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エリザベータ

 読んで戴けましたら倖せです。

「学校はどうするの!? 」


「だから、家出してて、なんで真面目ぶっこいて学校行かなきゃなんないのさ?! 」


 行き交う人が振り返る。


 辺りは住宅街だが、近くに市立病院と薬剤局、市役所があるので、この時間の人通りは少なくない。


 エリザベータと云う喫茶店の前の、路上のど真ん中で大声で口喧嘩しているのは瑞基と隆一朗だった。


 エリザベータの出入り口のドアが開き、魁威(かい)が現れ怒鳴った。


「お前ら、いい加減にしろ!!

 恥ずかしいから、さっさと入れ! 」


 二人は魁威を振り返ると、怒りを押し殺しエリザベータに入ろうとした。


「どうして、キミまで入って来るの?! 」


 隆一朗が言うと瑞基は隆一朗より先にエリザベータの中に入って行った。


「瑞基! 」


 振り返った瑞基はわざと大声で言った。


「恥ずかしいよ、隆一朗! 」


 隆一朗はバツが悪くなり、エリザベータに大人しく入るしかなかった。


 二人が入ると魁威は、やれやれと言う様に頭を振り、ドアをしめた。


「いったい、何なんだよ? 」


 魁威が呆れ顔で言った。


 二人が同時に話し始めたので、魁威は両手を広げ、一端二人を制した。


「解った、解った、順番に聞くから!

 まずは瑞基から、はい、どうぞ」


 魁威が瑞基に開いた手を差し出した。


「隆一朗がクソ真面目過ぎるんだよ

 オレは隆一朗が働いてるとこ見たいって言ってるだけなのに、そんな暇があるなら学校行けって言うんだ」


 瑞基が言い終わる前に隆一朗が口を(はさ)んだ。


「学生なんだから学校行くのは当たり前だよね、今日は土日でも無ければ祝日でも無いんだから」


「だから、なんで家出してるのに学校行くんだよ? 」


 少しずつヒートアップして行く瑞基に対して、隆一朗はだんだん冷静になって行った。


「親に反発しているなら、一人でもまともにできるって証明して見せるのが正当なやり方じゃないのかな」


「残念ながら、オレはそんないい子ちゃんじゃないからね」


 瑞基は口を(とが)らせた。


「じゃあ、キミは何を目的に家出したの? 」


「親にムカつけば家出くらいするだろ」


「親に心配させて、自分の甘えを正当化させようって事かい? 」


 そう言われると急に瑞基のテンションは下降した。


「自分だって、家出して学校辞めたじゃん」


「今はボクの事は関係無いだろ」


 魁威は手をパンパン鳴らして言った。


「はい、そこまで

 お互い言いたい事は充分言ったろ」


「魁威、これじゃ何も解決してない」


 隆一朗は眉間に皺を寄せた。


 魁威は腕を組んで、少し考えてから言った。


「あのさ、要するに瑞基は何て言うか、舐めちゃってくれてるんだと思うよ、色々と」


 隆一朗は魁威の次の言葉を待った。


「なんなら、今日一日、うちで働いて貰う?

 労働の社会勉強

 学校いくより、いい勉強になると思うよ」


 魁威は隆一朗に意味ありげに微笑んで見せた。


 それを見た隆一朗は瑞基に向き直って『どうする?』と云う顔をした。


 瑞基は魁威と隆一朗の顔を交互に見た。


 隆一朗が(うなが)すように言葉を()えた。


「今日、ここで一日バイトする事は確かにいい経験だと思うから異論は無いけど

 瑞基、アルバイトの経験はあるの? 」


「バイトの経験なんて無いけど

 やってやろうじゃん!

 そのいい経験に挑戦してやるよ」


「お、決まりだね

 瑞基の給料は隆一朗の分から天引きしとくから」


 髪を縛っていた隆一朗の顔色がにわかに変わった。


「ちょっと、魁威! 」


 魁威は隆一朗の肩を軽く叩いた。


「ジョークだって

 楽しい一日になりそうだな」


 魁威は何故か、ご機嫌だった。


「瑞基、これだけは何が何でも守って貰わないと困る

 どんな客だろうとお金払って来て戴いてるんだ

 絶対不機嫌な顔を見せたり逆らったりするな」


 瑞基の背筋がピンと伸びた。


「解った」


(ところ)で瑞基……………」


 魁威は後退りしながら言った。


「メイド服、着る気ない? 」


 瑞基の手が拳を作ると、すかさず隆一朗が後ろから肩を掴み、回れ右をさせた。


「まずは店内の清掃を始めようか」


「隆一朗!

