喫茶ウペペサンケ
渋い内装の喫茶店、『うけけ・・ナントカ』で、果々子は所在なく待った。
山仲間が来るって言っていたけれど、それ以外のお客さんも来るかもしれないよね、事情を話してお帰り頂くしかないけれど……
と、幸いにして最初に入って来たのは、いかにも山仲間という雰囲気の四人組だった。
「あれ、ヒィさんは?」
ヒィさんっていうのか、雪焼けマスター。
四人の男性もマスター程ではないけれど、よく雪焼けしていた。果々子は事情を話す。
「ああ、やっぱり昨日の怪我、深かったんだ」
「あまり悪化していなければいいけれど」
「それできみは? マスターの娘さん……じゃないよな? 若すぎる」
「通りすがりの女子大生です」
「はあ?」
何て説明すれば納得して貰えるだろう。果々子にだって何でこうなっているのか分からない。
それで、マスターとのやり取りを出来るだけ正確に伝えてみた。
四人は神妙に聞いていたが、「マナスル持って逃げる」のくだりで、
「ギャハハハハ!! マナスル! よりによってマナスル!!」
と、こちらも大笑いされてしまった。
「そんなに笑える事なんですか?」
大真面目に聞くと、男性の一人が親切に「あのね」と教えてくれようとした。
しかしそのタイミングでまた三人の山仲間さんが入って来てしまう。
「あれ、ヒィさんは?」
そこで先の四人組が最初から説明し、マナスルのくだりで、
「何でマナスル~~!!」
と、また笑い出してしまった。後から来た三人には女性も交じっていたのに、やっぱり身悶えして笑っている。
「お、お、俺だったら、オプティマス8R持って逃げるわ!」
「じゃ、じゃあ俺は、大ブス小ブスと、あそこの軍用ラジウス!」
「欲張り!」
「ふふん、俺は二階にあるICIスタードーム!」
「ずるい、二階もアリだったら、えっと、あれだ、モンベルの折り畳みシーカヤック!」
「体力あるな!」
「ねえ――、それよりヒィさん、レジ開けっぱなしだよ」
「ギャハハハ無用心にも程があるぞ」
え――と、要するに、ここは、分かっている人には垂涎のお宝だらけのインテリアらしく、そこで私がイッチ番どうでもいい物(この人たちにとって)を持って逃げるなんて脅しに使ったのが滑稽だったと……
いつの間にか、男性の一人がカウンターに入り込んで、勝手にサイフォンでコーヒーを淹れている。果々子と目が合うと、
「あ、俺、マスターの一番弟子だから。お客の珈琲は入れられないけど、身内のなら許されてる。美味しいの入れるからどうぞ座って」
と、カウンター椅子を勧めてくれた。
「ごめんね、笑い過ぎだよな。妙にツボってしまって」
「はい、私って悪事の才能すらも無いのかとヘコみました。でも無い方がいいですよね」
ぐぶっ・・と後ろで、皆が必死に笑いを堪える気配がする。
マスターは山仲間のネットワークの要みたいな位置にいて、ここには色んなグループが集うらしい。
『ウペペサンケ』って山の名前だって。そんな聞いても五秒で忘れる名前を採用しなくてもいいのに。




