ブレックファスト
読んで下されば倖いです。
「瑞基、起きて
学校に遅れるよ」
秋の強い光が辺りを金色に包んでいた。
瑞基は眩しくて手を翳しながら答えた。
「んあ、後五分」
「甘えてもダメだよ
すぐ起きないと、その嫌みなくらい元気な朝勃ちを折るよ」
瑞基は飛び起きた。
「あれ?
そうだ!
夕べ親父と喧嘩して家飛び出して、それから慎一先輩んとこ行って……………………」
そして、夕べ起きた隆一朗の一連の出来事を思い出した。
「隆一朗!! 」
瑞基は部屋を見回した。
「何…………? 」
隆一朗はキッチンの陰から顔を覗かせた。
「隆一朗」
その顔を見て瑞基は安心すると共に複雑な気持ちになった。
手首には銀色に光るブレスレットが戻っていた。
「おはよう」
「おはよう、朝食できてるよ
今朝は慌てたよ
冷蔵庫カラだったから、急いでコンビニ駆け込んで食材調達してね」
まだ、覚めきらない頭で、瑞基は窓から差し込む陽の暖かさに、心地好さを満喫していた。
しかし、夕べの記憶が鮮明になればなるほど心が重苦しくなって行く。
『隆一朗はまだ、後を追いたいんだろうか? 』
「瑞基、早く食べないと遅刻するよ」
隆一朗が再びキッチンから顔を覗かせた。
「今、何時? 」
「そろそろ九時になるけど」
「はあ?
九時って、もう学校始まってるじゃん」
「え?
そうなの? 」
隆一朗は目を丸くした。
瑞基は素早く計算した。
『このまま、やり返せば真面目くさった隆一朗を丸め込めるかも』
「酷いな
九時なんてもう授業始まってるじゃん
オレやだよ、今頃行って注目浴びながら教室入るの」
瑞基はワザと不貞腐れて見せた。
「学校って始まるのそんなに早かった? 」
隆一朗は悪びれもせず言った。
片眉を上げて瑞基は言った。
「その記憶っていつの? 」
隆一朗は少し考えてから答えた。
「高1だから、六年前かな」
「なんで、高1で止まってるの? 」
すかさず瑞基は突っ込んだ。
「高1の時に家を飛び出して、それ以来だから…………」
「自分が高1て中退してるのに、オレに偉そうに学校行けなんて、よく言えるね」
瑞基は心の中で、ほくそ笑んだ。
「自分が行けなかったから、キミには行って欲しいって思った」
隆一朗は厳しい目を瑞基に向けた。
瑞基は少し怯んだ。
「とにかく、家出して学校には行くってあり得ないから! 」
隆一朗は肩を竦めて言った。
「取り敢えず食べて
成長期なんだから、お腹は空いてるだろ? 」
仕方なく瑞基はベッドから出るとテーブルに着いた。
テーブルには、厚切りトーストと焼いた鮭の切り身とスクランブルエッグに刻んだキャベツとトマトが添えられ、コンソメスープにワカメとネギが浮いていた。
「なに?
このがっちり朝メニュー」
瑞基は怪訝な顔を隆一朗に向けた。
「嫌いなものでもあった? 」
隆一朗は心配気に瑞基の顔を見た。
「どうして一人分しかないの?
あんた食べないの? 」
「ボクは朝、固形物食べると吐くから」
「そんなんだから、そんなガリガリでゾンビみたいに顔色悪いんだよ」
「ゾンビ! 」
隆一朗は少なからずムッとした。
「人ん家来て、自分だけ朝メシ食える訳無いじゃん
半分子して一緒に食べよ」
瑞基は食器棚から皿とカップを取り出すと分け始めた。
隆一朗はそれを無表情に眺めていた。
「いっただきまーす!
ほら、隆一朗も座って食えよ
折角頑張って作ったんだから」
瑞基がもりもり食べ始めると、隆一朗も席に着いて食べ始めた。
「ほら、二人で食べると美味しいだろ?
隆一朗、料理上手いんだな」
「魁威の経営してる喫茶店で働いてるから、ひと通りのものは作れるよ」
「へーえ、オレ料理なんて小学校でやった調理実習くらいでしかやった事無いよ」
突然、隆一朗が立ち上がると洗面所に駆け込んだ。
瑞基は驚いて、慌てて後に付いて行った。
洗面台に顔を突っ込んで隆一朗は吐き始めた。
「マジで吐いちゃうのかよ! 」
ひと通り、胃に入ったものを吐き出すと隆一朗は食器棚の引き出しにあるタオルを持って来るように瑞基に頼んだ。
瑞基は急いで食器棚の二つある引き出しの片方を開いた。
そして、絶句した。
中には大量の薬が入っていた。
心療内科・精神科 藤岡聖詞と袋に印刷されている。
おそらく精神安定剤であろう薬の名前が何種類も並んで一緒に印刷された紙袋が引き出しいっぱいに詰まっていた。
瑞基は立ち尽くした。
暫くして洗面所から手拭きタオルで口を押さえた隆一朗が出て来た。
引き出しの中を見詰めて突っ立っている瑞基を見て隆一朗は表情も変えず言った。
「そっちの引き出しにタオルは無いよ」
瑞基は突かれた様にビクッとして隆一朗を見詰めた。
「あんた、どっか悪いの? 」
「そうだね、頭と顔と性格かな」
「マジで心配してんじゃん」
「兄の、と言っても母親が異うんだけど、聖流がうるさく病院に行かせるから自然と溜まるんだ」
瑞基はおもむろに口を開いた。
「あんた、いったい何が楽しくて生きてんの?
普通に笑ったりしてるけど、本当に笑ってるのかなって
辛いなら辛いって言えばいいのに、妙にヘラヘラしててさ
昨日だってあんな酷い悪夢見たって、引くよねって笑ってるんだ
不能の話の時だって………………」
隆一朗は表情も変えず何事も無かった様に言った。
「今日は、これから喫茶店の仕事あるんだ
仕事十時に終わるんだけど、その後からバンドのミーティングと言う名の飲み会が聖流の家である
良かったら一緒に行く? 」
そう言って振り返った隆一朗の目は、息が詰まるほど冷たかった。
瑞基は思わず後退りした。
隆一朗は黙々と出掛ける支度をした。
瑞基は突っ立ったまま言葉も無く隆一朗を目で追った。
まるで、母親を怒らせた幼児のように。
隆一朗が部屋を出ようとして、ドアノブを握ると、瑞基はやっと言った。
「オレも行きたい、ミーティング
何処で待ってればいいの? 」
振り返った隆一朗は、瑞基が知っている隆一朗の顔だった。
「じゃあ、十時までにここに居て」
隆一朗が出て行くと瑞基はその場にへたり込んだ。
「こえーよ、隆一朗」
読んで戴き有り難うございます。
修正版を投稿するに当たって心配だったのは、一度投稿したものなので、誰も読みに来てくれなかったら、哀しいなあと思いました。
でも、お陰様で沢山の人では無いけれど読みに来て下さる方が居て、安心しました。
心から感謝です。m(_ _)m
今、新作を書いているのですが、内容が「こりゃちょっと心理学ないと書けないぞ」と言うことになり、簡単な心理学の本読んでるんですが、頭悪くてよく解りません。(TT)
ヘキヘキしながら、読んでますが、どうなる事やら。笑