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作戦会議

「ようこそいらっしゃいました、パサラン殿、セレス殿」

「いやどーも、昔は世話になりました」

「お久しぶりです」

「ふむ、まさかあのパサラン君がリルドラ魔法学校の使者としてやって来るとは。世の中は不思議に満ちていますな」


 パサランもかつてはこの街のそばで魔法使いの弟子となっていた者。その頃から目の前にいる街の長とも昔なじみだった。


「ははっ。俺もびっくりです」

「ところであの方はまだお戻りにはなられていないのですか?」

「ああ、師匠のことですか。はい、未だに行方も知れません」

「そうですか……残念です」


 挨拶もそこそこに会談が始まった。

 セレス、パサラン、アルサンデの長、その他の重鎮達が同じ卓について議論を開始する。


「今回も外の壁を第一の防衛ラインに?」

「ええ。過去の前例からもこの街壁が崩されたことはありませんし、今のこの街には貴方を除いて高範囲に力を及ぼせる魔法使いはおりませんから。外で迎え撃つ利点はほぼないでしょう。さすがにセレス殿に一人で迎え撃ってもらう訳にもいきませんから」


 パサランが己に向かって親指をくいくいと立てていた。街の長が噴き出す。


「わしの記憶に間違いがなければ、君は広範囲の魔法は苦手ではなかったかね?」

「ははっ、お見通しだったか」


 セレスは高レベルの魔法を身につけつつある弟子達のことを思い浮かべたが、まだ戦いに参加したことのない少女達に重い役目を課すのは酷だと考えてその名を出すのは控えた。


「それにこのアルサンデは我らの街ですからな。さすがに少数の魔法使いの方にすべてを任せて安全な場所で見ている訳にもいきません。いざとなったらわしも武器を持って戦いますよ」


 豪快に笑う街長。実際、本人も昔は剣を手に魔物達と第一線で戦っていた。今ではそんな機会はなくなったが、その心意気はまだまだ若い頃のままだった。


「本日ごらんになったかと思いますが、街の外円部の避難はすでにすんでおります。今は魔物を迎撃するための設備を整えておるところですよ」


 この街の外円部には毎年の戦いに備え、基本的に定住する者はいない。平時は市が開かれる場として利用される。連綿と続く魔物達との戦いの中でこの街の住人が身につけた知恵だった。


「弓兵と魔法使いを外の壁の上に配置します。これを第一の守りとし、ある程度数が減らせたら外壁の門を開け、魔物をおびき寄せて第二の部隊である傭兵や兵士達で殲滅する。この例年通りのやり方で問題ないですかな?」


 長の言葉に二人は首肯する。


「それで構わんでしょうな」

「ええ。おそらく問題はないと思います。僕も第一の守りに着きましょう。その際、今僕の弟子となっている者達を連れていきたいのですが、構いませんか?」

「おお、噂には聞いておりますよ。何でも可愛らしい娘さんたちだそうで。セレス殿もその方が気を回さずにすむでしょうな。ではセレス殿とその弟子の方々は外壁にまわっていただくということで」


 セレスはほっと安堵の息を吐く。アルサンデの外壁は高さはそれほどでもないが厚く、ぎざぎざになった胸壁や、矢や魔法を撃つための狭間も備わっていた。パサランもセレスも、ずっとこのやり方でアルサンデを守ってきたのだ。


 街長の指が広げられているアルサンデの見取り図の上を滑っていく。


「問題は川に面している南側ですな。水辺の魔物どもに関しては我ら人間の知識も不十分ですから」

「ですな。俺も昔でかいカニの鋏に掴まれた時は死ぬかと思いましたよ」


 普段は街の住民に恩恵を与える美しい大河は、『戦慄の月夜』になると恐ろしい魔物どもの侵入路となる。野に住むものたちと違う器官を持った奴らが、想像もしない方法で外壁を乗り越えようとしてくるのだ。一度、大量にわいた毒ガエルの群れが吸盤で壁に張り付き、そのまま胸壁を乗り越えてきたことがある。


 人間は陸に住む生き物であり、水に棲む魔物達との戦いは基本的に不得手であった。水中に引きずり込まれてしまったら、魔法使いも魔法の詠唱が出来なくなってしまう。それを主な理由としてこの街には外壁を囲む堀が無かった。人間相手には大いに役に立つそれも、人智を超える相手では不確定な要素を生み出すものでしかない。ちなみにその日だけは街を縦断する水路も大きな石材によって各所を塞がれる。