 これだけは絶対許しちゃなんねーんだよ! 」


 腕を引かれながら、もがくが隆一朗はそれ以上に頑強な力で離さなかった。


「お給料くれる人に手荒な事は止めようね」


 エリザベータは本来、魁威の両親が経営している喫茶店だが、魁威が高校を卒業すると同時に調理師免許を取らせ店を任せていた。


 魁威のバンド活動にも理解していて、魁威の活動がある日は両親が店に出た。


 そうで無い日は、旅行に出掛けたり、芝居を見に行ったりと隠居生活を満喫していた。


 近所に病院や市役所等があるのと、周辺に競合店も無いので、経営は魁威と隆一朗の給料を余裕で払えるくらいには安定していた。


 さて、瑞基の初体験だが、散々なものだった。


 働くと云う事が自分を抑えると云う事に直結している事を知らない瑞基は、お客が混んでも嫌になると勝手にカウンターに座り込んだ。


 魁威と隆一朗は、仕事と云う物のノウハウを一から説明しなければならなかった。


 仕事をすればしたで、言葉使いやオーダーを間違えるなど茶飯事で、お客が呼んでも無視、運んだ飲み物を客の膝に溢したり、乱暴にオーダーを置いたり、瑞基が何かやらかす度に魁威と隆一朗が対応に追われ、二人は今日一日で何度、怒る客に頭を下げたか解らなかった。


 瑞基は謝り方すら解らないのだ。


 半日も経たない内に朝の勢いは跡形も無く粉砕し、瑞基は生まれて初めての挫折を味わった。


 帰り道の瑞基は、上着のポケットに手を突っ込み、背中を丸めて隆一朗の後ろをとぼとぼ歩いていた。


 社会の中の等身大の自分を目の当たりにして、相当ショックを受けたようだ。


 隆一朗が話し掛けても返事もしない。


 アパートに帰ってもコートすら脱ごうともせずベッドに凭れ、下を向いたまま座り込んでいた。


 見かねた隆一朗が溜め息をついた。


「明日、リベンジする? 」


 そう言われて瑞基は、初めて頭を上げた。


 隆一朗はくすっと笑った。


「じゃ、明日魁威に頼んでみるよ」


 瑞基の顔がパーッと明るくなった。


「うん! 」


 次の日、魁威に頼むと、魁威は快く引き受けてくれた。


 瑞基は打って変わって真剣に仕事に取り組んだ。


 全く失敗をしなかった訳では無いが、謝罪のやり方は解ったようだ。


 オーダーを間違えたお客にコーヒーを運び、


「先ほどは大変申し訳ごさいませんでした

 よろしければ、当店のサービスですのでお召し上がり下さい」


 ……………と、深々と頭を下げるくらいはできる様になった。


 魁威と隆一朗はハイタッチをして喜び合った。







 読んで下さり有り難うございます。

 やっと少し展開しました。笑

 ここからは少しは楽しんで戴けると思うのですが。


 皆様、コロナとインフルエンザ大丈夫ですか?

 本当に全世界が大変な事になってて、中国はパンデミックになったとか。

 処でパンデミックって、なんだろー❔

 頭がひたすら悪過ぎる私です。笑

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― 新着の感想 ―
[一言] 私、学生時代ケンタッキー(KFC)でバイトしていたんですが、接客業はニコニコしていれば何とかなるんだなって直ぐ思ったのを思い出しました。 瑞基って、不器用(笑) だけど、不器用な人が頑張る方…
[一言] みずきの気持ちの方が理解できる僕です…。 ええ、仕事につけない状態です。 自分を抑えて働いていた時期もありましたが、壊れてしまったので…。 僕の場合、自己主張をしないとやっていけないみたいで…
2023/01/01 15:55 退会済み
管理
[一言] 楽しい展開になってきましたね。 青春小説という感じです。
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