帰還
読んで戴けたら倖せです。
エリザベータに帰ると、先に戻る事を瑞基が魁威に伝えてあったので、麗畏と樹良が来て待っていた。
麗畏は隆一朗が入って来るなり、首根っこに腕を回して隆一朗の頭を拳でぐりぐりした。
「心配させた罰だ、この野郎」
「痛いって、麗畏」
そう言いながら、隆一朗は笑っていた。
「あれ、どうした瑞基
随分すっきりした顔してるね」
魁威が言った。
「ふーん」
魁威は意味ありげに笑みを浮かべ瑞基を見詰めた。
瑞基は狼狽した。
「何も無いよ!
ほんとだってば、何も無かったよ! 」
魁威は笑った。
「ほんっと解り易いなあ
全部顔に出てるって」
「なになに?
何が出てるって? 」
樹良が乗って来た。
「何でも無いですって!
何もありませんでした! 」
瑞基の顔が赤くなった。
樹良も瑞基の顔を覗き込んだ。
「何かあったんだ
あれ、瑞基顔真っ赤だよ」
「はいはい、何も無かった事にしておいてやるから
少し落ち着けって」
魁威は瑞基の頭をポンポンと軽く叩いた。
「え?
え?
そうだったの?
俺だけ知らなかったの? 」
麗畏は隆一朗の顔を見た。
「何のこと?
ボクも聞いて無いけど」
隆一朗はきょとんとしている。
「隆一朗ーーぉ」
瑞基は項垂れた。
「なんでオレ、こんな苦労してんの? 」
「それは惚れた相手が悪かったんじゃない? 」
魁威が笑うと皆笑った。
ここに居る誰もが、偏見が無い訳では無い。
だが、ここに居る誰もが隆一朗を愛し、荒んでいる頃の隆一朗を知る彼らは、隆一朗が生きる為には、性別を越えて瑞基と云う存在が必要なのだと云う事を認めない訳には行かなかった。
アパートに帰ると隆一朗が玄関のドアを閉めた途端、瑞基は振り返って隆一朗の手首をドアに押し付けた。
「限界、もう我慢できない」
そう言って隆一朗に口付けた。
隆一朗は受け応える様に目を閉じた。
口唇を離すと隆一朗は言った。
「もう?
今朝、したばかりだよ」
「だって、やっと思いが通じたんだよ
もっと隆一朗に触れてたい」
瑞基は俯き加減に隆一朗を上目遣いで見詰めた。
「せめて、ベッドまで我慢できない? 」
「んーーーーー、頑張る」
部屋に入ると隆一朗は聖流のピアノを撫でながら奥に進んだ。
「瑞基ーぃ!
この酷い状態、全く改善されなかったんだ! 」
ゴミの散らばる部屋を見渡して溜め息をついた隆一朗は、シャツの腕を捲りながらキッチンの引き出しを開けて、ゴミ袋を取り出した。
「ええっ!
掃除始めちゃうのお? 」
瑞基は大いに不満だった。
隆一朗が、
「おあずけ」
と、言うと
「うーーーーぅ、わん! 」
瑞基は犬の真似をして吠えた。
瑞基は不貞腐れてベッドの上で胡座をかいてアプリゲームを始めた。
隆一朗は世話しなく部屋を片付けた。
「瑞基、せめてゴミくらいゴミ箱に捨てられない? 」
「はい、ごめんなさい」
瑞基は気の無い返事をした。
コンビニ弁当箱から零れた醤油の染みやジュースの零した跡やらを雑巾で拭きながら、瑞基に小言を言うと瑞基は黙りこくっていた。
「瑞基? 」
不眠不休で隆一朗の看病に疲れていた瑞基は胡座をかいたまま眠っていた。
隆一朗はクスッと笑うと掃除に精を出した。
隆一朗は押し入れからブランケットを出すと、眠りこけている瑞基の身体を後ろから包み込む様に掛け、瑞基の首に口付けた。
瑞基は敏感に声を漏らした。
「隆一朗?
掃除はもう終わったの? 」
瑞基は寝ぼけながら言った。
「うたた寝なんかしたら風邪ひくよ」
「大人しく待ってたご褒美にキスして」
隆一朗は瑞基の頬を手で包むと口付けた。
永遠に続くかと思われるほどの長いキスに瑞基は喘いだ。
隆一朗は瑞基を押し倒すと言った。
「有り難う、ずっと眠らないで看病してくれた
口移しには驚いたけど」
「苦肉の策だよ、嫌だった? 」
「ううん、嬉しかった」
瑞基は隆一朗の身体を抱くと回転して隆一朗の上に重なった。
「こうしてるだけで、身体が熱くなっちゃう」
「いかれてる」
「うん、隆一朗にいかれてる」
隆一朗は瑞基の首に腕を掛けると口付けた。
瑞基は隆一朗の身体を優しく撫でた。
「ねえ、これってどう見てもアレの後だよね」
麗畏は覗き込んで言った。
「やっぱ、こうなっちゃったんだねー
この二人」
樹良も覗き込んだ。
魁威はタバコに火を点けて言った。
「いいんじゃない、愛の形も色々あるよ」
隆一朗と瑞基は全裸で抱き合って眠っていた。
隆一朗が目を覚ました。
「どうしたの?
