偽物
読んで戴けたら、倖せでございます。
隆一朗が姿を消してから一ヶ月が過ぎた。
瑞基は忙しくしている事で隆一朗が居ない事を忘れていられた。
部活とバイトをこなす日々がある事に感謝した。
それでも、バイトが休みになると自然と病院に足が向いた。
隆一朗はここに居ないのだと気付いて、引き返し、隆一朗の片鱗を求めてエリザベータに寄った。
エリザベータに入ると、麗畏と樹良がてぐすねを引いて待っていた。
瑞基は麗畏から着替えを渡された。
「隆一朗が置いてた着替えだよ、サイズ今のお前なら着られるだろ」
「着られるけど、どうして? 」
「いいから早く着替えな」
仕方なく瑞基はついたての陰で着替えた。
「よし、瑞基
行くぞ」
麗畏と樹良とで挟んで腕を組んだ。
「行くって、何処へ? 」
急に店内の照明が消えた。
奥から片付けを終わらせた魁威が出て来ると瑞基の背中を押した。
「今日は徹底的に飲むぞ」
「飲むって、オレ酒飲めないよ」
「いいから、いいから」
瑞基は三人に引き摺られる様にして店から出た。
魁威は店の鍵を掛けると瑞基の肩を掴んで押し始めた。
四人はネオン輝く飲み屋街へと向かった。
四人は「マルト」と云うバーに入るとカウンターでグラスを拭いている男にオーダーを頼んでカウンターに一番近い席に陣取った。
「瑞基、似てると思わない? 」
麗畏が声を潜めて言った。
「ほら、ここのマスター」
「え? 」
瑞基は失礼にならない様に、横に座る魁威の陰から覗き見た。
俯いてグラスに酒を注ぐバーテンダーの顔が少し隆一朗に似ている気がした。
「隆一朗に? 」
「そうそう………」
「でもさ、隆一朗の方がもっと背が高いし、隆一朗の方がもっと若いし、隆一朗の方がもっとカッコいいし、あの人似てるけど、型崩れした隆一朗みたいだ」
三人は瑞基の言葉に吹き出した。
「型崩れした隆一朗……………確かに」
魁威が一番笑った。
「それは悪かったね、型崩れした隆一朗で」
マスターがいつの間にかオーダーを運んで来ていた。
魁威はバツが悪そうに言った。
「気を悪くしないでマスター
こいつ隆一朗にべた惚れなんだ」
「へーえ」
マスターは瑞基をガン見した。
「それで今日は、隆一朗は来ないの? 」
麗畏が言った。
「隆一朗、こいつ置いて雲隠れしちゃってさ」
「ふーん
こんな可愛い子置いて、隆一朗も罪なことするね」
暫く四人は雑談しながら飲んでいた。
瑞基はライムソーダを飲みながら時々、マスターを盗み見た。
視線が合うとマスターは意味ありげに微笑んで見せた。
マルトを出ると樹良が心配そうに言った。
「あのマスター、ゲイだってもっぱらの噂なんだ
人によっては少年喰いなんて言われてるらしいよ」
麗畏が言った。
「それ、先に言えよお! 」
「しょうがないよ、今思い出したんだからあ」
「え、じゃあ俺ヤバい事したのかなあ
最近の瑞基、痛々しいくらい元気無いからさあ」
マルトに連れて来たのは麗畏の思い付きだった。
魁威が言った。
「連れて来ちゃったものは、どうしようもない
瑞基、あのマスターに近付くなよ」
樹良が言った。
「マスター、瑞基に興味持ったみたいだ
気を付けた方がいいよ」
「解った」
瑞基はあまり実感が湧かなかった。
その日はバイトが休みで瑞基は部活が終わると、ぼんやりと隆一朗を思いながら歩いていた。
気付くと飲み屋街をフラついていた。
昼間の飲み屋街は人気が無く白々としていた。
マルトの前を通りかかると、どうしても中に入ってみたくなった。
ドアを開けると奥から人が出て来た。
「すみません、まだ準備中なんです」
「ごめんなさい」
瑞基は出て行こうとした。
「君か、君ならいつでも大歓迎だよ」
瑞基は振り返った。
「そんなに隆一朗が恋しい? 」
「別にそんなんじゃ……………」
「まあ、そんなとこに居ないで、こっち来て話そうよ
隆一朗の今居る場所の話をさ」
瑞基の顔色は変わった。
「知ってるの? 」
「凄い喰い付きようだね」
「何処に居るの?
今、隆一朗は何処に居るんだよ!?」
マスターは両腕をカウンターにかけて凭れた。
「そんな事、ただで聞けると思うの?
