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「ごめんなさい。待たせたかしら?」


突然目の前に現れたローブをかぶった人物に話しかける。

やばっ! 直前まで分からなかった。

だいぶ意識がもうろうとしてるわね、わたし。

しょうがないか、もう三日は寝てないものね。


「……」


ローブの人物が黙って外套を脱ぎ捨てると、予想通りそこには黒髪に仮面を着けていた。


「で? 前の人と一緒でソフィーを狙ってるのかしら?」


わたしの言葉に、握りしめていたソフィーの手がピクリと反応する。

ソフィー事は気にした様子も無く、仮面の人物は黙ったまま右手で腰に吊るしたダガーを引き抜く。


「……そう。じゃあ、あなたはわたしの敵になるのね。一応言うけど、黙って立ち去るなら追ったりしないわよ」


だけど、仮面の人物は口を開く事も無くその場に佇む。

わたしはソフィーの手を離すと、ダガーを右手に構えて一歩前に出る。

じっと相手の出方を伺うけど、仮面の人物は動こうとしない。

ジョンやヘンリーの時みたいに、そわそわした様子が見えない。

もしかして呪いがかかってない?


「ねえ、もう一度言うけど、わたし達に会わなかった事にしてくれたら、追ったりしないわよ。あなただって、こんな所で死んだりしたくないでしょ?」


相変わらず仮面の人物に動きは無い。

とは言っても、このままここでお見合いしてる訳にはいかないしね。

相手が来ないなら、こっちから行こうかしら?

瞬間、わたしの考えを見透かした様に仮面の人物が距離を詰めてくる。

わたしは攻撃に備えて腰を落とし、相手のダガーに集中する。

お互いの距離が詰まったところで、敵がダガーを突き出してくる。

わたしが左側に回りこむように避けようとすると、敵は途中で突き出そうとしたダガーを止めて、薙ぐ様に横へ払う。

わたしはとっさに短剣で受け止めて、後ろへ飛び退る。

強い!

わたしが避けた後にダガーの軌道を変えるなんて、普通出来ないわよ。

さっきのやり取りでソフィーを後ろにかばう位置から動いてしまったけど、仮面の人物は構えを崩さずわたしに相対する。

仮面で表情は見えないけど、ジョンやヘンリーの時と違って動きに不自然さが無いのよね。

やっぱり呪いかかってないんじゃないのかしら?

だったら本人の意思でわたし達を殺そうとしてるって事よね。

ん~、組織の仲間とは一応仲良くしてたから、殺そうとするほど恨まれたりしてないはずだけど。

もしかしたら、猫の所属してる組織の子かな?

よし! もう一度説得してみよう!


「あなた強いわね! 見た感じ前の二人と違って呪いに掛かってる様にも見えないし、見逃してくれないかしら!? あなたの腕だったら一人でもやっていけるんじゃない? もしお金が必要だったら、ソフィーの身の回りの物を持ってきてるからあげるわよ。売ったら当面の生活には困らないと思うけどどう?」


仮面の人物の腕が下がる。

おっ! もしかして乗ってきた?

知らずに不安から唇をなめると、仮面の人物からくぐもった声が聞こえる。


「……呪いは掛かってるよ。ソフィーを殺すためには、クリスを殺してからじゃないと邪魔されると思い込んで誤魔化してるだけ。それでも辛いんだけどね。本当は気づかれたくなかったんだけど、さっきの攻撃で気づいちゃったよね。失敗しちゃった」


