鈴、バイトする②
side R
「やあ、来たね」
「……今日からお世話になります」
バイトの初出勤日。
人事の人が案内してくれると思えば、何故か晴人がいた。
暇なのか。
「総務部に配属されて驚いたかい?しかし、君のポテンシャルを信じてーー……」
色々と褒め言葉を並べながら歩く晴人を尻目に鈴は胃を擦る。
驚くだろう、配属もそうだが学生バイトの案内に次期社長、現専務が着いたら。
暇なのか。(二回目)
「竜宮コーポレーション…いや、グループ全体だな…、ここは『夢を創る』会社だ。だからこそ、優秀かつ様々な人材が必要だと思ってね!」
「あの、竜宮専務」
「なんだい?」
「『夢を創る』とは、具体的に何を…?」
会社の上層部にいる人間に聞く質問ではない。
どう考えてもリサーチ不足だろう。
しかし、父親に聞いたところ。
『『夢を創る』会社だ。後は専務に会ったときにでも聞け。…万が一専務がその『夢』を拡げようとしたら、父さんを呼べ。止め…られないが、処理はしよう』
事態収拾の処理の話だろうか。
ただ、何をする、もしくは作る会社かは最後までわからなかった。
鈴のそんな質問に対して、晴人は顎を撫でながらしばし考えてから、具体的な例を挙げる。
「そうだな…私は昔から生身で空を飛ぶことが夢でね」
「生身で…?」
「自家用ヘリには飽きた!」
すごいことを言い出した。
「それで部門を立ち上げてなぁ。人一人飛ばすことは可能になったが、機械の縮小やら金額をどう下げるやらなど…まあ、現在目下努力中さ!」
「すごいですね…つまり、航空系の機材開発を?」
「いや、『夢を創る』会社さ!」
「はい…?」
意味がわからず思わず変な声が出る鈴を尻目に、晴人は続けた。
「『あったら良いな、やってみたいな』という『夢』を実現させる会社というわけさ。いま、異世界ものが流行っているから、いずれは異なる世界を探してみるのも良いかもしれないな!昔は海の向こうに国があるなんて思われていなかったんだ、異世界があってもおかしくはないはずだ!」
「………」
わからない。
わからないが、壮大な『夢』を語られたのはわかった鈴であった。
「専務…?」
後ろから、聞き覚えのある声。
しかし、地を這うようなひくーい声が響く。
専務秘書である直である。
「お時間です。お戻りを」
「そういうわけだから、頑張りなさい!」
まだ何か語り足りなそうな晴人を引き摺り、直は去っていった。
総務部の前で置いていかれた鈴は結局、何の会社かわからなかった。
「結城鈴です。よろしくお願いします」
鈴は三人の先輩の前で、頭を下げた。
「久保田だ。この班の取りまとめをしている」
三十代半ばの男性が、眼鏡の位置を直しながら名乗る。
感情の乗っていない声が、その鋭利な眼差しと合わせて彼を冷たく見せた。
「も~、久保田君ったら!声に感情を乗せて!」
「業務に必要ですか?」
「必要よ!私は真澄。噂好きなおばちゃんとでも思って!」
彼女が笑うと目尻に皺が寄った。
優しそうな雰囲気の五十代後半の女性は、久保田の背中を叩きながらそれでも彼のフォローをする。
「悪い子じゃないのよ?『一ミリのミスも許さない仕事人』とか『AI搭載ロボット』とか呼ばれているけど、真面目で面倒見が良いから、気にしないで何でも聞いてあげて!もちろん、私たちでも良いけど」
「ありがとうございます…?」
久保田を見れば、散々なあだ名に怒った様子もなく真澄の言葉に頷いた。
「円滑に職務を遂行するためだ。気にせず声を掛けなさい」
「はい、よろしくお願いします」
残るは一名。
日当たりが良い窓近くのデスクに座り、目を細める小柄な人。
「猫田だにゃー」
「………?」
聞き違いかと思った。
しかし、ここでも真澄のフォローが入る。
「猫田さんは地方出身で、訛って語尾が『にゃ』と聞こえるのよ」
「はあ……」
猫田を見れば、日にぽかぽか当たりながら目を細め…。
「来世は猫になりたいにゃ~」
「………」
「仕事は出来る人だ」
久保田のフォローも入った。
この三人が、鈴と共に仕事をする先輩たちのようだ。
「………」
やっていけるか、やや不安になる鈴であった。
真澄「『結城』が二人いると紛らわしいわね」
久保田「業務を円滑に行うため、下の名前で呼んでも構わないだろうか?」
鈴「はい、大丈夫です」
真澄「あっ、でも、総務部にはすでにリューさんがいるわね」
鈴「リューさん?」
真澄「ハリウッドが大金かけて作ったファンタジー大作のダークヒーロー顔の人」
鈴「ハリウッドが大金かけて作ったファンタジー大作のダークヒーロー顔!?」
猫田「鈴は日曜日の昼間にやってる、旅番組に出てくる旅猫顔にゃ」
鈴「どんな顔ですか、それ!?」