「我が兵達も二本の足で歩く連中の相手をすることを得意としています。可能ならば南門に関しては城門を開けることなく、遠距離攻撃だけで始末していただけると幸いですね」


 この街の用兵を任されている男が口を挟んだ。もっともなことだと思い、セレスも彼の言葉に続いた。


「僕もそれがいいと思います。近接武器だと戦いにくいんですよね、ああいった手合いは」

「ふむ、ではそのように。魔法使いと弓兵をやや大目に南側へと配置しましょうか」


 長の言葉に、兵達の命を預かるその男は自分の要求が通ったことを知って胸を撫で下ろし、セレスへと目礼した。セレスも返礼する。実際、去年は南門が強引に突破され、なだれこんできた魔物達に兵士達が甚大な被害を受けたのだ。


「ではその他の三方の門は先ほど述べた形で迎撃を行いましょう。城門を開けて誘い込んだ後は、魔物どもが内部の階段から外壁に上がってこないように、一部の通路を塞ぐことになります。ご注意を」


 それぞれ頷く。何人か顔ぶれは変わっているが、大多数は昔からこの街を守ってきたメンバーだ。その辺りの段取りは熟知している。


「門を開ける前に、外壁からの魔法で属性の加護を持つ魔物達をどれだけ倒せるかが、いつも通り大きなカギとなりますね」


 セレスの言葉に円卓を囲む皆が同意の身振りを示す。


 属性の加護を持つ魔物とは、いわゆる炎氷雷の力をその身に宿す者達のこと。さまざまな種類がおり、一年前にセレスが倒したアイスゴーレムもその名の通り氷の魔力を全身に帯びている。これらの魔物にはただの武器はほとんど効果をあげなくなるのだ。ミーアが持っているような切れ味を強化する魔法がかかった武器ですらその加護を打ち砕くには不十分だ。以前セレスが弟子に語ったとおり、氷には炎をぶつけるのが一番だ。もちろん炎の力を纏わせた武器でもいい。


「そうですな……カイタス。魔法の武器に関してはどれだけの者に行き渡ってる?」


 街長から名を呼ばれた凛々しい顔つきの男。先ほど南門に関する戦いに関して一言を投じたその男が、実直な顔に似合った低い声で語りだした。


「は。兵士長以上の階級には最低でも魔法によって強化されたものが与えられております。ただ、三種の属性を秘めた武器となりますと……」


 そこで男は場にそぐわない笑みを浮かべた。


「……ご存知の通り『これ』が必要になってきますからな」


 『これ』と言う時にカイタスはあるジェスチャーをし、それを見た全員が半笑いを浮かべた。もちろんその言葉とその仕草の意味はお金のことである。


「まあモノによっては街一つよりも価値のある剣があるそうで」


 パサランが茶化す。とはいえ実際にそんな値段で売買が成立した武器は存在せず、あくまで尾ひれのついた伝説にすぎないのだが。やがてカイタスは真面目な顔に戻った。


「ヴァーゼル経由でいくつかの属性付きの武器を仕入れ、主だったものには持たせております。ただ、やはり魔法使いの方に兵士の武器を強化してもらう必要が出てきますな」


 カイタスはこの街の魔法使いの代表として席についている者を見つめた。それはセレスやパサランではなく、昔から街の中に住居を構えている魔法使いの一人だった。


 男はあまり筋肉が付いていない腕を組んで数秒思考し、パサランの方に顔を向けた。


「一小隊に最低でもそれ専門の者を二人は配置すべきでしょう。失礼ですがパサラン殿がお連れになった生徒達はどの程度の腕前で?」

「そうですね。最低でも2レベルの魔法は使えると思っていただければ」


 魔法使い代表は満足げに頷く。


「なるほど。ではパサラン殿には心苦しいでしょうが……」

「ま、いつかは一人立ちしなきゃならんもんです。びしびし使ってやってください」


 パサランの言葉を聞いたセレスは、今の小さな弟子達を近いうちに信頼を持って一人で送りだすことが出来るだろうかと自問自答した。


 やがて会議が終わるとセレスは挨拶とともに席を立った。弟子達を連れ、避難が開始されつつある街を見回る予定だったのだ。



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