一応、こういう業界では情報の相場ってものが在るんだよ」
「オレ、今給料日前だから、そんなに持ってないよ」
「じゃあ、別の払い方でもいいよ
そうだな、ここの二階にはお誂え向きにベッドが置いてあるんだ
意味解るよね」
瑞基は目を伏せて暫く考えた。
「解った
でもその前に居場所教えて
やられ損なんて嫌だからさ」
「いいよ
その前に前菜が味わいたいね
本気かどうか」
瑞基はマスターの前に進み出た。
「オレ、これでも正直で通ってるんだけど」
マスターは瑞基の腰に腕を回して抱き寄せ、瑞基の後頭部に手を回して、いかなり口を押し付け舌で瑞基の口をこじ開けた。
ぬるぬるした感触が瑞基の口の中で暴れた。
瑞基は吐きそうになるのを必死に堪えた。
瑞基が口を離すとマスターは首筋に吸い付いて来た。
「前菜はもういいだろ
教えてよ、隆一朗の居場所」
マスターは首に這わせていた口唇を離した。
「しょうがないなあ、一応約束だしな
W市のベラドンナって大きなクラブで俺に似た奴がピアノの弾き語りしてるって客が言ってたな
さ、二階に行って続きと行こうか」
瑞基は口を押さえて言った。
「あんた、キス下手だね」
瑞基はそこまで言うと、堪え切れず思い切り吐いた。
嘔吐物がマスターの丁度股間にかかった。
「わ、なんだよお前! 」
「あんたが気持ち悪いキスするから」
瑞基はまた吐いた。
店中に、嘔吐物の強烈な匂いが充満した。
「もう、帰れ!
お前みたいなゲロ餓鬼、抱く気も失せた!
さっさと帰れ! 」
瑞基は口を押さえて店を出た。
その足で一端アパートに帰り、嫌と云うほどうがいして、ついでに歯も磨き捲った。
シャワーを浴びて、それからバッグに必要なものを急いで詰め込み部屋を出た。
駅に行く前にエリザベータに寄った。
「魁威さん、お金貸して! 」
瑞基は店内に入るなり言った。
「入って来るなり借金か」
魁威は皿洗いの手を止めて振り返った。
瑞基は頬を紅潮させて言った。
「隆一朗の居場所が解ったんだ! 」
魁威は驚いて訊いた。
「それ、何処情報」
「マルトのマスターから聞いたんだ」
「あそこには近付くなって言ったろ
何もされなかったか? 」
「情報くれる代わりにベッドに誘われたけど、あんまり気持ち悪いキスされたから、オレマスターの股間に吐いちゃって、ゲロ餓鬼って追い出された」
魁威は、あんまり瑞基がさらりと言うので、言うべき言葉が出なくなった。
「マスターの股間に吐いたって? 」
魁威は腹を抱えて笑った。
「それは傑作だな
で、隆一朗は何処に居るって?」
「W市のベラドンナってクラブでピアノの弾き語りしてるって言ってた」
「それで、いくら欲しいの? 」
「五万くらい」
魁威はズボンのポケットから財布を出すと一万円札を五枚出して瑞基に渡した。
「有り難う、魁威さん」
瑞基は両手を合わせて頭を下げた。
「瑞基、吐かなかったら本気でベッドのお供するつもりだったのか? 」
「オレ、隆一朗の居場所がどうしても知りなたかったんだ」
「でも、そんな事したら隆一朗が哀しむって考えなかったのか? 」
「それでもオレは、隆一朗に逢いたいんだ、どうしても」
「莫迦だよ、お前は
そんな事したら、隆一朗のことだ、あいつは自分を責めるよ」
「この事は隆一朗には言わないでくれる
オレは何をしてでも隆一朗の傍に居たいんだ」
「瑞基………………」
魁威は哀しげな表情を浮かべて言った。
「やっぱり莫迦だよ、お前は………………」
「莫迦でも何でもいいよ、隆一朗の傍に居られるなら
もう、行くよ
汽車が来ちゃう
有り難う、給料出たらちゃんと返すから」
瑞基は急いで店を出た。
魁威は瑞基が出て行くのを見送った。
「隆一朗も莫迦だ
こんなにも想われているのに…………………」
読んで戴き有り難うございます。
ブックマークして下さった方、有り難うございます。(*- -)(*_ _)ペコリ
何らかの、リアクションして戴くと、私の作品読む事で、何か心を動かす物を感じて戴けたのかな?
と、勘違いできるので、嬉しいです。
( ̄∇ ̄*)ゞ
投稿した短編でアクセス数が百越える事はまず無くて、夕べ投稿した短編「最後の嘘」が、一日で百を越えて驚いています。
読んで下さった方、有り難うございます。
m(_ _)m
なんのひねりも無くて、バッドエンドにそのまま突入して終わった作品で、何も希望が無くて申し訳無いなあと、思っています。
辛い事って生きていると、何度も遭ってしまいますが、私はこう考えます。
人生百年時代に辛い時は、その内の何年かの事だから、今は耐えて終わるのを待とう。
「最後の嘘」では、主人公は絶望してしまいますが、皆様は希望を決して忘れないでいて欲しいなって思います。
目先を変えると世の中には楽しい事、沢山あるので、暗い気持ちに負けないでいて欲しいなと思うのです。
虐めをテーマにしてましたが、うちは娘二人共、虐めに遭っていて、上の娘はそのせいで神経を患い社会生活できなくなってます。
担任にまで一緒になって虐め受けてて、だから「最後の嘘」は少し実話なんです。
でも、上の娘は社会復帰目指して頑張ってます。
辛い事、いっぱいある世の中だけど、諦めなければ、きっと開けて来るものはあると思うのです。
それはふとした出逢いだったり、環境の変化だったり、皆様、どんな目に遇おうと希望を忘れないでいて下さい。