……ダガーの軌道が変わった瞬間、頭に浮かんだ。

最初に見た感じ、女の子っぽい体つきだったから猫なのかとも思ったけど、あんな攻撃できる子なんて、組織にもいたのは一人だけだった。

猫にいるはずが無い。


「わたしも、あなただったなんて信じたくなかったよ、レナ」






「呪いを掛けられたの?」


「うん。ネイの神官にね。一日に一人掛けるのが限界みたい」


「だから、毎回一人ずつだったのね」


「うん」


「……呪いって、何とかならないの?」


「たぶん無理かな? 今だって、体中をかきむしりたい位辛いから」


思わず息を飲み込む。


「……もう戦うしかないよ。クリスはソフィーを守りたいんでしょ?」


「だからって、レナと戦うなんて出来ないよ!」


「クリスは優しいから……」


「優しくなんてない! わたしはジョンもヘンリーも殺した!」


「仕方が無かったんだよ。組織に入った時にもうこうなるのは決まってたんだよ、きっと」


「でも、ソフィーが変えてくれるって!」


「だからクリスはソフィーを守るって決めたんだよね」


レナに頷く。


「だったら私と戦わないと、私はソフィーを殺す」


言っても仕方ない、でも言わずにはいられなかった。


「レナもソフィーと友達でしょ」


レナは首を振る。


「私は貴族とか王族が嫌い。そして、そんな人間が作っている帝国が大嫌い。私が組織に入る 事になったのも、貴族のせいだから……」


「貴族のせい?」


「私はもともと貴族の侍女だったの。だけど、貴族の家同士の抗争でいろいろあって組織に入る事になった。クリスが最初に守ってくれたロケットは、その時まるで妹のようにかわいがってくれた人がくれたの。私が一番大切な宝物」


たぶん宝物には、ロケットだけじゃなくて、その人との思い出も含まれているんだろう。


「レナ……」


「だからクリス、私は貴族や王族を殺す事にためらいは無いんだよ。クリスは自分の命を掛けてでも、ソフィーを守りたいんだよね。この国を変えたいんだよね」


仮面越しのレナの視線が問いかけてくる。


「うん」


「私達はアサシン、それ以上でも以下でもない。だから、恨みっこ無しだよ。最後にごめんね、しんみりさせちゃって」


レナはゆっくりとダガーを構える。

わたしは…… そんな風に割り切れない。

だけど……

我慢強いレナが苦しいと言ってるんだ、ここでレナが生き延びても、きっと最後まで組織に呪いを掛けられていいように使われるだけだ。

レナを呪いから開放する手段が無い以上、もう戦うしか無い。

ジョンもヘンリーも殺したわたしには、もう進むしか無い。

自分に言い聞かせてダガーを構える。

お互い二刀使いだけど、今は右手にダガーを持っているだけだった。

単純な強さで言えば、わたしよりレナの方が強い。

だから、レナが二刀目を手にする前にわたしから攻める!

一気に近づきダガーを突き出すけど、レナのダガーで簡単に受け止められ鍔迫り合いになる。

力比べじゃレナに勝てない。

このままだと力負けするだけだから、一瞬力を抜いてレナの体勢が崩れたら横に回り込もうとする。

けど、レナはわたしの考えが分っていたかの様に押す力を弱めた。

無理に横へ移動しようとすれば、待ってましたとばかりにレナのダガーが振るわれるだろう。

わたしは踏み出した足で無理やり地面をけり後ろに跳び退る。

瞬間、わたしが回り込もうとした場所を、レナの鋭い斬激が走った。


「あぶな!」


あんなの貰ったら、一撃で終わっちゃう。

背中にいやな汗が流れる。


「流石だね」


どこと無く楽しそうなレナの声。

って、何が流石なのよ!

