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虹徹剣羽 ゼンライガー  作者: 雷然
虹の章
30/33

第30羽 塀の上の五羽

 フクオカはガーベラと合流する為、一度里に帰った。フクオカとガーベラの合流を待たずに、ライガーは単身朝廷宮内へと乗り込むことにした。

 単独行動の了承を得た訳ではないが、フクオカが一人で里帰りすることを承知したということは、黙して認めたといっていいだろう。

 

 ガーベラとの合流は半ば方便であるし、当初からライガーは単身乗り込んで事態を収束させるつもりでいた。そのことがわからぬフクオカではない。


 帰ってきた都のメインストリート。大きな通りの左右には店が立ち並び、普段とかわらぬ賑わいをみせている。バニラの家にもよらず、来た足で直接朝廷へと向かう。

 ライガーは、これから死地へ向かおうという己と世間との隔絶を感じていた。また、日常というものが薄氷の上に立っているように感じながら、朝廷宮までの通りを真っ直ぐに歩いた。


 変身は体力をひどく使う。今この間にもアヤカシに襲われるのではないかと緊張しながらも変身はせずに歩きつづけ、やがて人気(ひとけ)が減る。

 人の出入りがない時間なのか、巨大な門には柵がされており、門の左右には兵士が配置されてある。当たり前だが人間だ。人間に見える。

 この門の向こう側は朝廷の敷地内、アヤカシの棲家、帝の領域。


 真っ直ぐ歩いてきたライガーは道を曲がり、高い塀にそって歩く。

 何も正面突破する必要はなかった、ライガーは騒ぎは最小に、潜入時間は短いほど良いと考えていた。

 高くて長い塀とともに曲がった道、塀にそって歩いくライガーも曲がった。そこで異変が起きる。


 踏み出す一歩が重い。背中の剣が重くなった気がする。倦怠感というやつか? 肉体の重量が変化したような、あるいは何かが抜け落ちたような感覚。

 気のせいか? いやしかし何かが変だ。ライガーは戸惑う。しかし戸惑ってばかりもいられない。バニラが心配である。

 そう、今は何を捨て置いてもバニラ救出を急ぎたい。


 だから見落とした。だから忘れていた。

 本来の己を。


 

 ライガーは木の上によじ登って、そこから塀を飛び越えようと考えていた。通りの右手は竹林だ。樹木ではないが、ライガーの身体能力ならばやってやれないことはない。


「ここらでいいか」


 あたりに人の気配はない。変身せず塀を越えるために、即席で考えた方法だが妙案だとライガーは思った。


「やるなら早いほうが良い。善は急げだ」


 竹林の一番手前、塀に一番近い竹に手をかける前に、これから越えるべき塀を見る。逆光の中になにかいる。

 塀の一番上に何かがいる。


 人が跳んで届く高さでもなし、不自然極まりなかった。

 逆光と高さで大きさや形がはっきりしないが、気配で察した。


「アヤカシ」


 人型のそれが左右にならんで五体。


 仕方がない。それならばッ!

「変身ッ!」


 背中の大剣を素早く手に持ち、叫ぶ。


「かかかかかかかか」

 塀の上の誰かが笑う。


「かーかっかっか」

 釣られるようにして他の誰かも笑う。

「うふふ」「ははは」「ひひひ」


 笑う。笑う。嗤う。嗤う。哂う。

 五人が、五体が、五羽のアヤカシが笑う。


 ライガーはライガーのまま。

 炎は生じず、熱もなく。


「変ッ身ッ!」


 剣を地面に突き立て再度叫ぶ。叫び声に人が来ることも、アヤカシが集まる可能性も考慮せずに叫ぶ。


「かか」

 笑い声が翼を広げ、舞い降りる。

 影が五つ翼を広げ、舞い降りる。

 ライガーを囲むようにして、五人の鳥人間が着地した。


「くそっ」

 剣を引き抜いたライガーが戦闘態勢となる。かなりの窮地だが、負けていられない。なにせバニラの運命がかかっている。どんな辱めを受けているのか、これまで考えまいとしていたが考えてしまう。考えると腹が煮える。頭も暑くなる。


「さて、ゼンライガー。おっと今はただのライガーと呼んだ方がよろしいかな?」


 落ち着いた声に、冷や水を浴びせられたような気になる。一気に熱を奪われたような。

 ライガーは己で己を鼓舞する。知性のあるアヤカシもいるだろう。そりゃいるだろうさ、しかし相手がなんであれ、障害となるものは(ことごと)く斬る。


「さて、ライガー、我々に交戦の意思はない。我々は五人。そして貴方は単身。そしてなにより貴方はゼンライガーになれない。なりたくてもなれない、そうでしょう?」


「……」


 周囲の気配、襲ってくる様子はない。それでも油断はならないとライガーは後ろや左右を最小限の動きで目視する。話かけてきているのは正面の奴だ。黒くて羽があって、尖った仮面のようなもので頭部が覆われている。

