第三章 彼氏
読んで戴けたら、倖せです。
『ダミアのサンブルディマンシュ
何処だろう、こんな哀しい曲をかけるなんて
聖流の家からの帰り道、瑞基と飴色に輝く夜明けを歩いた
もうすぐ見えて来る
瑞基が待っている
ボクの部屋で…………………』
♪私は、いつか日曜に死のう
苦しさに耐えかねたら
あんたが戻って来るとき
私はもう行ってしまっているだろう
ろうそくが燃えているだろう
激しい希望のように
そしてあんたの方へと、自然に
私の目が見開かれているだろう
怖がらないで、恋人よ(私の目を)
もしその目があんたを見られなくても
その目はあんたに言うだろう
愛していた
生命よりもあんたを愛していたと
暗い日曜日……………
『瑞基、ボクは戻ったよ
愛するキミのもとへと………………』
隆一朗はドアを開けた。
ベッドに瑞基はいた。
ベッドから上半身を垂らして、こちらを見ていた。
手首から血を流し、瑞基はこと切れていた。
「瑞基ーーーーーーーぃっ!!
どうして!
瑞基! 」
「隆一朗!
起きろ! 」
隆一朗は混乱していた。
視界が開けると、心配そうに覗き込む魁威の顔がみえた。
「魁威、瑞基が! 」
隆一朗は起き上がり、魁威の腕を掴んだ。
「大丈夫だよ、瑞基は俺たちの街で元気にしてるよ」
魁威は宥めるように言った。
隆一朗は両手で顔を覆った。
「大丈夫か?
瑞基は自殺するようなタマじゃないよ
大丈夫だよ」
「ごめん」
「謝るくらいなら、瑞基に逢ってやればいいんだ」
隆一朗は落ち着くのを待ってから答えた。
「それはできないよ」
「頑固なんだよ、隆一朗は」
「逢ったら、もう二度と離せなくなる」
「莫迦だよ
最近、食欲も落ちてるし、寝る度にこんな調子でろくに眠れてないだろ
その内、身体壊すぞ」
隆一朗はそれには答えずタバコに火を点けた。
隆一朗が去った後、瑞基はバスケ部を退部した。
放課後、教師を取っ捕まえては教科の質問をする瑞基の姿が、よく見掛けられるようになった。
それは自習の時間に起きた。
二、三人で雑談をしていた男子生徒が大声で笑ったかと思うと、突然声高に言い出した。
「やってられないよなあ
空気が悪いんだよ、クラスにホモがいるとさ」
かつては同じバスケ部の連中だった。
明らかに瑞基への当てつけである。
瑞基は聞こえない振りをして教科書に集中した。
「やっぱさあ、噂って本当なんじゃねえの
あっさりバスケ部辞めちまうあたり、認めたと一緒だよな」
「そうそう、気持ち悪くて練習にならなかったから、せいせいしたけどね」
クラス中視線が瑞基に集中した。
瑞基と仲のいいクラスメイトが怒りを露にして言った。
「お前らウザイ、瑞基が下ろされても選手に選ばれなかった腹いせかよ」
「ああ?
お前になんの関係があるんだよ」
「みっともねえんだよ
集団でなかったら瑞基に何も言えねえ癖に」
「お前も、こいつとできてるんじゃねえの? 」
「ふざけるな! 」
瑞基は教科書を机に叩き付けて立ち上がるとバスケ部の連中に鋭い一瞥をくれた。
バスケ部の面子は一瞬引いた。
瑞基は黙って鞄に教材をしまい込むと教室を出ようとした。
誰かが机を叩いて大きな音を立てた。
「ひとの彼氏、ホモ呼ばわりしないで!!」
クラス中の視線がそっちに集中した。
森詩織だった。
驚いたのは瑞基だった。
森詩織は教材を鞄にしまうと瑞基の腕を引いた。
「行こう、瑞基君」
放心状態の瑞基は引き摺られる様にして森詩織と教室を出た。
玄関で靴を履き替えると森詩織はまた瑞基の腕を引いて歩き出した。
「森さん、ちょっと待って」
森詩織はハッとして瑞基を振り返った。
「ごめんなさい
勝手なこと公言しちゃって」
「それはいいよ
でも、森さんまで教室出ちゃったら困らない? 」
森詩織は笑って見せた。
「大丈夫、どうせ自習だし
この後の授業の分は美祐ちゃんにノート見せて貰うから」
「森さん、あんな事言っちゃっていいの?
みんな、きっと誤解してるよ」
「瑞基君はいや?」
「それは無いけど、森さんに迷惑かけちゃうよ」
「じゃあ、決まり!
瑞基君は今日からワタシの彼氏です」
森詩織は嬉しそうに笑った。
「オレ、森さんにあんな酷いことしたのに、そんな資格無いよ」
「ワタシ言ったよ、諦めの凄く悪い女だって
こんなチャンス見逃す手は無い! 」
森詩織は両手を握って軽く膝を曲げた。
「森さん……………………」
「ワタシね、隆一朗さんが瑞基君のキスで意識を取り戻したのを見た時から解ってた
瑞基君と隆一朗さんはワタシが想像もできないくらい深い処で繋がってるんだって
じゃなきゃ、あんな奇跡起こらない
でも、ワタシも瑞基君が好きなの
自分でも解ってる、二人に割って入る隙間は無いんだって
それでも、この好きって気持ちはどうしようもなくて、沢山泣いたけど、それでも諦められないの
だから、やっぱり瑞基君好きでいようって決めたの
自分でいっぱい悩んで決めた事だから後悔は無いよ」
「ごめん
オレ、そんなに森さんのこと苦しめても、何もしてあげられない…………」
「これから、して貰うから
彼氏宣言した以上、瑞基君には彼氏を演じて貰います」
「それでもオレ、隆一朗を……………」
森詩織は言葉を遮った。
「夢を見せて!
嘘でもいいよ、夢が見たいの
今だけワタシを見てる振りでいい」
「森さん………………」
瑞基はどう答えるべきか困惑していた。
森詩織は大きく息を吸い込んで言った。
「さあ、学校サボっちゃったし
どうしようか?
やっぱりお付き合いしてるんだから、コース的にはおデートだよね
クレープ食べに行こう!
ほら、いつか瑞基君がライヴチケット売ってくれた通りの
あそこのクレープ美味しいんだよ」
森詩織は笑顔を向けて瑞基の手を引いた。
瑞基は引かれるまま、森詩織に付いて行った。
その日以来、瑞基の傍らにはいつも森詩織の姿があった。
やがて噂はなりを潜め、誰も口にする者は居なくなった。
読んで戴き有り難うございます。
ダミアのサンブルディマンシュは古いシャンソンで、もとはハンガリーの曲だそうで、歌詞の余りの暗さに聴いた人が自殺したと言うので有名な曲です。
古いシャンソンは大好きです。
このサンブルディマンシュ(暗い日曜日)のレコード持ってます。
レコードって処が年代解っちゃいますね。笑
エリック・サティは今でこそ有名ですが、私が若い頃は余り一般的に知られていなかったです。
高校の頃に初めてエリック・サティを聴いて惚れこんで全曲集買いました。
かの有名な「いやがらせ」は収録されてませんが。笑
「いやがらせ」は一小節を何百回だか繰り返す曲で、一度それに挑戦した人居たそうですが、半日演奏したら演奏者が狂いそうになったそうです。笑




