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虹徹剣羽 ゼンライガー  作者: 雷然
虹の章
4/33

第4羽 いつか見た人のように

「外装――覚醒(アクティブ)!!」

 ヒザやヒジといった関節部と手足に、金属質の装甲が生えていた。首元からは純白のマフラーがなびき、肥大化した髪飾りはヘルメットに生まれ変わって髪をおおう、最後に下りてきたバイザーがしゃきんっという音をたてて、彼女の()()が整った。

 その姿は、彼女が好きだった変身ヒーローに似ていた。


「キシャァァァァァアアアアアア」

 怪物が姿を現す。白と黒のモザイクアートじみた異形の人型。両腕は地面まで、鋭利に伸びていて、片方の腕は鎧ごと騎士を貫いていた。

「キシュアァ!」

 百人が一斉に歯軋りをしたような奇声をあげて、腕をふり払う。その仕草は次の玩具を手に取るために、今持っているものを捨てる幼い子供のようだ。


 騎士が無造作に捨てられた音が合図だったかのように、逃げ遅れた人々が、一斉にその場を離れる。尻餅をついていた奴もおくれはしたが、しっかり自力で走っていった。熊狩りで鍛えられた俊足(しゅんそく)だった。


 アヤカシ、地方によっては物の怪などとも呼ばれる、おとぎ話ではなく、実在する化け物がそこに居た。いつからいたのか、歴史に興味のないライガーは詳しくは知らないが、少なくとも自分が生まれるよりずっと前からいたことだけは間違いない。なにせ祖父、タイガー・虎徹の死因として聞かされている。

 そしてアヤカシの跳梁(ちょうりょう)を許さなかった、ときの朝廷によって講じられた対抗策のうち、もっとも成果をあげたのが目の前の存在。便宜上“勇者”と呼ばれ、大名という役職を与えられた者達だ。

 首のない騎士に一瞥(いちべつ)したバニラが、居合いの達人のような速さでアヤカシに近づいた。そして勢いそのままに、超硬合金の拳をくり出す。

 交差させた腕で拳を防いだアヤカシ、その大きく裂けた口がニィっと薄く嗤った(わらった)


「た、助けなきゃ」

 発した言葉は意識よりも早い。おくれて意味を自覚すると身震いする。しかし意思は言葉に従った。まず武器が必要だ、いちど家に戻って準備をしなければならない。

 混乱から抜けきっていない頭でそう考えたライガーは、アヤカシとバニラの攻防を気にしながらも家に戻ろうとした。


「どうするつもりだ?」

「お前、まだいたのか?」

「どうするのかと聞いている」

「どけ」

 まだ残っていたガーベラを、避けるようにして家に戻る。ガーベラは立ちふさがるようなことはしなかったが、道を空けることもしなかった。


 床の間に無造作に放置した大剣、その柄に触れながら横に鎮座する鎧を見る。

 年代物の武者鎧、名刀虎徹を失った当家における家宝。これを()けるか否か迷う。アヤカシと対峙するなら、少しでも身を守りたい。されど、ただでさえ剣は重い、鎧でこれ以上重くなったら攻撃が当たるかどうか、いや、そんなことじゃない、そもそも鎧に意味があるのか? この甲冑(かっちゅう)は名工の作、刀や矢ならば防げよう。しかし騎士の鎧は、やすやすと貫かれていたではないか。見るからに硬く、重そうな金属の質感が騎士鎧にはあった。普通の戦士ならば鎧の隙間、あるいは薄い箇所を狙って攻略するのが定石。それをあの化け物は腹の真ん中を貫いていたではないか。

 ぬらりと染まったアヤカシの腕。考えたくないこと、意識したくなかった赤色がちらつく。やけにちらつく。


「早く戻らねば」

 己の言葉はやけに遠く、渇いて聞こえる。まるで幽霊になって遠くから自分を見ているような錯覚。そして近い未来におとずれるであろう死の予感――。


「ざけんな」

 灼熱の感情が沸騰した。黒く、赤く、白い怒りに、甲冑の仮面、そこに二つ開いた空洞を見る。なにもかもを吸い込むような空洞を――。

 ――結局鎧は着けなかった。

 重い剣だけを担いで修羅場に戻る。肩に食い込む重さから解放される為にも一撃をお見舞いしてやらねば。ライガーは己の思考を極力単純化しようとした。そして見た。

 

「うりゃああああああァッ!」

 攻めているのはバニラだ、一方的といってもいい。連続で繰り出される拳や蹴りをアヤカシが防御している。比喩ではなく火花を散らしながらの猛攻。早いだけではない、放つ一撃一撃が生命を絶命せしめる威があった。大気が()ぜていた。


 騒ぎを聞いて駆けつけたのであろう、ガーベラのそばに、よく知る少女が居た。こちらに気づき寄ってくる。


「お兄様、あれと闘うのですか?」

 


次回予告


剣の進化、我等の真価

俺達には、俺達のやりかたがある。

光を放ち、影を払う。

四人の男女が胸を打つ。敵を撃つ。アヤカシを討つ。


第5羽「兄様と兄貴と私とアイツ」


稲妻が、大地から空を目指す。

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