう書かれていた。

 彼はこの地から抜け出せたのだろうか、いや、それは自分にも言えることで、黒輝石を見つけられるどころか抜け出せず、冷たい砂の中で野垂れ死にするかもしれない。

 砂漠をトボトボと歩いていると、海の漣のような音が聞こえてきた。

 音のする方向へ走ろうとするが、深い砂にその勢いは阻まれる。

 仕方なくゆっくり進み、入り江のように砂漠の海岸線が凹んだような場所に着く。

 洞窟の天井の光る苔は海岸線を境にしたようにキッパリと無くなり、水平線は暗く見えず、ただ白い波が此方に静かにやってくるだけだ。

 ここは水晶よりも軽石でできた柱が多く、また、ガラス質の石がゴロゴロと転がっていた。

 しかし、真珠と言える物は無い。

 バレンは指先に少し、水を付けて舐めてみる。

 ほんのり塩っぱい、しかし海ほど磯っぽく無く、塩味もそれほど感じなかった。

 

 「海が近いのか?」


 しかしこの先は目的の砂漠では無い、真珠は『凍てつく砂漠』にあるのだ。

 バレンは元きた道無き道を、自分の足跡を頼りに戻った。

 途中に海岸線にあった黒いガラス質の石の根元を探したりしたが、見つからない。

 市場に出回っているものは、大抵は本物では無い何かか流砂に流れて地上に露出した物、傷がついているものが多い。

 飾りを作るなら綺麗な物が良いし、安産祈願とかお守りに使うなら尚更である。

 とうとう最初の滝がある場所へ戻ってきた。

 コゲドリが突然落ち着きが無くなって、水晶柱から遠のく。

 

「!……コゲドリどうした!」 


 その瞬間、地面が下にガクンと一気に下がるような衝撃と共に水晶柱が大きく揺れる。

 そのうちの何本かが倒れ、洞窟の天井から熱い砂が流れ込んできた。

 冷たい砂は砂丘を作り上げ、別の場所では流砂の渦を作り出す。

 

「地震か!」


 洞窟が崩落すれば命は無い。

 また、広大な凍てつく砂漠だ、地上の王国もタダでは済まない。

 しかし揺れは直ぐに収まり、また、何事も無かったかのように静寂が訪れる。

 砂漠一帯に重い衝撃が放たれ、静寂を突き抜ける。

 

「今度は!」


 先程まで渦を巻いていた流砂の中心から、洞窟の天井に届く程の砂塵が巻き上がる。

 そこから白い霧が噴出し、津波のように迫る。

 その強烈な冷気は、辺りを一層寒く凍てつかせる。

 バレンもそれに飲み込まれ、猛風に晒される。

 飛びそうな帽子を抑え、風の中で出せるだけの声を出した。


「コゲ!何処だ!」


 虚しく掻き消され、コゲドリの姿も白い霧で影すら見えない。

 バレンは杖を取り出し、火の魔法で冷気を晴らそうと振りまくる。

 杖の先端から豪炎が放たれ、振った軌跡に合わせてうねる。

 しかし、霧は吹き荒れ炎が逆に消されてしまう。

 

「くそ!」


 周りの温度はどんどん下がっていく。

 

……暫くして、冷気の噴出が止まり、霧が落ち着く。

 バレンはすぐに杖を振って光を灯す。

 

「何処だ……」

 

 周囲を見回しても暗い天井と灰色の砂が広がるのみ。

 先程の強風で服や帽子に付いた砂を払う。

 ふと、聞き慣れた鳴き声がした。

 

「コゲドリ! 良かった、」


 白い砂塗れになった焦げ茶の鳥。

コゲドリはブルブルと自身の身体を揺さぶって砂を払い除けた。

 先程冷気が噴出した場所に目をやる。

 杖から灯された灯りに反射して何かきらめいた。

 噴出跡の近くに倒れ折れた水晶柱の残骸だ。

 何を思ったのか、バレンは折角だし……と水晶の欠片を集める。

 その中にある1つの黒い塊。

 綺麗な丸をした黒い艶を持ち、水晶の瓦礫の中に埋まってる。


「……あ」

 

 黒曜石の真珠。

 長い時間をかけて流砂等で研磨され、水晶に閉じ込められていたから状態も良い。


「あったあった、運がいい……」


 バレンはひょいと真珠を拾い上げてポーチの中にしまう。

 

「さて、帰るか」


 そう元きた道へ振り返った瞬間、背後から砂を流すような、また、鞴の吹く音が聞こえた。

 何かを思い出したように背筋が緊張する。

 

「そういえば砂漠地帯って大型砂流生物の楽園とか言ってた……なぁ……」


 コゲドリが警笛を鳴らすような鳴き声で威嚇している。

 バレンは振り返る。

 畝る滑らかな体表、肌色の身体……地面に出てるだけでざっと50m程か。

 うねうねした1本の触手のような身体の先っぽは筒のような穴が空いていて、牙も薄らと並んでいるのが分かる。

 目という目が無いが、明らかにこちらを向いていることだけは確かだ。


「きっっっっっっっっっ しょっ!」

 

 身体を畝らせて体当たりをしてくる。

 バレンはなんとか避けるが間髪入れずに薙ぎ払ってきた。

 すかさず受身をとる。

 4、50m吹き飛ばされ、冷たい砂漠の坂を転がる。


「なんだよ……」


 マテシェル・ワーム。 呼び名はそうしておこう。

 ワームの口から砂嵐が吐き出される。

 吐き出された砂は速く、当たった水晶柱や石を削り取って行った。


「なんか魔法は……えぇいなんでも良い!」


 振り上げた杖から放たれる衝撃波。

 ワームの体に命中し、口から砂を吐き出すのを止める。

 大型生物とてその柔らかい身体なら打撃は効くだろう。

 

「逃げるが勝ちだ!」


 元きた道を全速力で走る。

 魔法で晶剣を作り、岩の隙間に刺して登る。

 河の流れる場所まで戻ってきた。

 ワームもここまで来れば大丈夫だろう。

 バレンは周りを見渡す。

 地上に近いのはこの辺りだろうと、周辺を探索した。

 洞窟に吹く風を頼りに進む。

 しばらく歩いていると足元に暖かい砂がある事に気付く。

 そう、暖かい砂だ。

 バレンが上を見ると赤い光。

 流砂で流れ込んできたのだろうか。

 だとすればあれは夕焼けか朝焼けの光だろう。

 流れ込んだ砂の坂をコゲドリとともに這いつくばって登り小さな穴を潜る。

 目の前に広がるのは赤く照らされた砂岩の崖。

 そして、散らかる残骸。

 プロペラや操縦舵、破れた翼膜。

 バレンはバイロリッヒとの会話を思い出し、まさかとは思い瓦礫を漁る。

 砂にまみれた焦げた塊、一瞬バレンは退いてしまった。

 だが、冷静に見る。

 煤だらけのドッグタグ。

 煤を拭い名前を見る。

 

「バイロリッヒ、貴方の友人は見つけていたよ」


 

次回 砂流船祭

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