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第1話 前代未聞の武具適性

 朝露がまだ葉を濡らす頃──


 ある辺境の地には、30メートルほどの巨木が立ち並ぶ広大な森があった。

 その幹はどれも直径3メートルほどあり、空を覆う傘のような枝を大きく広げている。


「うはー!やっぱ森の探検は最高だなっ!」


 その巨木の一つには、枝にぶら下がる小柄な少年の姿があった。

 そして驚くことに、彼は自分の身の丈以上もある虎型の魔獣を片手で掴んでいる。


 銀髪に澄んだ青い瞳。この世界で最も数の多いヒューム(人族)の少年。

 彼は活発な振る舞いとは裏腹に、どことなく気品のある顔立ちをしていた。


 すると彼は、討伐した魔獣を掴んだまま枝を支点にくるりと身体を回転させた。

 その勢いのまま枝から手を離した彼は、まるでムササビのように宙を舞う。


「はっはー!やっぱり、ここから飛ぶのは気持ちいいなー!」


 楽しげな声を響かせ、少年は落ちる。


 ──ドズンッ!!──


 地面に積み上げられた枯葉が、その落下の衝撃で舞い上がった。

 いくら分厚い絨毯のような枯葉があるとはいえ、あの高さから落ちれば普通は大ケガどころでは済まない。


 しかし少年は、何ごともなかったかのようにスッと立ち上がった。

 そして、彼は掴んだ魔獣を肩に抱えると、そのまま森の中を駆け抜ける。


「よっし!屋台のおっちゃんに焼いた肉と交換してもらおう!」


 枯葉を踏みしめる音を鳴らし、少年は木々の隙間を軽やかに進む。

 枝から枝、木の幹さえも足場にして、彼はリスやウサギのように飛び跳ねた。


 まるで、森全体が遊び場であるかのように、自由気ままに飛び回る少年。

 そうして深い森を抜けた彼の視界には、緑に囲まれた古い街並みが飛び込んできた。


 そこはグランジェット家が治める、辺境伯領にある大きな街。

 帝都から離れた田舎ではあるものの、人々の往来が多いこの街には活気が溢れていた。


 中心部に並ぶ屋台からは、魔獣肉の串焼きの香りが漂ってくる。

 風で運ばれる香ばしい匂いは、通りを歩く人々の食欲を誘っていた。


「うわぁ!うまそーっ!」


 猛スピードで街を駆けていた少年は、屋台の前で急ブレーキをかけた。

 目の前で焼かれている魔獣肉──

 立ちのぼる煙と香ばしい匂いは、少年の足を止めるには十分だった。


「坊ちゃん、まーた森で狩りですかい?

 いいかげんにしないと、領主様にどやされますぜえ?」


「いいのいいの!それより、おっちゃん!

 討伐したての魔獣置いてくから、その焼きたてのやつちょうだいよ!」


 少年はそう言って虎型魔獣を差し出した。

 それを見た店主は目を見開き、思わず大きな声を上げる。


「ちょ!坊ちゃん!?こんな大物、串一本じゃ釣り合いませんよ!?」


 だが、肉串をひょいと受け取った少年は、すでに屋台から遠ざかっていた。


「こほほはひひへほ、あへほいへー!」


 美味そうに肉を咥え、笑みを向ける少年。

 彼は何やら意味不明な言葉を残し、颯爽とその場を去っていった。


「はは。何言ってるかわかんねえや。

 でもたぶん、街の子どもたちに肉あげとけって言ってんな」


 店主は苦笑しながら、遠ざかっていく少年に手を振った。


「またご贔屓にーーっ!」


 少年はそのまま、凄まじい勢いで壁や屋根を渡っていく。


「またやってらぁ」

「坊っちゃん、落ちないでよー?」


 そう言って見上げる街の住人に、少年は笑顔で手を振って応える。

 そして、あっという間に繁華街を抜けた彼は、目的地である大きな屋敷の前にさしかかった。


「ああ!リック様!?また森へ行きましたね!?

