第21羽 ヒスイの里
森林の木々に穴があく。
けたたましい音とともに、拳ほどの穴が無数にあいて太い木が無残に倒れる。
その影には誰もいない。花のような髪飾りをつけた小娘が、隠れていたはずなのだが。
ガトリングガン。環状に配置された多数の銃身が回転しながら給弾・装填・発射・排莢を高速で連続的にやってのける。獣を殺すのにも人を殺すにも過剰すぎる暴力の塊。
左腕の肘からさきをカラカラと空転させ、ようやく停止した鋼の暴力を下げた。
ライガーの剣よりさらに大きなガトリングガンを搭載したアヤカシである。
野獣の唸り声をあげる瞳に、理性の光はない。
左腕の暴力は、理の塊でもあるはず、かつては彼もそう思っていた。それが彼の始まりであり憧れだった。
木の葉を焼きながら落ちてくる炎の剣を、左腕の憧れで受け止めた。
「硬いな」
蒸気を放出する銃身よりも熱く滾る剣、そのあるじが、語りかけてきた。
彼に、アヤカシには右の拳で返礼した。
右腕が切り裂かれ、紫色の血液が、虹が作れそうなぐらいに吹き出る。
「ガアアアアアアアアアァァ!」
雄叫びと共にガトリングを回す。一秒を待たず給弾からのサイクルが始まり、轟音と弾丸の嵐が解き放たれる。
右腕という支えを失ったガトリングは手放した消火ホ-スのように暴れまわり、狙いをつけることが出来ない。いくつかの排莢がアヤカシの顔にあたる。炸裂する弾丸が森をはしり、銃の声が湿った大地を揺らした。
ざばんっ、重く鈍い音がして体重が軽くなる。右も左も軽くなってようやくバランスがとれる感じだ。前にもこんなことがあった。そんな気がしていた――。
「ここがそうか?」
「ええ、多分そう」
ライガー達一向は、山林を越え、人がいなくなるという噂の里に訪れていた。
「にしても寂しいところね」
フクオカが地元と似通った山里を、どこか見下すように眺めた。
痩せこけた犬が、さびた鎖を引きちぎることもなく、雑草の生えた元畑に寝そべっている。
古い家の並びは、つかれた里という印象を見るものに与えた。
森の恵みも海の恵みも期待できるこの里は、立地を考えれば里を築く条件として上等で、気候もライガー達の里よりずっと過ごしやすい。
都から遠いことを差し引いても豊かな里になっているはずだ。
「どうライガー? さっきの戦闘で疲れたりしてる?」
「いや、問題ない」
空母や戦闘機に採用される暴力装置、携行することなぞ当初から考えられていない兵器を、腕から直接生やした異形。変身したライガーは難なく倒してしまった。
私なら勝てただろうか、そう考えるバニラの顔はどこか浮かない。
変身はたしかに自分が与えたものではあるのだが、自分の変身と比べても圧倒的なゼンライガーの性能は頼もしくもあり、驚きもある。
「オーケェそれならまずは面通しにいくわ。あの二つの城に大名がいるはずよ」
そう言ってバニラは歩き出す。
――私はどこか焦っているのだろうか。少し早足になっているのに気がついて速度を緩めた。城はもう目の前だ。
事前の調査では、昔はそれなりに栄えていたということだ。二つの里が力を合わせて協力し、大名も二人、仲の良い様子を民にみせていたそうだ。
それが今では内政も外政もほったらかしにするもんだから、衰退していく一方らしい。
確かにこの様子じゃ衰退しているのは事実なのだろう。
この地の大名は、元クラスメイト。
今の名前は炎のソアラと水のリラ。クラス公認の浮いたカップル。二人だけの世界をつくってしまう、よくある光景。よくいる二人だ。
二人一緒に自殺したことを除けば――だが。
結局は大名召喚のせいなのだろう、私。バニラと同じだ。
こっちに来てからも二人仲良くしているのだろうか、二人の不和が荒廃の原因か、世界に入りすぎたことが原因か。
荒廃だとか政なんてのは専門外だ。大名でありながら私は自分の領地と領民をもっていない。もしかするとライガーとフクオカちゃんが、領民ということになっているのかもしれないけど。
