糊カレーのできる訳・Ⅱ
「うう、哀しい、折角カレー許可が出たのに、そんな産物を食べさせられとるなんて……」
スポーツ女子みかんが、もったりカレーをもそもそと処理しながら哀しげな声を上げ、果々子は皿を引き寄せて残りを引き受けてやった。
ビタミンカステラ先輩は続ける。
「で、全部の野菜を詰め込もうとすると大きい鍋になっちゃうよね。そしてその容量のでかい鍋に、誰かがなみなみと水を注いでしまうの」
料理をやりなれている者なら、野菜がどれだけあろうと、ルウの分量以上の水分は投入しない。増やすだけなら後から幾らでも可能だからだ。
しかし、たとえ十人中九人がそう思っていても、残りの一人が何故か、本当に、不思議な事に、必ずいつも誰か、やらかす者が混じっているのだ。
「失敗その三、水をすりきり一杯入れたがる者がいる」
「は、はあ。でもそれならすぐに修正出来るのでは? 汲み出せばいいだけだし」
先輩は「ここが肝心」と人指し指を立てて振った。
「多すぎる水分を掬って減らすような真似をやってごらんなさい。『人がやった事をやりなおす神経質な人』ってレッテルを張られる」
「分かる!」とドラゴンフライ先輩が叫んだ。
「ああいう烏合の衆の中で一度修正作業をやってしまうと、その後の責任を全部背負わされる。なのに感謝もされず陰口を叩かれるだけ。だから、たとえ先の失敗が予測出来ても、誰もやろうとはしないの」
「分かる分かる!」ドラゴンフライ先輩は何だか愉しそうに手を叩いた。
「本当はそういう時こそ、リーダーがウンチクを発揮して矢面に立たなきゃならないのに、肝心な所は気が付かない。
だいたいその辺りで利口な人ほど泥船から逃げるネズミのように退いて行って、どうしようもない人材ばかり残る。
なんせ無能な働き者の中には、『他人の鍋に勝手に持って来て手を加えるのが親切』だと本気で思っているような危険人物まで混ざっているのよ。おお怖い怖い」
「本気で親切のつもりだったのでしょうか……?」
果々子にはまだ、麻美子の所業が、嫌がらせなのか思い込みの激しい勘違いなのか、判別がつかない。
「本気だったみたいよ、夕方しばらくフラフラと、貴女の所在を聞き回っていたもの」
ポニテ先輩に言われて果々子はゾッとした。
「でも、自分の事もロクに出来ないのに、他人を手伝ってあげようとする?」
別の先輩二人が会話に入る。
「手伝ってあげるフリをして、それ以上の労働を押し付けるパターンじゃない? うちのバ先にもいるよ、その手の人間」
「あ、いるいる。どこにでもいるんだねぇ」
……なるほど……
そうして『やらかし』ばかりが煮詰まって行くのか。
「そういう訳で、ルウが全然足りないシャバシャバカレーになる」
「煮詰めたり、他の調味料で味を整えるとか……」
果々子はとりあえず言ってみる。
「そう、そこでまたパターンなんだけれど、『俺様のカレー男子』は大体が、味よりも、とろみが無い事が許せないのよね。
のんびり煮詰めようと言っても聞かない、今すぐ思った通りにならないと許せない、ブツブツ五月蝿い、他の者はいい加減終わらせて落ち着きたいのに。
で、失敗その四、面倒くさくなった誰かが、『じゃあ片栗粉入れれば?』と言ってしまう」
「ホンット、見て来たように言うね~~」
ポニテ先輩が毎度の突っ込みを入れる。
「まあ、おかあさんたちが南瓜餅作るから、厨房に沢山あるのよね、片栗粉」
「そしてまたまたパターンなんだけれど、その時点で残っているような人間は、片栗粉の特性を知らないのよ。
あれだけ水分量があると全体に熱が伝わって反応するまでに時間が掛かるのに、投入したら即とろとろになると思っているから、まだ足りないまだ足りないって入れ続けるの」
「はあ……」
そして糊みたいになったカレーを水で薄める、容量が足りなくなるから寸胴に移し変える、また水分投入……
果々子の黄色い鍋のカレーは、途中で足りないルウの代わりに投入されたらしく。それで『元々はアナタのモノ』と言われても……
「ほだされてちょっとでも手伝ったら、配膳から後片付けから、全部押し付けられたでしょうね」
先輩の言葉に、またまたゾッとした。
聞けば、ビタミンカステラ先輩は入学当初入っていた野外料理サークルで、ドラゴンフライ先輩は高校時代のワンゲル部で、散々そんな現場を味わって来たそうだ。
「『料理は見え張りじゃく、食べる人の事を考えて作る』・・その当たり前を忘れちゃうのが、どこへ行っても失敗の大原因なのよね・・」




