Episode22
そんなこんなでー
目的であったカバンと諸々のアイテム調達を終えた私達は次なる目的地、ギルド商会へと移動をした。
物々しい佇まいの建物に圧巻されつつもユージーンが扉を開くと、いかにも冒険者ですと言わんばかりの重装備の屈強な男達で溢れていた。
見渡す限りパワー系でゴリ押すようなファイター達ばかりでRPGによくいるような賢そうな僧侶や可愛らしい魔法使いなどは微塵にもおらずに何か悟ってしまった私がいた。
むしろ目の前にいるこの男が勇者で間違いないのだろうか、とも思える。
そんな私の生ぬるい視線を知ってか知らずか受付の方を指差して私を促すユージーンに頷いてそちらの方へ歩き出した。
「こんにちは。こちらはギルド商会受付場です。なんのご用でしょうか?」
「この子の登録をしたいのですが」
そう言って私の背中を押す。私はそのままカウンター挟んで受付の人の前に立った。
受付の女の人は私を一瞥して頷き、手元から紙を1枚取り出して目の前に丁寧に置いた。
「かしこまりました。ではこちらに基本情報をご記入頂いてから、所持属性のテストを行いますのでまずはこちらにお願いいたします」
『えっと…』
プロフィールと言った項目を書き連ねて簡単な質問に答えていく。
何を書いたらいいところはユージーンが教えてくれて、ささっと記入が終わった。
その様子を見て受付の人は紙を回収してくるくると巻くとぽんっと1枚のカードに変えた。
まるで手品のような光景に思わず感嘆出てしまい受付の女の人はくすっと笑った。
「では、こちらのカードがナナミ様のギルドカードとなります。身分証にもなるので必ず持ち歩くようにお願いします。では、次に所持属性のテストを行いますのでこちらの魔力石に魔力を込めてもらってよろしいでしょうか」
『魔力を込める?』
魔法などこの人生使ったことがない私は戸惑ってユージーンを見た。
ユージーンも逆に魔法を使ったことがない人などいないこの世界の住人なのでどうしたものか分からずにいる。
「とりあえず、石を握って体を巡る魔力をその石に込めるイメージでやってみたらいい」
『う、うーん…分かった。えーっと…石に込める…』
言われたとおりに血液のように巡る魔力を想像してそれが腕から手に、手から石に…という感じで込めてみる。
「はい。では確認しますね」
ある程度込められたであろう時間で受付の人に声をかけられ持っていた石を渡す。
が、その石を見て困った顔をしている。
「こちらの石には魔力がありません」
「それって…ナナミには魔力がないということですか?」
「そうかもしれませんし、魔力を放出する術を知らないだけなのか…識別ができるものを呼んでくるのでしばらくお待ちください」
そう言って席を立ったのを見てふぅ、と脱力する私をユージーンは優しく支えてくれた。
「お疲れ。って別に疲れるようなことでもないんだがな」
『なーんかこういう役所のような作業って方に力入っちゃうんだよね』
「ヤクショ?ナナミの世界の言葉か。ナナミには魔力がないのかもしれないな」
『魔法なんか私の世界では架空のものよ』
そんな会話をしていると、先程の受付の人がとある男性を引き連れて戻ってきた。
ぺこりと頭を下げられてこちらも頭を下げる。
「お待たせいたしました。こちらが識別の魔法を扱えるシリウスさんです」
「初めまして。魔法使いのシリウスです。魔力の測定ができなかったと伺っています」
『な、七海です。魔法を今まで使ったことがなくて』
「…魔法を使ったことがない…なるほど、では識別を使ってナナミ様の魔力を視ようと思いますがよろいしいでしょうか?」
『は、はい!お願いします』
「…それでは、【識別】」
シリウスと名乗った男の人私を見て魔法を唱えると上から下まで私を視る。
多分一瞬のことなのだろうが私には長く感じ、しばらくそうしているとシリウスが話しだした。
「…ふむ、ナナミ様には魔力がないようですね」
「魔力がないなんてことがあるんですか?」
シリウスの言葉にユージーンが驚いたように声をかける。
ユージーンと違って至って冷静にシリウスは言葉を続ける。
「稀なことですが、人間にもイレギュラーがあります。魔力がない人間もいるでしょう。ですが、今後なにかがきっかけで魔力が発現する可能性もあります」
『イレギュラー…』
なんだか引っかかる言葉ではあるが、別の世界から来た以上、そういう扱いをされても仕方のないことなのかもしれないと飲み込むことにした。
そのあとは私は魔力なしということで登録され、ギルド商会を後にした。
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