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19.夢の主は盗賊の用心棒

今回は悪夢4で視点は獣人の女の子。

 太陽が沈み出した夕刻。

 バガンリュースの一団はこの日も商人への襲撃を成功させて大量の積荷を持ってアジトへと帰ってきていた。


 今回の襲撃は大成功だったと言えた。

 用心棒に雇った冒険者は下っ端の者達だけで片が付くほど歯ごたえがなく守備兵とも遭遇せず積み荷をすべて奪う事ができた。


 多分だがAランクの冒険者がやられている様な依頼に受ける冒険者がいないのだろう。

 襲った商人は襲う前から既にビクビクしていたみたいだったからという推測だけど今回ので更に冒険者が王都への護衛依頼を受ける事は減る。


 下っ端連中は私より歳を積んでいるのにそんなことも分かっていないで暢気に飲んでいる。


 碌な抵抗もなく積み荷をすべて奪えたのは自分達の御蔭だと思っているに違いない。

 ついでにその積み荷の一つに高級なワインの入った樽もあったことで皆一層上機嫌になっている。


「ヒャハハ、今日もいい酒にありつけるな!流石は王家に運ぶだけあるぜ」


 そう言ってお酒用のジョッキにワインを注いで一気飲みをする。


「国民共も感謝して欲しいよな。俺達は義賊としてこうして私腹を肥やしている貴族や王族共の物資を奪ってやってるんだからよ」

「あいつらは恵まれているから平気で人の者を盗めんだ。物が無くなっていく苦しみを知るまで何度でも襲って毟り取ってやる」


 何が義賊だ、と思った。


 確かに貴族が平民だからという理由で娘を攫ったり、無実の罪で処刑したりを平気で行っている。

 その結果王国に対する復讐の念を持つ者が盗賊となる例は珍しくもなくなっている。

 その中には悪徳貴族への復讐に成功し、町もその貴族に迷惑を掛けられていたので盗賊を義賊として讃える事もある。


 だがバガンリュースの一団は義賊ではない。


 これまでの襲撃で連中は何人もの人を殺した。

 戦闘中の生死を分けている間はいい。

 だが殺している多く場面は逃げる背中を襲ったり、抵抗できない相手に止めを刺すものだった。


 そして今回の襲撃でも抵抗できずに震えていた商人相手に剣を振るって笑っていた。


―――ただの外道集団だ。

 

 私は男達から離れて高台に上ってアジトを見下ろす位置に移動した。


 木々に周囲を囲まれたクレーターのような地形をしている窪地。

 これがバガンリュース達ののアジトとなっている場所である。


 隠れ家は簡易な造りで雨水を防いで眠るだけに使い、飲み食いはこうして外で行う。

 断っておくが幼くても女の私が男達と一緒に眠るのは危険なので私は木々の上で眠っているのであの家には入ったことがない。


「またこんなところに居やがるのか」


 バガンリュースが景気のよさそうな顔でやってくる。

 手には下の男達が持っていた者よりも大きいジョッキが空になった状態で持たれている。

 

