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見極め

   

「ああっ、ずる――い!」


 甲高い声が、佐原手先輩と果々子のひと時をブチ壊す。


 白鳥梨華が、何故かカタコユリ荘の玄関から飛び出して来た。

 まさか、夕べ泊まったのか?


「私もお茶、飲みたいです、コスプレせんぱ――い」


 果々子は背筋が凍った。

 いや果々子だって心の中で先輩をあだ名で呼んだりするが、口から出す時は誓って本名だ。

 佐原手先輩は知らない人に、「ムスリムなの?」と聞かれた時「いいえ、でもこれが好きなので」ぐらいに流しているけれど、「コスプレ」って言葉は聞いた事がない。

 さっきの話を聞いたら尚更だ。先輩には信仰と同じくらい尊重している物がある。


(寮にそんな呼び方をする人間はいなかった筈。この子が勝手に呼んでいるの? 誰も咎めなかったの?)


「私は今日の支度がありますので」

 佐原手先輩が静かな微笑みを絶やさないまま、さっさと道具を片付けた。

「遠山さん、お茶を入れて差し上げたら? そのマナスルで」

「あ、はい」


「ああん、先輩、つめた――い。私もコス……」

 ビャラビャラビャラシュビビビビ!!


 マナスル様のお陰で先輩は嫌な言葉を耳に入れずに退散出来て、梨華も喋り続けるのを諦めてくれた。



  ***



 コンロの音が嫌なのか果々子には価値がないと思っているからか、どちらかは分からないけれど、梨華は無言になって、フイと建物に入ってしまった。

 誰かに甘えて朝のアメニティを借りるつもりだろう。


 果々子はそのまま一人、外のベンチでコーヒーを淹れた。

 湯気の立つコーヒーを飲んで、昨日セイコマで買ったブドウパンをかじる。パンは芯まで冷えていて、炙りたい所だがマナスルでは灯油臭が付いてしまう。

 こんな時はガスが羨ましいな、いやさっきの佐原手先輩の小さい焚き火台もいいかもしれない、びっくりするほど小さく畳めていたし……あっ、炭を使ったら炭の香りのパンになる! いいかもいいかも!


 なんて陽の思考で頭を埋めようとしていたのに、朝の運動に出て来た先輩たちに、夕べ皆が帰って来た時の様子を教えられ、また気分が落っこちた。


 案の定というか、梨華はジュースと間違えて(本当か?)カクテル系の強い奴をガブ飲みしてしまい、相当まずい体たらくになって、仕方なくタマ先輩が彼女の寮に連絡を入れ、皆でカタコユリ荘の談話室に布団を敷いて寝かせたらしい。


(せっかくの飲み会だったのに……)

 最終学年はこれから就活に卒業準備に忙しくなる。最後の交流の機会だった人もいたかもしれない。

 そも、学校名を背負う学生の飲み会なのだ。世間の監視厳しい昨今、何かあったら学校にも同席者にも店にも迷惑が掛かる。ゴメンナサァイで済ますつもりなんだろうけれど絶対に済まない。


 果々子は酔っぱらいが大嫌いだ。実家の家業の関係で、普通の子供よりは多く見て来た。

 楽しい筈の席をぶち壊してでも自分を中心に置きたい者は、一生同じことを繰り返すし、結局周囲に誰もいなくなる。



 二杯目のコーヒーを飲んでいると、タマ先輩に連れられて梨華が出て来た。やっと自分の寮へ帰るらしい。一人で帰れないのだろうか。

 彼女が明るく周囲を笑顔にしてくれるのなら多少腹黒くても構わない、自分が邪魔なら引っ込んでいようと、果々子は思っていた。


(だけれどそうではないみたい……)





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