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第二章  日常

 読んで戴けたら倖せです。

 隆一朗の病室に、長身の学生が一人佇(たたず)み、哀しげな表情を浮かべ、壁を見詰める隆一朗を見ていた。


『もう、一年にもなる

 脳に問題がある訳じゃ無いのに、隆一朗の状態少しも良くならない………………』


 それでも瑞基は隆一朗に笑い掛けた。


「隆一朗、解る?

 オレだよ、瑞基だよ」


 瑞基はいつもの様に、隆一朗の視界に入る様に隆一朗のベッドに腰掛けた。


 隆一朗の髪は黒く、先の方だけ銀髪が残っていた。


 気の利いた看護婦が勝手に病院内の床屋に連れて行き散髪させ、胸まであった髪はバッサリ切られこざっぱりした頭になってしまっていた。


 この一年で、瑞基の身長は十五センチも伸び、制服を二度も新調しなければならなくて、母の綾子は頭を悩ませたほどだった。


「今居る現状で一生懸命やらなきゃならない事を一生懸命やって欲しいだけだよ」

 と言っていた隆一朗の言葉通り、瑞基はこの一年、真面目に学校に通い、バスケ部とオモチャ屋のバイトをこなす日々を送っていた。


 土日も午前からバスケ部の練習があり、終わるとバイトに直行、夜九時まで働いた。


 バイトが休みの日は、部活が終わると隆一朗の処へ直行した。


 面会時間の終了は八時なので、一時間半の時間を週に二回、隆一朗と過ごしていた。


 隆一朗の病状はこの一年、悪くもならなかったが、良くもならなかった。


 外界から遮断された隆一朗の意識は周囲の期待を余所(よそ)に、一向に外に向けられる事が無かった。


 瑞基は、それでもひたすら隆一朗に話し掛けた。


 いつか隆一朗が戻ってくれるのを信じて。


 そして、自分を納得させる為に。


「隆一朗、オレ自分でも随分変わったなって思うよ。

 女顔の事言われても殴らなくなったし。

 もうどうでもよくなっちゃったんだよね、身長伸びたから女の子に間違われる事も無くなったしさ。


 でね、真面目に学校行くようになったら、結構楽しいんだなって解った


 バスケも上手くなると面白くてさ

 試合で選手に選ばれてからは、もっと上手くなりたいって思う様になったよ

 身長伸びたからダンクとか決められるじゃん、気分いいんだよね


 オモチャ屋のバイトはね、発注任されるぐらい信頼されてる


 隆一朗はオレぐらいの時、あちこち仕事、転々としてたって魁威(かい)さんから聞いた


 そうそう、夕べ、また彼女と喧嘩したって、麗畏(れい)さんが夜中に来てさあ

 すんごいお酒臭いのにオレにへばりついて言うんだ

 「隆一朗が居ない今、瑞基だけが俺の気持ち解ってくれて嬉しいよ」とか言うの


 で、オレ酒の匂いだけで眠くなるじゃん

 眠っちゃうと、めちゃくちゃ怒るんだよ

 「俺が一生懸命話してるのに寝るとは何事だ」って

 不可抗力だよね、オレ悪く無い


 お蔭で今日、眠くてさあ

 授業中居眠りしちゃったさ


 でも大丈夫

 ほら、チケット買ってくれた森さん

 最近よく話すんだ


 バスケ部やってバイトやってって、大変だからって、困った時ノート貸してくれるんだ

 彼女のノート、すんごい解りやすくてめちゃくちゃ助かる


 やばっ、チケット買ってくれた埋め合わせ、まだしてない

 今度、何か奢(おご)らないとね」


 瑞基はじっと隆一朗の表情の無い顔を見詰め、溜め息をついた。


「隆一朗、今何考えてるの?

 隆一朗の笑った顔、忘れそうだよ」


 瑞基は隆一朗の膝に静かに横たえた。


「もっと隆一朗との時間あったらいいのにね」


 瑞基は隆一朗の膝に横たえたまま、意思の無い隆一朗の手を弄(もてあそ)んでいた。


 面会時間の終了を知らせるアナウンスが流れた。


 瑞基は起き上がった。


「もう時間だって、また来るからね」


 瑞基は隆一朗を見ながら後ろ向きに歩いて病室を出て行った。


 病院を出て徒歩で五分足らずの処にエリザベータがある。


 ドアを開けるとお客は疎(まば)らで、カウンターに麗畏と樹良(じゅら)が来ていた。


「瑞基、今日は何食べる? 」


 魁威が腕に手を掛けて訊いた。


「うーんとね、パイナップルカレーかな」


 魁威は真面目な顔で訊いた。


「それで本当にいいのか? 」


「冗談に決まってるでしょ」


 魁威は大真面目な顔で言った。


「なんなら作るよ」


「すみません、もう言いません」


 瑞基は頭を下げた。


 麗畏と樹良が笑った。


 魁威は瑞基の晩御飯を作りに奥へ引っ込んだ。


「隆一朗は相変わらず? 」


 樹良が訊いた。


 瑞基は力無く頷(うなず)いた。


 隣に座ると、樹良が瑞基の肩を叩いた。


「ああ云う病気は時間が掛かるって聞いた事ある

 気長に待とうよ」


「そうだね、そうするしかないもんね」


 瑞基は頬杖をついた。


 麗畏が言った。


「瑞基も頑張るよな

 ちゃんと寝てるか? 」


「うん、麗畏さんが乱入しなければね」


 瑞基は悪戯(いたずら)っぽい笑みを麗畏に向けた。


「悪かったよ

 酔っぱらうとついついあのアパートに足が向いちゃうんだよ」


「オレ、嫌じゃ無いよ」


 瑞基は笑顔で言った。


「お前、いい奴だな」


「今頃気付いたの?

 オレ、前からいい奴だよ」


「自分で言うな」


 麗畏の突っ込みに皆笑った。


 バートリーはこの一年開店休業中で、練習さえしていなかった。


 二人ものメンバーを一度に失ったバートリーの痛手は大きく、彼らのモチベーションを多大に削(そ)いでいた。





 読んで戴き有り難うございます。


 老眼鏡を掛けて、原稿をスマホに打ち込む作業にも随分慣れた様で、最初の頃は肩が凝ったり、目がしょぼついたりと老化現象に悩まされていましたが、最近は楽になりました。

 いや、ばあ様だから仕方無いのですがね。

 この頃、他の作品をちょこちょこ覗きに来て下さる方がおられて、嬉しい限りです。

 書いてる以上、読んで下さる方に恵まれるのは、この上無い喜びです。

 第二章が始まり、心機一転頑張りますので、どうぞお付き合い戴けると倖せです。

 宜しくお願い致します。m(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[一言] なんか瑞基の寂しい気持ち、痛いほど良く分かります。 あれから1年も・・・ですか・・・(-_-;) 第2章のスタートは曇天ですが、必ず希望の光が差し込むことを祈ります。
[一言] みずきに感情移入し切ってしまっているのか、隆一郎ロスが激しすぎて…僕まで気持ちにポッカリと穴が空いてしまっています…。
2023/01/01 23:05 退会済み
管理
[一言] >この頃、他の作品をちょこちょこ覗きに来て下さる方がおられて、嬉しい限りです。 良かったですね。なろうでのご活動が定着しつつある証拠ですね。
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