やめて巻き込もうとしないで
(おお?)
果々子は思わず立ち止まる。
麻美子たちは「洗濯してあげるぅ~」と男どもの洗濯物を預かり、カタコユリ荘のランドリーを独占し、譲り合って使っている物干しをデカイ衣類で圧迫したりもしている。今もきっと占拠中なのだろう。
「ぇ~~」
と小さい声で言いながらも麻美子は腰を上げない。男子はビックリして動揺しているのが二名、ニヤニヤしているのが二名。
食堂には他のカタコユリ寮生も十名ほどいて、手を止めてこちらを振り向いている。
「カタコユリ荘の設備はここの寮生の為の物です。隣のポプラ寮には最新のランドリーがありますし、まさかわざわざこちらの少ない洗濯機を侵犯しに来るような者はいませんよね。該当者がいないようでしたらただちに撤去、廃棄します」
ショートボブ女子は朗々と告げる。
後ろの果々子は呆気に取られて眺めていた。
(いいなあ、こんなに淀みなく堂々と通達出来て。遥か雲の上の凄い人種だ)
「ココロせま――い」
麻美子が粘っこい声で呟いてプイと斜め上を見上げた。
「ヒス女、怖えぇ」
ニヤニヤ男子の一人が言った。
果々子の方が背筋をヒュッとさせる。
カタンと椅子の音をさせて、端で食事していた上級生女子の一人が立った。
「撤去作業手伝います、ナツ先輩」
「あ、私も。可燃ゴミ袋貰って来ます」
反対端でも立ち上がる女子。
おい捨てるなよ、という男子の声は無視され、私も、私も、と気が付けば食堂にいた十名ほどの女子寮生全員が立ち上がっていた。
麻美子の集団はいつの間にか取り囲まれている。
「い、いじめだわ、酷い酷い……」
泣き顔をつくる麻美子。
「フェミ女ども、おっかねぇ」
悪態をつくニヤニヤ男(もうニヤニヤはしていない。
寮生たちは黙ってその場に留まっている。誰も口を開かずシィンとした空気。
寮母さんはというと、厨房の奥に腰掛けて、我関せずで伝票作業をやっている。
「す、すみませんでした、持って帰ります」
無言の包囲の中、ニヤニヤしなかった男子の一人がやっと言った。
「早急にお願いします。でも男子学生は食堂以外は立ち入り禁止です」
男子も含めての視線が麻美子とグループのもう一人の女子に集まる。もう一人の女子は腰を浮かせたが、麻美子はドッカと座り直して足を組んだ。
「だってまだ乾いてない」
「では廃棄します」
「そんな権利あんたに無い」
「あるんやけど……」
の関西弁は、ショートボブ先輩と反対の玄関側に立つ、横髪に紫メッシュを入れた上級生が呟いた。
麻美子はギッとそちらを睨む。
「新歓の時に紹介があった筈やけど。『院生のタチバナ先輩はたまに学生課から依頼を受けて代行しに来ます』って」
「ああいうの、ちゃんと聞いておかないと、自分が損だよぉ」
また違う場所から別の上級生が言う。
果々子は隅で首をすくめた。自分も聞いていなかった。
少し動いてしまったのが良くなかったのか、麻美子に目を付けられた。
「ね、酷いよね、遠山さん。上級生が集団で取り囲んで脅して、これイジメよねぇ、遠山さ――ん」
やめてやめて、巻き込もうとしないで。
しかし咄嗟の口が回らない。それでいつも割を喰うんだ、私。
逃げたかったが、ゆっくり振り向いたショートボブのタチバナ先輩という人にロックオンされてしまった。
何も言わずに果々子をじっと見る。
アーモンドみたいな目が見事なシンメトリーで凄く綺麗なんて、関係ない事を考えてしまった。




