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聖詞の成長

 読んで戴けたら嬉しいです。

 アパートに戻った隆一朗はベッドに(もた)れ、放心状態で天井を見ていた。


 (そば)には、カラのウィスキーのボトルと、大量の精神安定剤のシートが散乱している。


 真っ暗な部屋には彼女が愛したドアーズが、ずっとエンドレスで流れていた。


 彼女が特に好きだった「ピープルアーストレンジ」が流れ始めると、何処からともなく足音が近付いて来た。


 手首から血がぽたぽたと(したた)り落ち、足音は隆一朗の前で立ち止まった。


「隆一朗、よく六年も生き恥を(さら)して来たよね」


 聖詞は(かが)んだ。


 隆一朗はぼんやりと聖詞を眺めた。


「それは、ともかく

 おめでとう、ボクは成長を始めたんだよ」


 聖詞は軽蔑を籠めて隆一朗を見詰めた。


「キミは死ぬべきだったんだ

 ボクと云うモンスターを生み出す前に」


 聖詞は、朦朧とした隆一朗の首に指を絡めた。


滑稽(こっけい)だと思わない?

 何を失っても愛したいと願っていた女性が命を断ったんだ 

 キミが彼女を追い詰めた

 キミに生きる喜びは恵まれ過ぎてる

 新たな愛を得るなんて、許されていい筈が無いんだ」


 聖詞は指に力を込めた。


 聖詞の手首から滴る血が無抵抗な隆一朗の首筋に紅い模様を描いた。


 隆一朗の顔が歪む。


 聖詞は顔を歪め、更に力を込める。


 隆一朗の目が見開かれる。


 それでも尚、隆一朗は抵抗しなかった。


「隆一朗、帰ってるの? 」


 瑞基は暗闇を照らそうとスイッチをまさぐった。


 蛍光灯の強い光が目を刺激する。


 瑞基は手を(かざ)した。


 目が慣れ、瑞基の視界に飛び込んで来たのは、自分で自分の首を絞める隆一朗だった。


 瑞基は自分が今、何を見ているのか理解できなかった。


 ウィスキーの空瓶と大量の精神安定剤のカラになったシートを見て、隆一朗に何が起きているのか、やっと理解した。


「隆一朗! 」


 瑞基は慌てて隆一朗に飛び付いた。


 とにかく首を絞める手をほどこうと手首を掴むが、隆一朗は信じられない力で絞め付けていた。


 こんなにも死に執着する隆一朗が哀しくて、瑞基は泣きながら必死に手を引き離そうとした。


「どうして!

 隆一朗、お願いだからオレを見てよ!

 隆一朗!

 どうすれば……………? 」


 瑞基の哀しみは臨界点を突破して怒りに変わった。


莫迦(ばか)隆一朗っ!! 」


 瑞基は渾身の力を込めて隆一朗を殴った。


 殴られた隆一朗は床に倒れ、激しく咳き込んだ。


 どうにか首を絞めていた手は振りほどけたらしい。


「隆一朗の莫迦!! 」


 瑞基は隆一朗の身体にしがみついた。


「どんなに自分を責めたって死んだ人は帰って来たりしないのに!

 隆一朗が死んだら哀しむ人が、隆一朗の周りにはいっぱい居るのに!

 どうして、その人達の想いが解らないんだよ! 」


 瑞基は大声を上げて泣いた。


 隆一朗は呼吸が落ち着くと、泣いて自分にしがみつく瑞基の頭を無意識に撫でた。


 薬とウィスキーで思考が鈍り、朦朧とした意識の中で、愛しい人が自分の為に泣いているのをぼんやりと認識した。


「オレ、哀しいよ

 隆一朗が突然死んだら、まともでいられるか自信無い

 それくらいオレ、隆一朗の事好きなんだ

 自分でも、どうしていいか解らないくらい大好きなんだ」


 暫く瑞基は隆一朗の胸に顔を押し付けて泣いていた。


 隆一朗は泣く瑞基を抱き締め、頭を撫で続けた。


 瑞基が顔を上げると隆一朗はいつに無く優しい眼差しで瑞基を見詰めていた。


「ごめん、口から血が出てる

 オレ、力任せに思い切り殴ったから」


 隆一朗は親指で瑞基の涙を拭い、頬を手で包んだ。


 そして、そっと瑞基の口唇に口唇を押し当てた。


『え? 』


 瑞基は驚いて抵抗すると云う処まで思考が至らなかった。


 隆一朗は何度も浅いキスを繰り返す。


 そうしている内に瑞基の感情は溶けて行った。


 瑞基は静かに目を閉じた。


 瑞基は今まで感じた事の無い甘い(うず)きが身体中に広がって行くのを感じた。


 隆一朗の浅いキスは、次第に深くなって瑞基に侵入して行った。


 それは、とろけてしまいそうに甘く、瑞基の頭を痺れさせた。


 二人は時を忘れ、口唇を重ねたまま互いを求める様に抱き合った。

 隆一朗が口唇を離すと瑞基は言った。


「もう一度して」


 隆一朗は瑞基の肩に腕を巻き付けると回転して瑞基の上に身体を重ねた。


 そして、熱く燃える様な口付けをした。


 瑞基の身体が火照る。


 隆一朗の愛撫を受け、瑞基の身体は素直に反応していた。


「待って、待って

 隆一朗、めっちゃ酒の匂いする

 オレ、気持ち悪くなって来ちゃった」


 隆一朗は顔を上げると小さく微笑み、瑞基の髪を撫でた。


「オレ、眠くな………っちゃ……た…………か……も…………………」


 瑞基は直ぐに寝息を立て始めた。


「ほんと、お酒に弱いんだから……………」


 隆一朗は、瑞基の髪を撫で続けたが、暫くすると瑞基の肩を枕に眠ってしまった。





 読んで戴き有り難うございます。

 このキスシーンは書くのをとても楽しみにしてました。

 綺麗に感じて戴けたら倖せです。


 この間、娘とM・ナイト・シャマラン監督の「シックスセンス」を久々に観ました。

 私にとって、あの映画は神映画で、大好きなんですよお。

 ラストのどんでん返しが、やっぱり神です。

 M・ナイト・シャマラン監督の作品に「ヴィレッジ」がありますが、あれは恋愛映画として観るとやっぱり神です。

 どんでん返しも去ることながら、愛の奇跡を感じます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 隆一郎の闇の深さ、就寝時に酷くうなされている原因はコレだったんですね(・_・;) キスの”おかわり”をせがむ瑞基が可愛い( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ ) そして、お酒の匂いで眠くなっちゃうだなんて…とって…
[一言] オーバードーズ、やりすぎると本当にやばいですし、ウィスキーなんて普通の量でも危険なのに…みずきの愛に気づいて、癒されてほしい><
2023/01/01 22:51 退会済み
管理
[一言] 書きたかったシーンということがとてもよく伝わってきます。 いい意味で力が入っているという感じです。
感想一覧
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