ダメンズ育ててどうするんかね
麻美子は目を見張って久恵を見ている。巻き込んでしまってゴメンナサイなんて気持ちは微塵も無さそうだ。
男子二人は意味の無い悪態を吐き続け、別の二人は居心地悪そうに俯いている。
「女子寮のモラルを守らんで女子寮の恩恵だけ受けたかったんか?」
紫メッシュ先輩が言うのを、タチバナ先輩が「れもん!」と短く制した。
よく見ると、上級生たちは立ち上がってはいるが、口はしっかり閉じている。場が荒れぬよう配慮しているのか、そういう意識を行き渡らせているのかと、果々子は唾を飲み込んで、タチバナ先輩の凛と美しい項のラインを見上げた。
と、果々子の肘がそっと引かれた。さっきのユルフワ女子が、後ろに回って出口へ誘っている。
「洗濯物片付けるの、お手伝いしてくれる?」
「あ、は、」
また声がかすれて出ない。
***
「怖かったでしょ、ごめんねぇ。こんな事滅多に起こらんよ」
食堂を出て歩きながら、ユルフワ先輩がゆっくり説明してくれた。
「カタコユリ荘は、寮母さんが食堂にキャパ割かれるんで、寮監的なお仕事は、学生課と連携して自分らで賄っとるん。藤田ちゃんも、通達は早くに来ていた筈だから、無視しないでちゃんと改めていれば、何も起こらんで済んだのに」
半分腰が抜けた状態だったので、こうして気に掛けてフォローして貰えるのは有り難い事だったと、果々子は殊勝に思った。
階段の所に部屋から下りて来た寮生が溜まっている。
「タマ先輩、どうなっているんですか」
「どうもこうも、学生課からの勧告じゃ、もう庇ってあげられんっちゃね」
「そうですか」
「あんまりそこに集まると階段抜けるよ、もう部屋にお入り」
「はぁい」
寮生たちが上に消えると、ユルフワ先輩もといタマ先輩は、果々子にも「お部屋に戻っていいよ」と言った。
「あ、片付けは……」
「やっぱりいいよ、よく考えたら楽しくもない作業だし」
「やりますよ」
何だか今まで喋れなかった分を取り返したい気分で、思ったよりきちんと声が出せた。
先輩に続いて突き当たりの洗濯場へ入る。
寮生四十二名に洗濯機と乾燥機が四台ずつ。十分に足りる数だと思う。
奥に広い手洗いスペースがあり、果々子にはそちらの方が重宝していた。
乾燥機は動いていたが、先輩は容赦なく電源を抜いて中身を本当にゴミ袋に詰め込み始めた。
「そっちお願い。あ、触るのイヤだったらビニ手……」
「いえ、行けます」
果々子はゴミ袋を受け取って生ぬるい衣類をギュウギュウ詰め込んだ。下着は袋ごしに掴んだ。予洗いもしていない運動部のユニフォームやスキーウェアみたいなのもある。何だってこんなのを他人に頼もうと思えるのだろう。
「一回、注意したんだけれどね」
「はい……」
「『あの人たち洗濯出来ないから可哀想でしょ』って」
「ああ……」
その台詞は果々子も聞いた事がある。
「出来ないったって、ポプラ寮のは最新の全自動だから、放り込んだら乾燥まで機械がやってくれるんだけどねぇ。まあ、男子にしたら『洗濯をやってくれる女子がいる』ってのが勲章なんだろね」
そういう物なのか……
家を出てこの機会に、『出来ない』を出来るようになろうとは思わないのだろうか。
「ダメンズ育ててどうするんかね、自分が結婚する時は家事スキルのある男を求める癖に」
「…………」
手を止めた果々子に、タマ先輩は慌てた感じで言い直した。
「ごめん、ちょい下世話だったね」
「いえ、わ、私も同意です。ただそんな風に上手いこと言葉が出てこないから、凄いなあ、う、羨ましいなあって」
ああっ、また変な事を口走ってしまった。ドン引きされてしまう。
「あはは、私なんか参考にしちゃダメダメ」
先輩は笑って流してくれた。それから立って、洗濯機の方を開ける。
「うぇっ、こっちもギッチリ。開けたくなかったあ~」
「手伝います」
果々子も立って、先輩と協力して重い衣類を引っ張り出し、ゴミ袋に詰める作業を続けた。




