表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/74

万引き

 読んで戴けたら、見に余る光栄です。

「隆一朗、悪いけど銀行行って来て」


 清掃する隆一朗に魁威が言った。


「いいよ、昼前には帰るよ」


 隆一朗はエプロンを取るとコートを着て振り込み用紙と現金の入ったバッグを片手にエリザベータを出た。


 銀行で用事を済ませると昼の忙しい時間に間に合わせようと帰りを急いだ。


 私服姿の学生五、六人が(たわむ)れながら向こう側の歩道を歩いているのが目に入った。


『瑞基? 』


 学生達はこの街で一番大きな本屋に吸い込まれて行った。


 隆一朗は気になって本屋に入った。


 コミックス売り場に瑞基は仲間の一人と棚の本を見ていた。


 仲間の一人は辺りを見回し、人が居ないのを確認すると瑞基に合図した。


 瑞基はそっと手に持っていたリュックにマンガ本を滑り込ませようとしたが、反対側の本棚から人影が現れ、素早く瑞基の手を掴んだ。

 見上げると隆一朗が冷たい眼差しで首を振った。


 仲間はそれに気付くと一目散に逃げ出した。


 隆一朗は掴んだ手を強く引っ張ってそのまま外へと瑞基を連れ出した。


 外に出ると瑞基は隆一朗の手を投げ付ける様に振り払った。


「何すんだよ! 」


「自分が何をしたか解らないの?!」


 背後から声がした。


「お客様、失礼ですがそちらの商品のお会計はお済みでしょうか? 」


 振り返ると店員が怪訝な顔つきで、隆一朗と瑞基を交互に見ていた。


 二人は事務所に通され、椅子に並んで座らされた。


 目の前のテーブルには瑞基のリュックから出て来た未会計のマンガ本が十冊置かれていた。


 瑞基が隆一朗を盗み見ると、隆一朗は目を伏せて黙っていた。


 店長らしい男が(おど)すような口調で言った。


「こんな子供に万引きさせて、どう云うつもりなんだ? 」


「ちが…………! 」


 瑞基が叫ぼうとするのを、隆一朗は軽く瑞基の手に触れて(さえぎ)った。


「警察に来て貰うからな」


 果たして、警察はやって来た。


「少年課の葉山です」


 そう言って葉山はバッジを見せた。


「取り敢えずこの二人の身柄はこちらで預からせて貰います

 追って処分しますので、この後の事は任せて下さい」


 葉山はちらりと二人に目をやると「来なさい」と言って二人を待った。


 隆一朗と瑞基が来ると


「ご協力感謝します」


 と、店長らしき男に敬礼して事務所を離れた。


 店を出て暫く歩くと、葉山は振り返った。


「藤岡、どうした餓鬼んちょ連れて」


「ご迷惑掛けてすみません」


 隆一朗が頭を下げると瑞基も習って頭を下げた。


「クソ真面目でどMなお前が、この餓鬼んちょに万引きさせるなんて考えられないからな

 だいたい状況は解るよ」


 葉山は瑞基を見た。


「おい、餓鬼んちょ

 今回は藤岡の顔に免じて見逃してやるが、ニ度目は無いと思えよ

 じゃあな藤岡、たまには親父さんに顔みせてやれよ

 俺は忙しいから行くが、もう面倒はかけるな」


「有り難うございました」


 隆一朗が頭を下げると瑞基も習った。


「全く、署にたまたま俺が居たから良かったが、居なかったらお前だけじゃ無い、藤岡がどうなっていたか解らなかったんだからな」


 瑞基は想像して背筋が寒くなった。


「じゃあな」


 葉山は足早に去って行った。


 隆一朗もエリザベータに急いだ。


 隆一朗の脳裏には鬼の形相でパスタを炒める、今にも噴火しそうな魁威の姿が映っていた。


「隆一朗!

 何をそんなに急いでるの? 」


「時計を見れば解るよ! 」


 エリザベータの横の駐車場は満車になっていた。


 ドアを開くと正にそこは戦場だった。


 九つあるテーブルとカウンターはほぼ満席、魁威が鬼の形相でパスタを炒めていた。


 隆一朗は上着を脱ぐと手を洗い、エプロンを着ける暇も無くオーダーを運び始めた。


 それに気付いた魁威は、助かったとばかりに炒めていたパスタをひっくり返し叫んだ。


「隆一朗、遅ーい!

 瑞基も一緒か、手伝え! 」


 瑞基も慌てて水を注いで運んだ。

 






 読んで戴き有り難うございました。


 先日の後書きで書いた、騒音を立てて警察を呼ばなければならなくなったお二階さんが昨日、うちの母の処に来て謝って行ったそうです。

 母も溜飲が下がった様で嬉しそうにしてました。

「いつも子供が煩くしてすみませんね」と言う一言があれば、うちの母も多少煩くても気にはならなかったと思うんです。

 でも、一言処か挨拶さえしなければ、やっばり良くは思えませんよね。

 うちの母、そんな意地悪な性格してなくて、どちらかと言えばお人好し。

 苦情言いに行った時も、一言謝ってくれれば、それでおさまって警察呼ぶような事にはならなかったと思うんです。

 でも、あんまり莫迦にしたような態度とって、止める様子も無かったので、大事になってしまいました。

 母がそれでストレス溜めて心臓に負担かけて具合悪くなったら、もっと嫌悪な事になってしまいますもん。

 障害を抱える母が被害届だしたら、民事では無く刑事事件になっちゃうから、お二階さん罰金払うとか最悪後ろに手が回る事に。

 「心臓に病気抱えてるから静かにして下さいって言ってるのに」って、私も旦那も凄く怒ってましたからね。

 挨拶、大事ですね。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ごめんなさい!的な意見になります。 警察も隆一郎も、万引きした瑞基を許すべきではなかったと思います。 万引きは非行の第一歩なのですから、ここは厳しく接して欲しかったな。って思いました。 特に…
[一言] 万引き、穏便に住んでよかったです…。 お母様の事案も穏便に住んだようで…安心しました。
2023/01/01 16:15 退会済み
管理
[良い点] こうなると学校へ行くこと=いいこととも言えませんね。 [一言] プライベートなこと落ち着いたようで良かったですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