こんな手に握って貰って(キャラ紹介2)
二階のベッドでうつ伏せる果々子。
うつ伏せたって一階のカレーの匂いは容赦なく上って来る。
古い木造だ、しようがない、耐えよう。お腹はすいたけれど、今カレーだけは食べたくない。
そもそも罰が当たったんだ。声掛けしてくれる先輩がたをうっとおしがって、今さら行事に参加しようなんて、図々しいにも程がある。これは罰、お前は何も享受してはいけないという、罰なんだ……
コンコンコンとノックがされた。
「遠山ちゃん?」
タマ先輩だ。
顔を上げて時計を見ると十八時、カレー大会開始の時刻だ。
心配させたくない、先輩たちには滞りなく楽しく行事を始めて欲しい。
鍵は開けずにドア越しに対応する。
「すみません、風邪をひいたみたいで、伝染したらいけないんで」
「……そう」
「黄色い鍋の、私のじゃないんで。藤田さんの名前で出して下さい、お願いします、私は棄権させて下さい」
「それは……承知したわ。具合、大丈夫?」
「はい、寝たら治ります」
「そう……あっ」
「遠山ぁ!」
多分、今駆け上がって来たらしい瀨戸先輩の声。
「遠山が引っ込まんならん理由なんか無いやろ。察した一部がお通夜になってしもうとるがな」
ああ、ああ、皆さん私なんか無視して下さい……
「ナッツが責任感じてヘコンでんねん。あいつの為にだけでも顔出したってくれへんか」
果々子は扉の前で絞るような声で答えた。
「先輩に責任なんか何にも無いです。準備している最中とても楽しかったから感謝しています。
でも私、今すごい酷い顔をしているんです。こんな顔、皆にも先輩にも見られたくない。お願いだから、私はいない物として行事を始めて下さい」
「……分かった」
タマ先輩の声。
「遠山さんは風邪をこじらせたって皆に言っておくね」
「すみません……」
「行くよ、ほら、れもん」
「遠山、そしたらいつでもええから、私ら三人に遠山のカレー食べさせてな、いつでもええから」
「はい……」
扉の向こうに去る音。
果々子は泣き出しそうな口を両手で覆っていた。
でも今食堂に行って皆の気の毒そうな視線を浴びるなんて、耐えられない。
またベッドに倒れ込む。
一階の喧騒が床越しに聞こえる。
寝よう、寝てしまおう。寝たら明日の静かな朝だ。
コンコンコン
またノック? 頼むからもう見捨てて欲しい……
コンコンコン
音の方向が扉じゃない?
――え!!?
果々子はガバリと身を起こした。
窓! 窓の外、外灯に照らされた人影!
一瞬戦慄した果々子だったが、すぐに肩を下ろした。
「風輪さん……」
「木登りは得意やねん。あっちのいい具合に枝の張り出した大きい木から、自転車置き場の屋根に移って軒伝いに来た」
開けられた窓から身軽く侵入したみかんは、のほほんと言った。
「頼むからそんな危ない事しないで。踏み抜いたらどうするの」
「だってドアからは入れてくれんでしょ」
「…………」
下の階の賑わいが聞こえる。
「風輪さん、楽しみにしていたのに」
「楽しみやったけど、いま遠山さんを独りにしとくん、嫌やってん」
床に座って向かい合って、みかんは果々子の両手を握って来た。
暖かい手だ。新しい擦り傷……木登りで作ったのか。
こんな手に握って貰って、自分のやる事は挫けて部屋で突っ伏しているだけでいいのだろうか……