「襲撃が上手く行ったってのに何辛気臭い顔をしてやがる」

「今日のような事が続いているから」

「今日?」

「人を殺した」

「は?敵を生かせとでもいうのか?」

「敵なら仕方がない。しかし商人を殺したのは必要なかった」

「必要はあったさ。ここまでは城に情報を届けるために生かしていたがここいらで俺達の力を示す必要があったからな」

「雇う際にお前はこの集団は義賊だと言っていた。でも平民を殺していたら義賊とは名乗れない」


 私はバガンリュースを睨む。


「抵抗しない者は殺すな。それができなければ契約を破棄して仕事を下りさせてもらう」


 バガンリュースはそれを聞いて口元が引き攣っていた。

 契約を破棄されて焦っているのではない。


 笑いをこらえているのだろう。

 やはり子供みたいな甘い考えだ、とか考えられてそうだ。


 この分では改めるどころか酷くなっていきそうだ。


 もうこの一団からは手を引くべきかもしれない。

 獣人の私でも雇ってくれる仕事をまた探さないといけなくなるなぁ。


「善処するように言っといてやるよ」


 私は立ち上がった。


 別にバガンリュースに怒ったわけではない。

 人間とは違う大きな獣人の耳が何かを捉えたのだ。


 「どうした」と聞くバガンリュースを無視して目を閉じて聴覚に意識を向ける。

 酔っぱらいの笑い声の所為で聞き取りずらかったが意識して聞けば敏感な聴覚が周囲の音を聞き分けていく。


 小さい音だが森では聞かない、それでいて聴き慣れた音を捉えた。


 瞬時にその音の正体が分かると事態の深刻さに顔が強張った。


「おい、気に入らなかったのか」

「そんなことはいいからすぐに下に下りて」

「お、おう」


 捉えた音は徐々にこちらに近づいてくる。


 隠れながら近づいているが私の耳に金属のガチャガチャという音が聞こえる。

 それに数が多い。


 私は大声を発した。


「敵が来るぞ――!!」


 私の言葉を聞いたはずなのに上機嫌で酒盛りしていた連中の反応が鈍い。

 何を言ってんだという顔をする者がほとんどだ。


「行くぞ―――っ!!」

「「「「おおおお――――っ!!!!」」」」


 こちらが気づいたことで隠れて移動していた音の正体達が姿を現した。

 掛け声を上げながら状況が読み込めていない連中に向かってどんどんと距離を詰めて駆けてくる。


 人数が思った以上に多い。

 どうやらただの探索で偶然かち合った部隊という感じではない。

 どうやってここが見つかったのか知らないが私達の討伐に大国の騎士団が動いたか……。


 姿を現した敵を見てようやく酔っ払い共の酔いが醒めて武器を取り出すがさっきまで緩み切っていた所為で時間が掛かっている。

 隊列を整える暇もなく運悪く敵の近くで飲んでいた者達が斬られていく。


「ぐあっ」

「この王族の犬が!」

「ぎゃああっ!」


 次々とこちらに被害が出始める。


 大半が逃げた背中を斬られているので相手の勢いは接触しても止まる事がない。

 このままでは戦いのなる前に蹂躙されてしまう。

 私は指揮をバガンリュースに任せて先頭へと向かった。


「奴らは商人まで殺している悪党である。容赦はいらない全員ここで皆殺しにしろ!」


 相手の後ろから指揮官らしき騎士が姿を現した。

 見るからに戦闘不足の体格をしている事から実力ではなく家の力で騎士になった貴族の様だ。


 その号令に従って周りの兵士たちは雄たけびが上げる。


「でりゃ―!」

「くそがっ!」


 戦闘中の前線につくと剣を撥ねられ無防備になってしまった男が今にも騎士に止めを刺されそうになっているところだった。


 ズガッ!


「ぐはっ……」


 その騎士の鎧の隙間にはナイフが刺さった。

 刺された騎士も斬られそうになった仲間の男も何が起きたのか分かっていない様で呆然とした顔で刺された男の方だけが地面に倒れる。

 咄嗟にナイフを投げたが上手く当たり過ぎて絶命させてしまったようだ。


 私がその場に到着すると男を叩き起こす。


「すぐに下がって態勢を立て直す。早く武器を持て」


 私が来たことでようやく誰がやったのか分かったのか男は飛ばされた武器を拾う。


「助かったぜ」

「いいから早く下がれ」


「この盗賊風情が」

「よくもシヌンを」


 二人が襲ってきた。


 ズガッ!


 その二人の剣を避けすれ違いざまに手首を切り飛ばした。


「ぎゃああ!」

「腕がああ!」


 二人とも絶叫して倒れる。

 命はあるがどちらも利き腕がやられては戦えないだろう。


「このガキが!」

「子供が舐めんじゃねぇ」


 ブチッ


 ズガッ!ズガッ!


「ぐはっ!」

「げぼっ!」


 両手+喉に当て身をしてやった。

 のたうち回って苦しんでいる。


「おいおい、こいつらまだ生きてんぞ」


 その四人を態勢を整えたバガンリュースが突き刺して止めを刺していった。


 既に戦闘不能な者達だったのに……。


「敗北の原因になりそうなものは残さないのが俺の流儀なんでな」

「っ!」


 それから初めの襲撃で痛手を喰ったが何とか盛り返し相手にも被害が出始める。


 意外にも隊列が様になっている。

 使えない連中かと思っていたけど少し見直した。


 逆に騎士達の方は盗賊になるような者は街の逸れ者や仕官に失敗した半端者が相場でいわば烏合の衆。戦闘の専門である俺達相手では相手にならない、とでも思っていたのかまだまだこちらの方が不利なのにも拘らず焦り出して連携が乱れている。