 ほんと懲りないな……!今日はどっから抜け出したんですか!?」


 古い石造りの門前──

 屋敷を守護する騎士の一人が声を上げた。

 そこは、この地を治めるグランジェット辺境伯の邸宅。


 すると、鎧をガシャガシャと鳴らしながら先ほどの騎士が駆け寄ってきた。

 その手には、200センチほどもある長槍が握られている。


「はっは!門は開けなくていいぞ、クロイツーっ!」


「なっ!?待ってくださ──」


 騎士がそう言いかけたがもう遅い。

 力強く地面を蹴ったリックは、まるで猫のように宙を一回転しながら門壁の中へと飛び込んだ。


「またやりやがった……!それ、怒られるの俺なんだけどなぁ……」


 クロイツは門壁の上を眺めてぼやく。

 すると、隣にいたもう一人の騎士が、憐れむように彼の肩を叩いた。


「まあ、このやりとりも今日で終わりだ……

 あの身体能力に高位の武具適性が備わったら、それこそ一騎当千だぞ」


 安堵するはずのその言葉。

 だが、クロイツはなぜか少し寂しく感じられた。


「あのリック様がもう15歳かぁ……

 どっちにしろ、すぐに俺たちの上司になっちまうなぁ……」


 リックと呼ばれた少年は、グランジェット辺境伯の末弟、四男だった。

 一般的には家督を継ぐ立場になく、成人の儀を迎える彼はそのまま騎士団入りとなる。


 広い庭を抜け、屋敷の中へ入ったリック。

 彼は玄関前の広間を通り、落ち着いたワイン色の絨毯が敷かれた廊下を歩く。

 そして、廊下の奥にある執務室へと辿り着いたリックは、赤茶けた古木の扉の前で足を止めた。


 ──コンッコンッ──


「父様、入ってよろしいですか?」


「ああ」


 中から響く、渋めの重厚な声。

 リックが扉を開くと、そこにはリックと同じ銀髪を後ろでまとめた、辺境伯である父の後ろ姿があった。


 彼の名はダイナス・グランジェット──


 魔獣の脅威や敵国の侵攻に備える、辺境伯領を治める実力者。

 大国でもそう多くはないとされる、レジェンダリークラスの武具の使い手である。


 武具のクラス(適性階級)──

 それは、武具が宿す神聖力によって決まる。


 神話や伝承上でしか語られないジェネシス(創世級)。

 世界を見渡しても数えるほどしか使い手のいないミシック(神話級)。

 そして、大国同士の序列を左右するレジェンダリー(伝説級)。


 貴族階級では、叙事詩級であるエピックですらありふれたクラスになってしまう。

 その下には、平民や奴隷に多いレア、コモン、アンコモンといったクラスが存在した。

 

