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マジックアイテムと合言葉

「やあ、ヴァーゼル」

「おお、セレスか。すまんが今年も頼むぜ」

「うん、全力を尽くすさ」


 久しぶりに訪れたマジックアイテムが並ぶ店の中を、セレスと弟子達は思い思いに歩いてまわる。その品揃えは以前来た時とくらべて随分と少なくなっていた。


「さすがに魔法の武器は残ってないみたいだね」

「ああ、あらかた傭兵達が買っていっちまった。ひょっとして何か入用だったか?」


 まだ高レベルの魔法を使えないクナイの為に、何かいいものがないかとヴァーゼルの下を訪れたセレスだったが、さすがにこの時期に三属性の武器は残ってはいないようだった。とはいえ、クナイが扱う武器は異国のものであり、突然この国の武器を使ってほしいと言われても本来の動きは出来ないだろう。クナイにも何か大陸の武術を教えておくべきだったかもしれない、と軽い後悔がセレスの中に生まれた。


「いや、大丈夫。僕達はいざとなったら武器に属性を付与できるからね。基本的に魔法の武器は傭兵や兵士が持っていたほうがいいさ」


 武器を強化する魔法は幸い2レベルにも存在する。高位のものに比べると効果も持続時間も劣るが、炎氷雷の属性を身につけている魔物を相手にする場合、あるのとないのとでは雲泥の差だ。先ほどパサランと魔法使いが交わした会話の意味はこのことを指していた。


「いちおう魔法を発動するタイプのアイテムなら残ってるんだがな。買うか?」


 ヴァーゼルは様々な小物が入った箱をセレスの前へと差し出した。弟子達も興味があるのか二人の周りに集まってくる。セレスは少女達が見やすいようにその箱を自分の腰の辺りにまで下ろす。


「これってどういう効果があるんですか? ヴァーゼルさん」

「ふむ、知りたいかいお嬢ちゃん?」


 質問を発したミーアにヴァーゼルは笑みを浮かべると、セレスが支えている箱の中に手を伸ばした。やがて深い皺の刻まれた手が、一つの指輪が入った透明なガラスケースを取り上げる。その指輪は綺麗な赤い石が台座に嵌められている見事な一品だった。


「例えばこの指輪はだな。合言葉を唱えると嵌められている赤い宝石から《火炎弾ファイアーボール》が撃てるのさ。もちろん、炎の魔力を持たない人間でもな」

「ええっ!? そ、それってすごいじゃないですか!?」

「たしかに……私たちみたいな一つの属性に特化した魔法使いにはぴったりかも……」

「ふむ、魔法の世界もまだまだ奥が深いものなり」


 初老の男がケースから取り出し、ミーアに手渡してくれたその魔法の品を三人はかわるがわる手に取り、目を輝かせて見つめている。ヴァーゼルは笑みをさらに深くし、やがてまだ言っていなかった大事な言葉を少女達に投げかけた。


「ちなみに値段はな。これ一つで金貨二十枚だ」

「えっ……」

「……」

「……小判二枚……」


 店主には聞こえない声で呟いたクナイはどうだか知らないが、少なくともミーアとルナルナは明らかに表情がこわばり、恐る恐るといった様子で目の前の指輪を注視し始めた。なお、今その指輪を持っているのはミーア。やがてその指が小さく震え始める。


「え、えっと……」

「こういった品々は今の人間には作れないらしくてな。魔物を倒した時などにたまに手に入るんだそうだ。連中も俺達と同じような魔法を使う。おそらくその知識が今の人間達のそれよりもずっと深いのだろうな」


 いきなり薀蓄を語り始めたヴァーゼルにミーアはおずおずと指輪を差し出す。セレスは知っていたが、これはヴァーゼルが魔法使い見習いによくやるいたずらだ。セレスも弟子の頃、今のミーアと同じような顔でこの男を見上げたことがある。


「なお、その指輪には二十回分の魔力が込められている。もし魔法を発動させたら価値が下がって金貨十九枚くらいで店頭に並ぶことになるな。二回使ったら十八枚……いや、使える回数は大事な要素だから実際の下落の値はもっと激しくなるか」

