18.三角関係の定義とは。
大っっ変お待たせ致しました━━━っっ!!(スライディング土下座)( ノ;_ _)ノ
「ええと……ユウキ・サダツキです。とりあえず聖女ってことになっています。よろしく」
挨拶は返ってこない。鋭い眼光は返された。何で初対面でこんな睨まれなきゃならん!
「綺麗所を並べて、王にでもなったつもりか」
うん? なんだって? 綺麗所? それって侍女のお姉さん方のことか? まあ確かに美人揃いだとは思うが、彼女たちはきっちりお仕事をこなしているだけだぞ。それは彼女たちに失礼じゃないか。
「魔導師長に近衛騎士。はっ! 美しい男たちを侍らせて、いいご身分なことだ」
そっちかよ! 全力でツッコミ入れるわ!
「宰相子息殿。それは無礼が過ぎるというもの。ユウキ様は聖女であられます。身分で言えば九つの国々の王に比肩する御方。本来ならば貴方などが言葉を交わしてよい方ではありませんよ」
「これはこれは、魔導師長殿。失礼致しました。そうでしたね、こんななりでも聖女の称号を持っておられたのでした」
「なんと不敬な」
「聖女殿は部屋に籠りっきりで、見目麗しい男たちを侍らせていると専らの噂ですよ?」
「ほう。それはどこで囁かれているお話でしょう? 私は陛下の御下命によりユウキ様の教育を、そちらの近衛騎士でいらっしゃるネイト殿も同じく陛下の御下命を受け、ユウキ様の専属護衛としてお側に控えておりますが、それを侍らせていると侮辱なさるのはどこのどなたです?」
「それは……」
「そもそも聖女様に対して何て言い種でしょう。陛下のお決めになったことに、不敬にも異を唱えるとは」
旗色が悪くなったことで、クラウド・ウォルドロンはセオからぷいっと視線を逸らした。おい、論破されてんぞ。絡んで来たならもうちょっと粘れ。
「聖女と言うが、本当にそうなのですか。召喚されて以来部屋に籠り、聖女としての役目を果たそうともしていないではないですか」
「クラウド! 先程から何を!」
「ああ、王子。別にいいよ。間違っちゃいないから」
「ユウキ様」
「セオもいいから。ウォルドロンさん?の言うように、確かに俺は召喚されてから一度も聖女らしいことはやっていない。まあ言い訳するなら下地が出来ていないから動きようがないってことになるけど、アウストレイルの現象を考えれば怠慢だと言われても仕方ないかもしれない」
そうは言っても、召喚という名のかどわかしに遭ってまだ三日目だ。そんな右も左もわからない異世界の人間に、拉致されて早々馬車馬のように働けとはあまりにも酷ってもんだろう。
「でもそれは、生まれたての赤ん坊に今すぐ立って歩けと言っているようなものだ。さらに読み書きや各種勉学の修得、世界情勢の把握なんてものも、生まれたばかりの赤ん坊に出来て当然だと突きつけているわけだ。俺は凡人だから、そんなものは当然無理だと断言できるが、きっとそこのウォルドロンさん?は出来ていたんだろう。じゃなきゃそんな理不尽な要求なんて出来ないはずだ。自分は出来たから、自信をもってそう言っているに違いないんだから。そうだよな、クラウド・ウォルドロンさん? 俺のいた世界では、そういうのを言いがかりって言うんだけど?」
クラウド・ウォルドロンが忌々しげに睨んできた。反論したきゃすればいい。
「……っ。こんなやつに我が妹が劣るなどと、許せるものかっ」
「ああ、やっと本題に入ったな。お宅の妹さん? 王子の婚約者だっけ。それは王子と妹さんの問題だろ。俺に責任転嫁するな」
「貴様が現れたせいで、我が最愛の妹が毎日涙に暮れているのだ!」
「俺は無理やり召喚された身だ。会ったこともないあんたの妹の事情とやらのどこに関与してるって言うんだ」
「貴様が殿下のお心を乱しているのが原因だろうが!」
「あのなぁ。俺が女ならそれも理屈が通ってるよ。でも俺は男なわけ。俺と王子があんたの妹を取り合ってるって構図ならまだしも、俺とあんたの妹と王子を巡る三角関係なんて成立するわけがないだろうが」
そもそもの根底からしておかしいと気づけ。
「成立するから言っている! 殿下は貴様が現れてから、妹にまったく見向きもしなくなった! 貴様が何かしたのだろう!」
「いや寧ろ王子の被害に遭ってるのは俺なんだが」
「ふざけるな!」
「ちょっと冷静になれよ。王子の前で妹さんのことを喚き散らせば、その分妹さんの株が暴落するってわからないのか? 男女のいざこざに第三者が関与すれば余計に拗れるぞ」
「それも全て貴様のせいだろう!」
「はぁ、平行線だな。王子。そいつ連れて出てってくれ」
「貴様……っ!」
「色恋沙汰はそっちで勝手にやってくれ。俺を巻き込むな。あと、頭が冷えるまではここへは立ち入り禁止。命令だ。ネイト、つまみ出せ」
はっ、と踵を揃えて一礼したネイトが、クラウド・ウォルドロンを部屋の外へと締め出した。残された王子が眉尻を下げてこちらを見る。
「ユウキ。クラウドが無礼を働いた。謝罪する」
「謝罪を受け入れる。でもあの状態では二度と連れてくるな」
「ああ。あんな暴言を吐くならば、もう会わせたりしない。配慮に欠けていた。本当にすまなかった」
「確かに配慮に欠けていたな。俺に謝罪する前に、婚約者にフォロー入れるべきだろう。あんたが婚約者を大事にしていれば、起こらなかった騒動だ」
「むう……」
むう、じゃねぇよ。何だその不服そうな顔は。全部お前の不甲斐なさが招いた結果だろうが。
「婚約者とちゃんと向き合って話し合え。綺麗な花を育てるには、細やかな気配りと世話が必要なんだぞ。いい土と水がなければ花は育たない。それは王子にしかできないことだ」
「……………ユウキ」
なんて偉そうに説教する権利はないけどな。お袋の受け売りだし。
すると、王子が神妙な面持ちで言った。
「私は園芸などやっていないのだが」
「園芸の話じゃねえよ!!」
置換できねえのか、この馬鹿王子!!
お兄ちゃん、おにおこの巻。