「一般市民の成人の儀は午前で終わる予定だ。

 その後で、お前には一人でレーヴァテインを握ってもらうことになる。

 我がグランジェット辺境伯家に相応しいクラスの武具適性を授かるよう、創世神イデア様に祈りを捧げておけ」


「は、はい。」


 レーヴァテインとは、成人の儀で握るミシッククラスの神剣。

 創世神話に登場するジェネシスクラスの武具、ミストルテイン(創世樹の剣)が世界各地に枝分かれした姿だと伝えられている。


 リックを振り返った父は、眉間に深いしわを刻んでいた。

 それが期待からくるものなのか──

 ダイナスの胸の内が分からないリックは息を呑んだ。


「帝国を始めとした国家間の力関係は、高位武具の適性者によって左右される……

 だが、魔獣を生身で倒すほどのお前の身体能力は、凄まじい可能性を秘めている。

 仮に、私を上回る武具適性が得られたならば、お前は周辺諸国一の武具の使い手になるだろう。」


「そ、そう……ですか」


 その意図が見えないリックは、よく分からないまま首を傾げる。

 そんなリックをよそに、ダイナスはすでに決定事項という前提で話を続けた。


「お前がレジェンダリークラス以上なら申し分ないが……

 仮に、エピッククラスだったとしても……兄たちではなく、お前に家督を継いでもらう」


「え、俺が!?」


 リックは思わず、声を上げて驚いた。

 家督を継ぐなんて話は、これまで一度も考えたことはない。


「お前の兄たちは、揃いも揃ってエピック止まりの出来損ない……

 だからこそ、天賦の才に恵まれ、最後の望みであるお前には大いに期待している」


「ぜ、善処します」


 思わぬ重圧に戸惑うリック。

 険しい顔で頭を下げた彼は、静かに執務室を後にした。


 それから数刻後──


 街の中心部にある教会には、リックや父、そして兄たちの姿があった。

 ステンドグラスから透けた陽光が降り注ぐ中、リックの運命を決める成人の儀が始まる。


「緊張するなぁ……」

 

 ゆっくりと祭壇へ上がったリック。

 目の前にある台座には、神話級を冠する神剣、レーヴァテインが突き立てられていた。


 神剣を管理する神官長に見守られる中、リックはレーヴァテインの柄を握る。

 額には汗が滲み、手の平には冷ややかな金属の感触が伝わった。


 すると、リックの魔力に反応したレーヴァテインが光り始める。

 それは、創世樹から生まれたとされる神話にふさわしい、若葉のような翡翠の光。


「リック。神剣に祈りを捧げよ。」


 険しい表情を浮かべるダイナス。

 その横には、顔を曇らせる兄たちが並び立っていた。

 中でも長男は、リックに刺すような視線を向けている。


「……神剣よ。我が道をその身に示したまえ」


 リックの祈りを聞き届けたレーヴァテインは、剣身に赤い文字を浮かび上がらせた。

 すると、リックの体が濃い紫色の魔力に包まれる。

 その時、彼は自身の中を駆け巡る異様な力を感じとった。


《な、なんだ……!?》


 それを見た神官長が思わずたじろぐ。


「こ、これは……!」


 リックの魔力の揺らぎとともに、剣身に刻まれた古代文字。

 模様のようなその文字は、あまり見慣れない内容を示していた。


「なんと書かれている!?」


 ダイナスが大きく身を乗り出す。

 兄たちもまた、剣身の文字に目を凝らした。


「いや、その……」


 なぜか神官長は言葉を詰まらせた。

 彼の瞳は落ち着きなく揺れ、明らかに動揺を滲ませる。


《まさか……かなり低位なのか……?》


 リックの胸にも不安がよぎる。

 もし、コモンやアンコモンだったら、父はどんな顔をするだろうか。

 その姿を想像しただけで、リックの顔は強張った。


「あの……俺の適性クラスは……?」


 リックが恐る恐る尋ねると、神官長はびくりと体を震わせた。

 そして、眉を寄せた彼はゆっくりと口を開く。


「リック様……剣身には“リジェクト”と刻まれております。」


「リジェクト……?」

《そんなクラスあったか……?》


 リックはよく分からずに首を傾げた。

 彼から視線を逸らした神官長は、震えた声で続ける。


「は、はい。リジェクトとは拒絶や不適合の意……

 つまりあなた様は、武具のすべてから拒絶され、装備ができないのです……」


「は……?」


 まさかの結果に、リックは言葉を失った。


この度は数ある作品の中から本作をお読みくださり、誠にありがとうございます。


少しでも「面白かった」「展開が気になる」など思っていただけましたら、ブックマークや高評価をくださると飛び上がって喜びます。


基本的に毎日更新していく予定です。

※都合により投稿できない場合もございますので、ご了承いただけますと幸いです。


◎AIの補助利用について

原稿作成後、語彙の補完と誤字脱字のチェックにのみAIを使用しています。

物語の概要や設定、話ごとの内容、登場人物からアイデアに至るまでの全てにAIの関与はございません。


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