何とか避けられたから良かったけど…… やっぱり一刀でも強いわね。

そんな事考えていると、レナが左手を背中に手を回してダガーを取り出す。

わたしに二刀使いだって気づかれないように背中にダガーを隠してたんだろうけど、やっぱりそうなるわよね。

組織で最初の頃に訓練で戦っていた時は、多少レナの方が勝つ事が多い位だった。

だけど、二人で二刀流の練習を始めてからは、圧倒的にレナの勝ちが多くなった。

わたしが元々器用じゃないって事も有るけど、一番はレナの二刀の攻撃を避けづらくなったのが原因だ。

まるで右手と左手を別の人が操っているような、そんな感じの攻撃をしてくる。

単純に、二対一で戦っているように感じるのよね。

ここでレナの才能に愚痴ってもしょうがないから、わたしも左手にダガーを握る。


さて、ここからが本当のわたし達の戦いね。

レナもわたしも、まるで決まっていたかのように足を進めてお互いの間合いに入る。

ダガーを振るい、避けられないと思った攻撃を自分でも信じられないような身のこなしで間一髪避ける。

何度もだめだと思ったり、やったと思ったりしながら、多分二人とも限界以上の動きが出来ている。

レナと殺しあっているのに、なぜか楽しく感じ出していた。

仮面で見えないけど、多分レナもそう感じているのが分る。

でも、徐々にレナの攻撃はわたしのレザーアーマーをかすめ、反対にわたしの攻撃はだんだん余裕を持って受け止められるようになっていった。

わたしは知らず知らずの内に肩で息をし、対照的にレナは最初と変わらず一定の呼吸を保ちながらじっと構えている。

やっぱり強い、全然勝てる気がしない。

呪いに掛かってるっていうのに、まったくそんな気配を感じさせない。

わたしはレナから一旦距離を取って呼吸を整える。


「はあっ はあっ はぁっ」

 

その間レナは構えを崩さずにじっとわたしを見ている。

多分、体力が限界に近いわたしが、次の攻撃で勝負に出ようとしている事が分かるのだろう。

わたしの体力が回復するのなんか待ってなくていいのに……

呼吸が落ち着いてきたところで、一瞬ソフィーを見る。

ソフィーはガタガタ震えながら、だけど目をつぶるのも怖いのか、わたしとレナをじっと見ていた。

さて、どうなるか分からないけど、これで終わりにしましょう。

覚悟を決めてレナを見る。

レナにもわたしの気持ちが伝わったのか、若干緊張したのが分かる。

レナ、ありがとう。

あなたがいなかったら、組織の生活に耐えられなかったかもしれない。

もしレナが勝つ事になっても、わたしは恨んだりしないから。

だけど、もしわたしが勝ったりしたら、恨んでいいからね。

ゆっくり息を吐き出すと、レナに向かって走る。

そのままダガーを突き出すと見せかけて、直前でレナの左に回り込む。

上手くいけば、レナの右のダガーが振りづらくなると思ったけど、レナもわたしの左側に回り込む。

結局正面同士になったけど、しょうがないここまま行く!

レナに向かって右のダガーを突き出すと、レナは左のダガーで受け止めようとする。

けど、わたしは無理やり軌道を変えてレナの首筋を狙う!


「ぐっ!」


レナは簡単にやっていた様に見えていたけど、自分でやってみると思った以上に腕に負担がかかり、口から苦痛が漏れる。

でもレナはあっさりと攻撃を受け止めた。

これでもダメか!

惰性で振るった左のダガーも受け止められると、今度はレナの左手のダガーが袈裟懸けに振るわれる。

避けられない。

わたしはレザーアーマーの肩の部分でレナのダガーを受け止める。


「った!」


肩の場所は鎧に守られて切られる事は無かったけど、衝撃はそのまま伝わる。

幸いな事に骨は折れてないようだったけど、右手は痛みでダガーを握っているのもやっとだった。

一旦距離を置きたいけど、簡単に離れさせてくれないだろう。

左のダガーで攻撃すると見せかけて、痛めた右のダガーを突き出して距離を取ろう。

レナのレザーアーマーに阻まれて、たいしたダメージも与えられず、無理したわたしの右手はたぶん使えなくなるだろうけど、このままなし崩し的に負けるより良いはず。

よし! 痛みを考えるだけでなえそうになるけど、行くわよ! なんとかなるでしょ!

