結城家の騒がしい朝①
Side T
目覚ましのタイマー音で、朝を知る。
ゆるりとしか開かない目を、懸命に開けた珠稀は、自分の胸元にある色素の薄い髪を見て、ぎょっとした。
一瞬、慌てたが、その頭が呼吸と共にゆっくりと上下するのを見てホッとする。
夫と同じ向きのつむじを軽く押し、珠稀は声を掛けた。
「八倖、起きなさい」
「う~ん…」
むずがる声と共に剥いだ布団の中で、ゆっくりと切れ長の目が開かれて…珠稀を見てまた閉じた。
早い。
「こら、八倖。起きて」
「やだぁ」
寝ぼけた、甘えたな声。
「もう、時間になって」
「勇者のお母さんみたいに起こして」
「…え?どういうこと…?」
珠稀は硬直する。
勇者のお母さんとはなんだ?
何者だ?
珠稀は悩んだ。
悩んでいる内に、胸元からまた寝息がし出す。
「待って待って、とにかく起きて!!」
やっと起きた娘と共にリビングへ向かうと、大きな窓から朝日が爽やかに照らしてきた。
夫が部屋選びで括った1つだが、今日は特に眩しい。
半目になりながら、キッチンに立つ夫の背中に抱き付く娘を見た。
「お父さん、おはよ~いい匂いするね」
「味噌汁か?」
「んーん、せっけんの香り!」
「シャワー浴びたからな」
べったりと娘を張り付けた夫が、珠稀を振り返って微笑む。
「おはよう、母さん。眉間に皺寄せても可愛いよ」
「…ありがとう。おはよう、お父さん」
目がシパシパする原因が、爽やかに笑っていた。
社会人の息子と高校生の娘がいる風体ではない。
若々しいその姿に、今日も恐れ戦く珠稀であった。
「父さん!走るペース早いって!!」
バンッ!
リビングのドアを乱暴に開けて入ってきたのは、息子の鈴だ。
昨日は実家に帰って着ていたから、朝から夫と走り込みをしてきたようだ。
「父さんは普通だ。お前、最近サボっているんじゃないか?」
「年考えろよ、もー!!」
「反抗期か?」
「二十二才だよ!!」
喧嘩ではない、いつもの風景だ。
その証拠に、同じくシャワーを浴びてきたらしい鈴は、タオルで濡れた黒髪を拭いながらテーブルを拭いてくれている。
優しい長男なのだ。
「ねーねー、お父さん。お母さんもせっけんの良い匂いしたよ」
「八倖もせっけんの良い匂いがするぞ?」
「うん!…でね、パジャマが寝てなかったみたいにキレイで…いた!兄貴、痛いよ」
妹にチョップを入れた長男の顔は赤い。
「そういうことは言うなって!高校生だろ、察しろよ!!」
「えっ、何を?」
珠稀は真っ赤になって、首元を押さえた。
そこに痕跡があるかはわからないが、一応だ。
味噌汁をかき回す夫だけが、平然と微笑むだけだった。
「母さんは可愛いな」




