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虹徹剣羽 ゼンライガー  作者: 雷然
虹の章
21/33

第21羽 ヒスイの里

 森林の木々に穴があく。

 けたたましい音とともに、拳ほどの穴が無数にあいて太い木が無残に倒れる。

 その影には誰もいない。花のような髪飾りをつけた小娘が、隠れていたはずなのだが。


 ガトリングガン。環状(かんじょう)に配置された多数の銃身が回転しながら給弾・装填・発射・排莢を高速で連続的にやってのける。獣を殺すのにも人を殺すにも過剰すぎる暴力の塊。

 

 左腕の肘からさきをカラカラと空転させ、ようやく停止した鋼の暴力を下げた。

 ライガーの剣よりさらに大きなガトリングガンを搭載したアヤカシである。

 野獣の唸り声をあげる瞳に、理性の光はない。

 左腕の暴力は、理の塊でもあるはず、かつては彼もそう思っていた。それが彼の始まりであり憧れだった。


 木の葉を焼きながら落ちてくる炎の剣を、左腕の憧れで受け止めた。

「硬いな」

 蒸気を放出する銃身よりも熱く滾る剣、そのあるじが、語りかけてきた。

 彼に、アヤカシには右の拳で返礼した。

 右腕が切り裂かれ、紫色の血液が、虹が作れそうなぐらいに吹き出る。

「ガアアアアアアアアアァァ!」

 雄叫びと共にガトリングを回す。一秒を待たず給弾からのサイクルが始まり、轟音と弾丸の嵐が解き放たれる。

 右腕という支えを失ったガトリングは手放した消火ホ-スのように暴れまわり、狙いをつけることが出来ない。いくつかの排莢がアヤカシの顔にあたる。炸裂する弾丸が森をはしり、銃の声が湿った大地を揺らした。

 

 ざばんっ、重く鈍い音がして体重が軽くなる。右も左も軽くなってようやくバランスがとれる感じだ。前にもこんなことがあった。そんな気がしていた――。




「ここがそうか?」

「ええ、多分そう」

 ライガー達一向は、山林を越え、人がいなくなるという噂の里に訪れていた。


「にしても寂しいところね」

 フクオカが地元と似通った山里を、どこか見下すように眺めた。

 痩せこけた犬が、さびた鎖を引きちぎることもなく、雑草の生えた元畑に寝そべっている。

 古い家の並びは、つかれた里という印象を見るものに与えた。


 森の恵みも海の恵みも期待できるこの里は、立地を考えれば里を築く条件として上等で、気候もライガー達の里よりずっと過ごしやすい。

 都から遠いことを差し引いても豊かな里になっているはずだ。


「どうライガー? さっきの戦闘で疲れたりしてる?」

「いや、問題ない」

 空母や戦闘機に採用される暴力装置、携行することなぞ当初から考えられていない兵器を、腕から直接生やした異形。変身したライガーは難なく倒してしまった。

 私なら勝てただろうか、そう考えるバニラの顔はどこか浮かない。

 変身はたしかに自分が与えたものではあるのだが、自分の変身(ヴァジネーター)と比べても圧倒的なゼンライガーの性能は頼もしくもあり、驚きもある。


「オーケェそれならまずは面通しにいくわ。あの二つの城に大名がいるはずよ」

 そう言ってバニラは歩き出す。


 

 ――私はどこか焦っているのだろうか。少し早足になっているのに気がついて速度を緩めた。城はもう目の前だ。

 事前の調査では、昔はそれなりに栄えていたということだ。二つの里が力を合わせて協力し、大名も二人、仲の良い様子を民にみせていたそうだ。

 それが今では内政も外政もほったらかしにするもんだから、衰退していく一方らしい。

 確かにこの様子じゃ衰退しているのは事実なのだろう。

 この地の大名は、元クラスメイト。

 今の名前は炎のソアラと水のリラ。クラス公認の浮いたカップル。二人だけの世界をつくってしまう、よくある光景。よくいる二人だ。

 二人一緒に自殺したことを除けば――だが。

 

 結局は大名召喚のせいなのだろう、私。バニラと同じだ。

 こっちに来てからも二人仲良くしているのだろうか、二人の不和が荒廃の原因か、世界に入りすぎたことが原因か。


 荒廃だとか(まつりごと)なんてのは専門外だ。大名でありながら私は自分の領地と領民をもっていない。もしかするとライガーとフクオカちゃんが、領民ということになっているのかもしれないけど。


「突然の来訪をお許し下さい、私は大名のバニラと申します。ここの城主様、大名にお会いしたいのですが」

 


 二つならんで建っている城の片方、門の縁に腰掛ける門番らしき男に声をかける。

 私と後ろの二人の顔をジロジロみた男は、立ち上がって、おしりを軽くはたいてから、親指で隣の城をさした。

「あっちだ。この城は(から)だ」


 城が空とはどうゆうことか、聞いてもよかったが、男は言うべきことは言ったという顔をしているし、どうせすぐ隣だ。あちらで聞けばいいだろう。そう思った私は軽く会釈をして、もう片方へと向かった。