覚悟を決めて左のダガーを振るうと、案の定簡単にレナに受け止められる。

だけど、その後突き出した痛めた右手の攻撃にはレナも予測できなかったんだろう、初めてレナのレザーアーマーに傷をつける事になるはずだった。

だけど、わたしの思っていた衝撃は無く、右手に感じたのは肉を切り裂く感触だった。


「え?」


右手に滴り落ちる血を見ながらわたしは間抜けな声を上げていた。


「……クリスの勝ちだね」


その声を聞くのと、レナが地面に座り込むのは一緒だった。


「なんで?」


わたしはレナに突き刺さったままのダガーを見ながら呟く。


「鎧があったらクリスの動きに付いていけないと思って、着てないんだ」


「うそ! レナだったら鎧が有るか無いかなんて関係ないじゃない!」


「……関係あるんだよ」


「待って! 今手当をするから!」


「私の事はもういいんだよ。助かっても、またクリスの事を追わなきゃならなくなるから……」


「でも!」


「なんかね、呪いが弱まってるんだ。死ぬまで逃げられない呪いがだよ……」


「だけど!」


「……クリス、仮面とってくれるかな?」


レナに言われるまま仮面を取ると、いつも見ていたレナと違う、真っ黒なくまを作った、信じられない位頬のこけた、別人と見間違うくらいの少女がいた。


「っ!」


「呪いはやっぱり辛くて、驚かせちゃったよね……」


「そんな事ないよ! いつもと変わらないよ!」


「ありがとう、クリス」


「とにかく手当を……」


レナに突き刺さったままのダガーに手を伸ばそうとすると、その手をレナがつかむ。


「……クリス、治療はもういいよ。代わりにお願いがあるんだ」


「でも!」


「ソフィーと私の服を交換して……、死ぬ前に王女様の着ていた服を着てみたいんだ」


「……?」


「私の髪はもともと金髪なんだ。だから服が変わったら王女様になれるかなって…… 女の子だったら誰でも憧れるでしょ……」


「そんな事より!」


「いいから聞いて! ジョンの死体のそばにあったソフィーの切られた髪を集めたの。私とソフィーの服を交換した後、この髪を私の死体のそばに置いて…… 私の死体はここより少し離れた場所に捨ててくれた方が、組織が発見する時間を稼げる…… そうすれば、森の獣に荒らされて誰だか分らなくなるし、その頃には黒く染めてた私の髪も金髪に戻ってると思う…… もう少しでこの森は終わる…… 隣の国の街に入れば、きっと追っ手も動きづらくなるから…… その間に、王女の服を着た私の死体が見つかれば、追っ手の手も緩むはず…… クリス、ソフィー、もう少しがんばって……」


どういう事?

まるで、自分が死ぬ事が決まっているみたいな……

え? レナは死ぬつもりでわたしと戦たって事?


「レナ! あなたまさか!」


「恨みっこなしって言ったよね…… 今回クリスが勝ったのは、クリスの方が強かっただけだよ……」


そんな事ない!

最近じゃ訓練でもレナにほとんど勝てなかったし、そもそもレナが鎧を身に付けない理由が無い!

それに、本当はわたしが負けると思ってたんだから!


レナは震える手で、懐からソフィーの切れた髪を差し出す。

もうレナの眼は虚ろで、きっと見えていないのだろう。

わたしはレナの手を握りしめる。


「……分かった」


「……ありがとう。あと最後にもう一つお願いがあったんだ……」


「なに?」


「ロケットを…… 宝物なの…… もし、クリスが会ったら…… レナが大切にしてたって……」


「分かった! レナが大切にしてたって、レナに優しくしてくれた貴族の人に伝えればいいのね!」


「……うん。ありがとう…… 帝国を変えて…… ソフィーと新しい国を…… 作ってね……」


そして、レナの腕の力が抜けた。


「レナ! レナ! 死なないでよ! 一緒に逃げようって約束したじゃない! レナ!」


レナの顔を見ようとするけど、涙で見えない。

何度も涙をぬぐいながら呼びかける。

だけど、レナは何も答えてくれなかった。






「ソフィー、悪いんだけどレナの服とあなたの服を交換するから、脱いでもらえる?」


どれだけ泣いていたか分からない。

でも、次の追っ手が来る。

レナの後だ、もしかしたら一人だけじゃなくて、呪いの掛かっていない子も駆り出されるかもしれない。

だったらぐずぐずしてられない。

だって、レナが自分の命と引き換えにしてくれた機会なんだから。


「……」


「ソフィー? 大丈夫? どこか怪我したりした?」


「……」


ソフィーは座り込んだままレナを見つめる。

これまで何人も人が死ぬのを見てきたんだ。

ソフィーも辛いんだろう。

だけど……


「ソフィー、逃げなきゃならないの。分かる? ゆっくりしてると次の追っ手が来るわ。レナはもう森を抜けるのはすぐだって言ってた。隣の国に入れば、そんなに大人数で追っ手を掛ける訳にはいかなくなる。今ががんばり時よ」


「……です」


「なに? 良く聞こえなかった」


「私(わたくし)には無理です…… たくさん人が死んで…… レナも…… 伯爵が言ったように、何も知らなかったんです…… 私(わたくし)が国を変えるなんて、無理です……」


