優勝者の得るモノ
続けてタチバナ先輩は、質問に対する答えを訥々と述べ始める。
「優勝者の得るモノは、『カタコユリ荘食堂の一年間の日曜カレーの味になる権利』です。エントリー時にお渡しした応募要項を今一度ご確認下さい」
あ、そうそう、『皆で決めた味だから一年間文句は言わせない』って主旨があったんだ。最初にタマ先輩に教えて貰ったっけ。
あれ……それって…………?
「じゃあ今年の日曜はあの美味いカレーが食べられるわけ?」
「やった!!」
騒ぐポプラ寮のイナゴ軍団とは離れた場所で、眼鏡男子が疑問100%の顔で、
「それ、俺が作り方を教えるんですか?」
と聞いた。
もっともな質問だ。
タチバナ先輩はゆっくり静かな、でもよく通る声で
「誰に?」
と聞いた。
――もっともな質問だ……
「えっ、あ? 厨房のおばさんに?」
「日曜は寮母さんもパートさんもお休みですよ」
……そこからかっ?
「じゃあ、今作っている人に……」
「先週までの一年間日曜カレーを作っていたのは、去年の優勝者、『カタコユリ カレー五人衆』の皆さんです。勿論無償で。選んでくれた皆さんに応えて、一年間、長期休み以外の毎日曜、約五十食のカレーを作り続けてくれました」
果々子は目を丸くして向かいに座るビタミンカステラ先輩たちを見た。そんな大変な事をやってくれていた人なのか。
先輩は鼻の下をスンとこすって、照れ臭そうな素振りをした。
「そちらに教えれば……」
「彼女たちは、去年選ばれた優勝メンバーだからやっていたのです。カレー大会を区切りにお役ご免です」
「…………」
眼鏡男子は一旦黙って考え込む。
代わりにカノジョの友人らしき横の女性が声をあげた。
「あの、それって、毎週日曜を潰してカレーを作りに来いって事ですか? 他所の寮の為に? 無理です、だいいち私、手伝いを頼まれただけだし」
「わ、私だって今日でもう懲り懲りよ!」
カノジョの方も被せて来た。びっくりしてそちらを見る眼鏡男子。
「何時間フライパンを振ったと思ってんのよ。もう腕が上がらない。一回こっきりだから手伝えた事だわ。ねえ、涼介、私たちに隠していたの?」
「いや、俺だって今はじめて聞いたし……」
眼鏡男子、頑張って抗議の口を開く。
「そんな事、応募要項に書いていなかったじゃないですか」
「六十年前のカタコユリ荘創設当時、便利なフードコートもコンビニもありませんでした。日曜に寮で暖かい夕食を食べたい人たちが集まって、厨房を借りてカレーを作ったのが日曜カレーの始まりです。
そこまでの歴史は知らなくても、現在の日曜カレーも無償労働で成り立っている事をご存じない方がポプラ寮にいらしたとは、こちらも考えが及びませんでした。その点は申し訳ありません」
(わ、私もご存じありませんでしたぁ~~!)
額に縦線を入れて小さくなる果々子。
「仰るように、忙しい学生生活に毎週日曜を潰してカレーを作れと言うのは酷な話です。蜂矢涼介さんのカレーレシピを伝授して、他者に作って貰う事も可能ですよ」
少しの希望に眼鏡男子は顔を上げた。
「メンバーは自ら集めて頂く必要がありますが」
ガックリ来る眼鏡男子。両脇の女性は首を高速で横に振ってバッテン印を作っている。