 

 隣の城、つまりは隣の里。隣り合った里には柵すらなく、言われてみなければ二つの里だと気づかない。まるでひとつの里にふたつの城があるみたい。


「ごめんください!」

 城の入り口、こっちは門番すらいない。受付なんて気の効いたものは当然なく、ぽっかりあいた大きな入り口から中の様子が見て取れる。無用心が過ぎる。いったいなんなのよここは。


「どうするんですか?」

「そりゃぁ……」

 フクオカちゃんが聞いてくる。


「ごめんくださーい!」……反応がない。

 後ろの可愛い瞳の、見た目だけは可愛い子に言う。

「仕方ない、ここまで来たらいくしかないでしょ」


「はいはい」「御意に」


 室内は薄暗い。

 使用人、老婆を見つけた時には、とても失礼だが妖怪かと思ったほどだ。

 

「すいません。何度か声をかけたんですけど、どなたもお出にならなくて」


「……え?」


 だめだ。耳が遠いみたい。


「ご老体! 大名はおいでか?」

 ライガーがおばあちゃんの肩をがしっとつかんで、大きな声を出す。


「こ、こちらにございまする」

「……」

 明かりを手にした老婆が、先頭に立って案内してくれる。階段を上っていく足取りが思ったよりしっかりしている。

 というより少し顔を赤らめてはいなかっただろうか。やめておばあさん、貴女にフラグはない。な、ないよね? 大丈夫だよねライガー。


「こちらです」


 通された部屋には、昔と変わらぬリラさんと、おじさんになったソアラ君がいた。


「おや、君は」


 私たちはお辞儀をして、そのあと代表して私が話しをする。

「お久しぶりです。えーと細かく話せば長くなるんですけど……」

「まて、バニラ」

「え? ちょ、何?」


 ライガーにつかまれて引っ張られる。ソアラ君とリラさんに背を向けた格好だ。

「あの女の方、あれは人間か?」

 ライガーが小声で聞いてくる。


「ちょ失礼なこと言わないでよ、脈拍も呼吸も普通よ。人間よ」

「そうか」


 ライガーから解放された私は、たたづまいを直し、端等に用件を伝えようとした。けれどソアラ君が手の平を向けたので止めた。

「お久しぶりですね。バニラさんのご活躍はここ、ヒスイの里でも聞いていますよ。アヤカシ退治ですか?」


「ええ、あの、その。人が居なくなるって噂を聞いて、アヤカシの仕業かなとか考えたものですから、それで見に来ました。道中の森で一体のアヤカシを退治しました。一体だけならいいのですが他にいないとも限りません。つきましては、しばらくの滞在と調査の許可をいただければ……」


 ソアラ君は穏やかな様子だ、昔はもっと荒い、男の子っぽい雰囲気だったが、年月や立場が彼を変えたのかもしれない。リラさんは全てソアラ君に任せてあるのが、こちらに穏やかに微笑んでいる。


「ねぇ。その女の人、アヤカシでしょ」

 せっかくライガーが納得したのに、今度はフクオカちゃんが、指さしてはっきりと相手にも聞こえるように言ってしまった。


「お前、失礼なことを言うな!」

「お兄様だって疑ってたじゃない!」

 二人が言い争いをはじめたものだから、私は慌ててしまった。


 ダンッとソアラ君が床を手で叩いた。

「勝手に調査でもなんでもするが良い。終わったら早く失せよ。また、調査の間は横の城を好きに使え。どうせ誰も住んでいないからな」


「わ、わかりました!」 

 そう言って私は二人を連れて、逃げ出すように城を立ち去った。


「ちょっと。なんであんなこと言ったのよ」

「俺か? 俺は勘だ」

「勘って何よ」


 ため息をついてフクオカちゃんにも聞く。

「いいわ。それでフクオカちゃんは?」


「勘よ、でも論理的に説明しようとすると言語化できないだけで、当てずっぽうで言ってる訳じゃないの。理由はある。ともかくあの女はアヤカシ、それは確定。そういう前提で行動したほうがいい」


「そこは説明がほしい……」


 ため息をついてばかりじゃ仕方ない。まずは聞き込み調査をこころみた。



 調査の結果、一家丸々忽然(こつぜん)と消えるそうだ。

 争った形跡もなく、家財道具も置きっぱなし。何かがおかしかった。


「だからさ、食べたんだよ、あのアヤカシが」

「いやおかしいだろ、肌の色も気配も人間じゃないか、だいたいアヤカシならそばにいるソアラ大名が、真っ先に食われているハズだろ」


 最初はリラさんをアヤカシと思ったライガーも、常識的な判断をして、フクオカちゃんと意見が対立している。


 なんだか私は大事なことを見落としているような。なにかの迷路にはまりこんだような気がしていた。

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