気が動転してるのね。

無理も無いか、わたしやレナと違って、殺したり殺されたりする事が身近にあったわけじゃないもんね。


「ソフィー、今はとにかく歩く事だけ考えて。もう少しで街に出る。そうしたらゆっくり休んで、これからの事を考えましょう?」


「もう無理です! これ以上人が死んだりするのは嫌なんです! もしそれがクリスだったら、わたしはどうすればいいんですか!」


「でも、ここにいても次の刺客が来るだけよ。とにかくここを離れないと」


ソフィーはいやいやするように首を振る。


「もう嫌! こんな事になるなんて…… お城から出なければ良かった……」


「ソフィー、良く聞いて。あのままお城に残っていても、そこで襲われたわ。だって、こんな所まで追っ手を差し向けるのよ。残っていたら、多分殺されていたわ」


「どこまで逃げればいいんですか!? いつまで!? ずっと追われるなんて嫌です! 公国に逃げ込んだって、助かるとは限らないじゃないですか!」


「でも、このままここにいても、殺されるだけよ」


「私(わたくし)は、クリスの様に強くありません…… 私(わたくし)には無理だったんです…… 王女として生きるのも……」


「わたしだって強い訳じゃないわよ! ただ、こういう風にしか生きられなかっただけ! わたしだって、ジョンやヘンリー。レナを殺して平気な訳じゃない! だけど、ソフィーがいれば変わるって、わたし達みたいな人がいなくなるって、そう思ったから!」


「ですが、もう私(わたくし)に期待しないで下さい……」


「だけど!」


それじゃあ、何でわたしは仲間を殺してまで……

いや、だめだ。

ソフィーを守るって、わたしが自分で決めたんだから。

ソフィーに希望を見たのはわたしなんだから、ソフィーのせいにするのは間違っている。

でも、ここでソフィーを殺させる訳にはいかない。

この極限状態から抜け出せれば、ソフィーはきっともう一度立ってくれる。

そう信じたい。

だったら……


「ソフィー。死にたくないのなら、今日からレナとして生きなさい」


「えっ?」


「レナは自分の死体をソフィーの身代わりにしてと言ったわ。だから、今ここで帝国の王女は死ぬの。そして、あなたはレナとして生きる」


「でも……」


「上手く行くかは分からない。レナの死体が王女の死体じゃないって気づかれるかもしれない。だけど、もし上手くいけば追われなくてもすむ。レナとして生きるか、それともここで死ぬか選びなさい」


ソフィーが決めるまで黙って待つ。

かなりの時間がたった頃、ソフィーが答える。


「……私(わたくし)は、死にたくありません」


「分かった。だったらあなたは今日からレナ(・・)として生きなさい。わたしもあなたの事は今からレナだと思って接するから」


「……分かりました。クリスの言う通り、私は……ます……」


ん?

良く聞こえなかった。

まあいいわ。分かったって言ったし、とにかく早くここを離れなきゃ危険よね。

二人の服を交換した後、レナの死体を抱き上げる。


「離れた所にレナを運んでくる。少し待ってて」


ソフィーの返事を待たずに少し外れた所に行き、レナを降ろす。


「ごめん、レナ。帝国を変えるのは時間が掛かると思う。ソフィーはもう一度立ち向かってくれると思う。だけど、もし無理だったら、わたし一人でもやり遂げるから。先に行って待ってて……」


やば、また涙が……


「わたしが泣いたりしたら、レナ心配しちゃうよね。だから、泣くのは今日が最後にするから。わたしが上手くやれるか見守っててね」


目元をぬぐって立ち上がる。


「じゃあね、レナ」


振り返ると、辛くなるから真っ直ぐソフィーの所へ向かう。




「待たせたわね、レナ(・・)。行きましょう」


ソフィーに新たな名前で声を掛け、わたし達は再度歩き出す。

今度は決して立ち止まらないとレナに誓って。

『親に売られたわたしは、アサシンになるようです。』を最後までご覧になっていただき、ありがとうございます。彼女たちの物語は一応ここで終了となります。もし、この先の彼女たちの事が気になる方は、主人公は変わりますが『異世界での過ごし方』にヒロインとして登場いたしますので、よろしければご覧になって下さい。本当に、ありがとうございました。

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