「お、お、お返しします……」


 ミーアは瞳に涙を浮かべはじめている。

 しかしヴァーゼルの口はさらに大きくつりあがった。


「合言葉を聞きたいかい? お嬢ちゃん?」

「ふえええ、聞きたくないです! あたしは何も聞いてないですぅーっ!!」


 哀れミーアは両耳を塞ぎ、しゃがみこんでしまう。


「……あまりミーアをいじめないでほしい……」


 ヴァーゼルがからかっていることに気付いたルナルナは、セレスによく向ける冷たい眼差しで店主を見上げる。やりすぎたかと思ったヴァーゼルは残雪のような白髪混じりの頭をかき、ミーアの手から指輪を受け取った。


「はっはっは、すまんすまん。これはおじさんの唯一と言ってもいい楽しみでね。まあ気を悪くせんでくれ」

「……悪趣味……」

「まったくだ。ミーア、大丈夫だからね? 指輪なんかは指に嵌めてはじめて効果を発揮できるもんさ。合言葉を言うだけじゃ何もおきやしないよ」


 未だにおびえているミーアの頭をセレスは微笑みと共に撫でた。


「うう、ほ、ほんとうですか?」

「うん、本当本当」


 セレスに言葉をかけてもらったミーアはようやく立ち上がる。しかしマジックアイテムが入った箱から身を隠すようにセレスの背に隠れてしまった。


「すまんすまん。おわびにいいものをあげよう」


 ヴァーゼルはそう言うと箱から一つの護符を出した。金属製で、不思議な紋様が描かれている。恐る恐るといった様子で尋ねるミーア。


「うう、それは……?」

「これもさっきのアイテムの一種さ。中に《絶命豪雷モータルライトニング》の魔法が込められている」


 《絶命豪雷》。レベルは6だ。その名の通り、一撃で命を奪うかのような強力な雷光を放つことが出来る。


「えっ? で、でもいいんですか? こんなに高いものを?」

「ふ、実はこれはもう何年も売れ残っているアイテムでな。捨て値で売っても買い手がつかんのさ。なにせ魔力が一回分しか残されておらんからな。あと一回魔法を使ったらそれはもう壊れちまう」


 セレスにも分からないではなかった。たった一度しか使えず、そしてその一度を迎えるとアイテムの価値は全て失われてしまう……そんなアイテムにお金を出そうという人間はそこまでいないのだろう。それに《絶命豪雷》は強力だが、あくまで一体の魔物にしか効果を発揮しない。込められているのが広範囲に攻撃できる魔法だったら、一発逆転の為に買う人間もそれなりにいただろうが。


 最初七回分の魔力が込められていたその護符はかつてある客が買っていった。しかしいつしかその購買者が手放してまた同じ位置に飾られるようになり……やがて別の客が手に入れていくものの、しばらくしてまた同じ場所に並ぶ。そして、魔力が最後の一回になった時から、魔法の護符はずっとその陳列台から動くことはなかった。


「だから受け取ってくれ、お嬢ちゃん」


 ミーアはおずおずと周りに、そしてセレスに顔を向けたが、セレスが頷くのを見るとやがてヴァーゼルから護符を両手でうやうやしく受け取った。


「あ、ありがとうございます……大切にします……」


 その言葉にヴァーゼルは噴き出した。


「さっきも言ったようにそのアイテムは使い捨てさ。ここぞという時に使ってくれたほうがきっとそいつも喜ぶ。……これが合言葉だ。この言葉と一緒にその護符を敵に向かってかざしなさい」


 ミーアは頷いて言葉が書かれた紙を受け取った。護符と一緒に手に持ち、ルナルナ、クナイの二人と一緒にしげしげと見つめている。


「それじゃ僕達はそろそろ行くよ。こういうことを言うのはなんだけど、もし万が一魔物が街中に入ってきたら無事に逃げ延びてくれ」

「なに、大丈夫だ。当日売れ残ったアイテムがあったら、いつものように信頼出来る連中に貸しつけて守ってもらうつもりだからな」

「そこはもう譲渡でいいんじゃない? まあ、そのたくましさがあったら大丈夫だろうさ。それじゃ、またね」

「ああ、また元気な顔を見せろよセレス。そしてお嬢ちゃん達もな」


 多少不器用なヴァーゼルのウィンク。セレス達はそれぞれの言葉で別れを告げ、店を後にした。


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