 (カラス)だ。カラスのようだとライガーは思った。

 五人ともそれぞれ色や形が違うが、似たようなものだった。鳥のような人型だった。


「ライガーさん、私達は帝様の使いで来ました。貴方を帝様の元までお連れします」


「なんだと?」


 罠か? 罠だろう。しかしどうする? ライガーは話を聞きながら懸命に考える。こんなときフクオカがいてくれたら、どうするのが最も良いか教えてくれるのに、ガーベラがいたら共に闘えるのに、バニラさえ居てくれたら、無限に力が湧いてくるのに。

 刹那の思考。乱れた思考。


「ああ、こう言えばいいですか? 帝様のそばにはバニラ大名もいますよ。彼女を探していらしたのでしょ?」


 後ろの鳥が言う。白鳥のような白い女が言う。

「ほら、早くぶっそうな剣をしまいなさいよ。連れて行ってやると言ってるの。目的は合致してるの、罠でもなんでもアンタは行くしかない。そうでしょ」


 確かにそうだ。罠だとしても行くしかない。バニラは救出しなければならないし、根源である帝に近づく絶好の機会だ。

 剣を背中のアタッチメントに装着する。いつでも抜けるよう柄は握ったまま。


「かかッ。暴れんなよ?」

 (フクロウ)が左腕をつかむ。


 (トンビ)が無言で右腕を下から支えた。


 鴉がニッっと子供のように邪気のない顔を浮かべ、飛び上がる。


 白鳥とその横の(すずめ)が鴉を追い越して高く飛んだ。雀は白鳥も追い越し逃げるように飛んだ。


 梟と鳶に支えられたライガーはゆっくりと舞い上がり、塀を越えた。


 上昇は続き、高度を増す。このまま落とされるのではないかとライガーは緊張を強めたが、あっけなく、そして穏やかに下降をはじめる。

 

 上空からみる朝廷の敷地は広い。半分ほどは土がむき出しでそうでない場所には建物がある。大小様々な建物だ。建物はどれもとても堅牢そうで、ライガーがこれまで見たどの建築物より立派だった。


「さあつくぜ、現世なら金とれるな」

 梟が言う。


「今はここが現世だろ」

 始めて鳶が口を開いた。


 着陸地点には三羽が先に待っていた。

 いつの間にか、右手は柄から離れていた。


 着いたのは一つの建物の屋上。なにやら古く、他の建物と似てはいるが、()()()()()

 屋上にぽっかりと大穴が開いている。その下の階層も、さらに下の階層もずっと穴が開いている。


「ぼさっとすんな、こっちだ」


 鳥達は羽を折りたたみ、穴のはしっこに備えつけれらている階段を下りてゆく。先頭から鴉、雀、白鳥、鳶、梟。


 この穴はなんなのだ、後から無理やりくっつけたような階段はなんだ、それに何故穴の下まで、翼を使って降りていかない?


 疑問を口にすることもなくライガーは梟の後に続いた。


 穴の開いたフロアの床。何かしらの残骸で散らかっている。

 椅子のようなもの、机のようなものが横倒しになったり折れたり曲がったりして、散乱してある。他にも色々な物があるがライガーには解らなかった。

 階段は長い。いくつものフロアを下りた。

 日の光は足りないが、補うかのように途中のフロアからは人工的な照明装置がついおり、明るさに不自由はない。

 むしろ明るすぎるぐらいだ。フロアの様相は上の階とは変わり、おどろおどろしい、宗教的な模様が壁や床に描かれていたり、人骨と思われる骨が転がっている。


 あるフロアまで下りたとき、鳥達が階段からフロアの方に移動した。穴の底はまだ見えない。階段もまだまだ下まで続いている。


「ついたのか?」


 気が緩んだのだろうか、ライガーは思わずなれなれしい口調で話しかけてしまい、すぐに剣呑な、敵意を向いた顔をつくった。


 振り向いた梟は答えず、代わりに鴉が答える。


「ええ直ぐです、もう直ぐです」


 フロアの広さからすれば控えめな通路を通り、そしてある部屋の扉の前で鴉が止まる。鳥達とライガーも止まる。帝が居るにしては小さな扉、一般家庭の扉と大差ない。


 コンコンコンコン、鴉は扉を叩く。ライガーは知らないがノックという文化だ。


「ライガー様をお連れしました」


「入れ」




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