みんなお揃いで」
「まだだったろ、快気祝い」
魁威が言った。
「ほら、隆一朗の為にワインも用意して来たよ」
樹良がボトルを見せた。
「瑞基の為にジュースもあるよ」
麗畏が言った。
「ああ、有り難う」
隆一朗が起き上がろうとすると瑞基は寝ぼけながら隆一朗の後頭部に手を添えて言った。
「身体離しちゃやだよ、隆一朗」
隆一朗の首に口付けた。
魁威たちはあらぬ方向に視線をやった。
「瑞基、見られてるよ」
「え? 」
「おはよう、エロ瑞基」
魁威が言った。
瑞基は魁威たちを見ると激しく狼狽した。
「わっ、なんでみんな居るのお! 」
「言い訳できないよ、瑞基」
樹良が笑った。
瑞基は慌てて隆一朗から離れて、頭まで毛布を被った。
「今頃、遅いって」
麗畏も笑った。
魁威が言った。
「良かったな、瑞基
やっと想いが通じて」
「魁威さん、それ言っちゃう? 」
瑞基は顔を半分出した。
隆一朗は素早く服を着るとグラスと氷を持って来て床に座った。
魁威たちも車座になって座った。
「隆一朗と飲むの久し振りだね」
「そうだね
瑞基が来てから付き合い悪くなったからなー、隆一朗」
「仕方ないよ
隆一朗は瑞基の母業に忙しかったから」
「母業?
何それ? 」
隆一朗はボトルを注ぎながら魁威に訊いた。
「瑞基を更正させるのに真剣だったろ
学校いかねえわ、万引きはするわで、なかなかの悪餓鬼だったからなあ」
「魁威さん、それくらいで勘弁してよお
オレ今、真面目だよ」
瑞基はベッドに散らばった服を着ながら言った。
皆グラスを持つと、魁威はグラスを掲げた。
「乾杯! 」
「隆一朗、結婚おめでとー! 」
隆一朗が飲んでいたワインを吹いた。
飛沫を避けて、魁威たちはグラスを死守した。
「なに吹いてるんだよ、隆一朗」
「樹良が、結婚おめでとうなんて言うから」
隆一朗はティッシュで口を拭いた。
「似たようなもんでしょ、一緒に暮らしてるんだし」
樹良が言った。
魁威が瑞基に振った。
「手の掛かる奥さんだけどねー
なあ、瑞基
浮浪癖があるから、迎えに行かないと真っ直ぐ帰りやしない」
「もっと言ってやってよ
オレ、めっちゃ苦労してんの」
「みんな、ボクたちの事を肴に飲むの止めてよね
それより、訊きたい事があるんだけど」
隆一朗の目の色が変わった。
「誰が瑞基をマルトのマスターに引き合わせたの? 」
魁威は瑞基を見た。
「ごめん、口滑らせてバレちゃった」
瑞基はベッドに座って、申し訳なさそうに上目遣いで言った。
魁威が溜め息交じりに言った。
「しょうがないなあ、自分で黙っててくれって言ったんだよ」
「すみません、オレ隆一朗には隠し事できなくて」
瑞基は頭を下げた。
「情けない亭主だな」
魁威は隆一朗を見て言った。
「あんまり瑞基がしょげてるから、三人で飲みに連れて行ったんだよ」
「魁威は知ってるんだ
瑞基がマスターのオモチャにされそうになったこと」
「そんな事、あったの?! 」
麗畏と樹良の顔色が変わった。
魁威が言った。
「相当、怒ってらっしゃるようだけど、瑞基をそこまで追い込んだのは隆一朗自身だよ」
隆一朗は目を伏せた。
暫く居心地の悪い沈黙が続いた。
「瑞基はいつも隆一朗に必死だよ
もっと大事にしてやんなよ」
「解ってる」
魁威は表情を変えて声高に言った。
「まあ、でもあれは傑作だよな
瑞基、危うく手込めにされそうになった時、マスターの股間にゲロったんだってさ」
「瑞基、ナイスタイミング! 」
瑞基は親指を立てた。
「だってさ
マスターのキス、めちゃくちゃ下手だし気持ち悪いんだもん」
「へーえ、少年喰いも大した事無いんだな
て言う事は、隆一朗はキス上手いんだ」
「うん、めっちゃ上手い
オレ、隆一朗のキスだけで三回はイケる自信ある! 」
瑞基は元気にガッツポーズした。
「隆一朗もやりたい盛り抱えて大変だな」
隆一朗は頭を抱え込んだ。
「瑞基、そんな告白しなくていいよぉ」
「あれ、駄目? 」
三人は堪えきれず、隆一朗から視線を外して笑った。
この後、瑞基と隆一朗のネタを肴に魁威たちは朝まで飲み明かした。
読んで戴き有り難うございます。
このシーンは第二章では、凄くお気に入りのシーンです。
魁威、麗畏、樹良(鬼滅の刃なみに読みずらい漢字ですみません)の三人と隆一朗と瑞基の和気あいあいとした雰囲気大好きです。
ラプンツェルの接吻は、マンガの時から何度も描き直したりして、膨大なボツ原稿あるんですよ。
この作品を書く時は、その膨大な原稿の存在忘れていて、後から押し入れからいっぱい書いた物が出て来て、自分で書いておきながら「へーえ、こんなシーンあったんだ」とか「こんな設定だったんだあ」とか一人で関心してました。
あまり注目されない作品ですが、私にとっては愛して止まない作品です。