 指揮官の騎士も乱れた隊列に対応できていない。


 騎士達も指揮官も錬度と経験が足りていないようだ。

 騎士団という時点で敵わないと決めつけていたがそこまで錬度の高い隊ではないとなれば希望が生まれる。


「あいつだ!あのチビが盗賊の用心棒だ!あいつを倒せ!」


 後ろにいる指揮官は苦戦して慌てながらも誰が危険かは把握できるだけの頭はあるようで私を指さして叫び出し、近くにいた騎士たちが一斉に私の方を向いてきた。

 そして騎士たちが一斉に指揮官の方に向き直った。


 もう騎士たちが何を思って振り返ったのかが分かりやす過ぎである。


「「「ぎゃあああ―――!」」」


 取りあえず最初に突っ込んできた三人で気分を紛らわせる。

 流石に一瞬で三人も仲間がやられれば他の連中の目の色が変わった。

 これで少しは真面に相手をする気になったかと思いきや舐めた感じは無くなったが戦うというより恐怖の色に変わってしまったせいで中々向かってこない。


「何をしてる。相手は貧弱なナイフを武器にしているんだ。重戦士が相手をしろ」


 また指揮官から命令がとび兵士たちの後ろから今度はやたらと頑丈そうなフルプレートを着た騎士が登場した。


「この鎧に死角はない。さっきの様に鎧のない個所を狙うことは出来んぞ」

「そんなナイフじゃこの鎧は貫けんのだ」

「ぶっ潰す―――!」


 なんか全員暑っ苦しい。

 鎧の大きさから言っても元々見事な体躯なのだろう。

 特に最後の奴、まだ動いてないのに鼻息が鎧から漏れるほど荒くて近寄りたくなくなる。


 しかし彼らの言う通りこれだけ全身を鎧で囲っていたらいくら関節狙ってもナイフの方が先に折れちゃいそうでナイフでの相手は分が悪かった。


「……はぁ、ナイフ(これ)じゃあ君たちの相手は無理そうだね」


 私は持っていたナイフを捨てる。

 それを見た重戦士?の騎士たちは笑い出す。

 何がそんなにおかしいのだろう?武器なんか下げたらもう対応もできないのに。


「それじゃあ君達のは鈍器(これ)だね」


 私は言うや否や三人の前に突っ込み三人は突然私が現れた事に驚いているが鎧があるからと安心してもいる。

 そんな鎧じゃ防げないのに。


 ドガッという高音戦場に響く。


 周囲の敵味方の両方が戦いの最中にも拘らず驚いたように一瞬動きが止まりこちらへと視線を向けていた。

 足元に転がっている騎士のフルプレートの鎧は壊れてはいないけど大きく凹んでいて中の人にまで圧迫が加わっているため気絶してるのか死んでいるのか分からないがピクリとも動かない。

 子供のような姿をしている者(本当に子供だけど)がやったとは思えない凹み方に周りで見ていた者達は息を呑む者が多く戦いながらでも私から距離を取ろうとした。

 しかし相手は兎も角として味方は私の実力を知っているんだからこっちを向いてないで今のうちに相手に一撃加えるべきでしょう。


「しかし鈍器(これ)は相変わらず使いにくい」


 やっぱり鈍器はナイフ程手加減が難しくてつい力が入っちゃうな。


 私は手に持っていた鈍器を捨てて今度は太刀を取り出した。


 やっぱり刃物の方が振りやすくていい。


 太刀を振るうと周りの敵は全員更に一歩離れていった。


「こ、後退だ。後退しろ!」


 指揮官が私を見て震えながら後退の指示をし出した。


 あれ?まだ人数も結構いるし戦いはこれからだって言いそうなところなのに指揮官の人が部隊を引き始めた。

 敵が引いてくなら私達はその隙に逃げるだけだから戦術としては下策じゃないのかな?

 私達としては願ってもない事だけど。


 バガンリュースも敵が引いたのを見て逃げる準備に入り出した。












 皆これなら逃げられると安堵した。

 その瞬間、辺りは白い霧が辺りを包んだ。

 雨が降った後でもないのに突然煙が立ち込めたかと思えばどんどんと自分達を包み込んでいく。


 現れた霧に盗賊たちが最初に頭に浮かんだのは好機であった。

 この機に霧に紛れてあいつらを巻いてしまおうという当たり前の考え。

 かくいう私もそう思っているのだから普通の判断だと思う。


 だが少しして身体に違和感を覚えた。

 すごい眠気が身体を襲ったのだ。

 それは私だけではないらしく近くで立っていた者が突然倒れた。


「拙いっ!。これは敵の攻撃だ!息を止めろ!」


 異変に気付いてバガンリュースが叫ぶが皆すでに相当な量を吸い込んでしまっていて次々と倒れる者が続出する。

 私ももう身体を立たせる事ができず片膝をついた。


 まさか騎士達がこんな兵器を使ってくるとは思わなかった。

 形のないもの相手じゃどうしようもない。

 脚を動かして霧から出ようにも身体は言う事を聞かず、もう意識が失われれば後は倒れるだけの状態になっていった。

 どうあってもここから巻き返しは出来ない。

 見事に相手にしてやられたのだ。


「くそがあああ!!」


 バガンリュースももう動く力がないのか身体が倒れた状態で叫びを上げている。

 盗賊団全員この霧でやられたみたいだ。


 意識が持たない。

 意識を失くした後どうなるかは知らないけどどちらにしろ助かりはしないか。

 短い人生だったな……。

裏設定18

基本的に盗賊達はお酒に強いので平気で動けていますが傍らで吐いてしまっている者も中にはいました。

酔い潰れは出ていないので早々に倒された者以外は戦うことは出来ています。

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