知らなかった自分に慄く
第六章【 陸上競技記録会 】
学校隣接のグラウンド。
あまり来なかった場所だがめっちゃ広い。さすが学生スポーツにおいても歴史深い学校だけある。
公式の記録会という事で腕章をした係員が多く、伸びやかな姿態の選手たちがあちらこちらでウォーミングアップをしている。
他校の選手も来ているみたいで、ベンチには同色のスポーツバックがまとまって置いてある。
果々子は後ろの方に空いているベンチを見付けて座った。
(応援ったって何をすればいいんだろう)
テレビのスポーツ中継と違い、解説の宛もなく本当に淡々と競技が進むだけだ。
取りあえず両手を組んで心でガンバレガンバレと祈ってみた。
「なにやってるん」
飛び上がって顔を上げると、正面のグラウンドに競技スタイルのみかんが立っていた。相変わらず人間離れしたプロポーション。
「お、応援を」
「ありがたいけど、見てなあかんやん。れもん先輩、跳ぶで」
「あっ」
指差された先、
走り高跳びのゾーン、助走ラインを綺麗なふくらはぎが駆け抜け、逆光の大空に舞った。
「うああっ」
贔屓目でなくても、他の選手よりズバ抜けて力強いジャンプ。
「きれいきれい、白鳥みたい!」
「当たり前や。うちが誰を追い掛けてこのガッコ来た思てんねん」
うちは二つ後の班やから、目ぇかっぽじって見ときや! とみかんは元気に走って行った。走り方もレイヨウみたい、本当に同じ人間かしら。
「風輪みかん、やっぱり光ってるなあ」
またもやいきなりの声に、果々子は思わずそちらを見た。
果々子に言ったのではなく、前の方の他校の荷物が置いてあるベンチで、二人の男性が会話している。
他所の学校名の入ったスポーツウェアは着ているが学生っぽくなく、コーチとかマネージャーって感じだ。
片方の男性は、また違う学校名の上着だ。
「素材からして違いますよねぇ、走る方だけじゃなく跳ぶ方でも魅せてくれるんだから、贅沢というか奔放というか。あの体幹、生まれ持った物なんでしょうか」
「うちの神奈川の本校なんか、中学生時代から目を付けていたんですよ。散々ラブコールを送ったのに見事に振られてしまった」
「こんな遠方に進学でもOKと分かっていたら、うちだって全力で話を持って行きましたよ」
「ここ、一般入試で入ったらしいですよ」
「まさか!」
果々子は唾を飲み込んだ。
自分はトンでもない逸材を自転車置き場の屋根に登らせてしまったらしい。
「さっきここのスポーツ栄養士に……あ、私の同期なんですが……聞いたんですが、一般入試合格者に名前があって、大騒ぎになったとか」
「真面目にですか」
「慌てて受け入れ環境を整えようとしたけれど、本人は一般学生寮の入寮を頑なに希望して、またすったもんだあったとか」
「いやいや、何だかんだ言ってまだ子供だし、合宿所に入れて生活を管理してやらなきゃイカンでしょ。周囲がお洒落だグルメだ言ってる環境に放り込むなんてトンでもない、百害あって一利なしだ」
四月中はなかなか寮で暮らせなかったみかん。陰で色んな苦労をしていたんだ。それなのに肝の小さい私は拗ねて引き込もって心配かけて……
「さっきの瀬戸れもんとは従姉妹同士らしいですよ」
「ああ、似てますよね、フォーム。あの子は遅咲きなのが惜しかった。大学でこんなに伸びるなんて予測不能だよ。インハイで数字を残せていたらうちだって枠に入れたのに」
「女子選手は難しいですねえ」
「苦労しますね、最近はメンタル弱い子も多いし…… お?」
みかんの跳ぶ順番が来たようだ。
高跳びエリアが緊張に包まれる。
それどころかグラウンド全体がシィンとしているのは、気のせい?