「突然の来訪をお許し下さい、私は大名のバニラと申します。ここの城主様、大名にお会いしたいのですが」
二つならんで建っている城の片方、門の縁に腰掛ける門番らしき男に声をかける。
私と後ろの二人の顔をジロジロみた男は、立ち上がって、おしりを軽くはたいてから、親指で隣の城をさした。
「あっちだ。この城は空だ」
城が空とはどうゆうことか、聞いてもよかったが、男は言うべきことは言ったという顔をしているし、どうせすぐ隣だ。あちらで聞けばいいだろう。そう思った私は軽く会釈をして、もう片方へと向かった。
隣の城、つまりは隣の里。隣り合った里には柵すらなく、言われてみなければ二つの里だと気づかない。まるでひとつの里にふたつの城があるみたい。
「ごめんください!」
城の入り口、こっちは門番すらいない。受付なんて気の効いたものは当然なく、ぽっかりあいた大きな入り口から中の様子が見て取れる。無用心が過ぎる。いったいなんなのよここは。
「どうするんですか?」
「そりゃぁ……」
フクオカちゃんが聞いてくる。
「ごめんくださーい!」……反応がない。
後ろの可愛い瞳の、見た目だけは可愛い子に言う。
「仕方ない、ここまで来たらいくしかないでしょ」
「はいはい」「御意に」
室内は薄暗い。
使用人、老婆を見つけた時には、とても失礼だが妖怪かと思ったほどだ。
「すいません。何度か声をかけたんですけど、どなたもお出にならなくて」
「……え?」
だめだ。耳が遠いみたい。
「ご老体! 大名はおいでか?」
ライガーがおばあちゃんの肩をがしっとつかんで、大きな声を出す。
「こ、こちらにございまする」
「……」
明かりを手にした老婆が、先頭に立って案内してくれる。階段を上っていく足取りが思ったよりしっかりしている。
というより少し顔を赤らめてはいなかっただろうか。やめておばあさん、貴女にフラグはない。な、ないよね? 大丈夫だよねライガー。
「こちらです」
通された部屋には、昔と変わらぬリラさんと、おじさんになったソアラ君がいた。
「おや、君は」
私たちはお辞儀をして、そのあと代表して私が話しをする。
「お久しぶりです。えーと細かく話せば長くなるんですけど……」
「まて、バニラ」
「え? ちょ、何?」
ライガーにつかまれて引っ張られる。ソアラ君とリラさんに背を向けた格好だ。
「あの女の方、あれは人間か?」
ライガーが小声で聞いてくる。
「ちょ失礼なこと言わないでよ、脈拍も呼吸も普通よ。人間よ」
「そうか」
ライガーから解放された私は、たたづまいを直し、端等に用件を伝えようとした。けれどソアラ君が手の平を向けたので止めた。
「お久しぶりですね。バニラさんのご活躍はここ、ヒスイの里でも聞いていますよ。アヤカシ退治ですか?」
「ええ、あの、その。人が居なくなるって噂を聞いて、アヤカシの仕業かなとか考えたものですから、それで見に来ました。道中の森で一体のアヤカシを退治しました。一体だけならいいのですが他にいないとも限りません。つきましては、しばらくの滞在と調査の許可をいただければ……」
ソアラ君は穏やかな様子だ、昔はもっと荒い、男の子っぽい雰囲気だったが、年月や立場が彼を変えたのかもしれない。リラさんは全てソアラ君に任せてあるのが、こちらに穏やかに微笑んでいる。
「ねぇ。その女の人、アヤカシでしょ」
せっかくライガーが納得したのに、今度はフクオカちゃんが、指さしてはっきりと相手にも聞こえるように言ってしまった。
「お前、失礼なことを言うな!」
「お兄様だって疑ってたじゃない!」
二人が言い争いをはじめたものだから、私は慌ててしまった。
ダンッとソアラ君が床を手で叩いた。
「勝手に調査でもなんでもするが良い。終わったら早く失せよ。また、調査の間は横の城を好きに使え。どうせ誰も住んでいないからな」
「わ、わかりました!」
そう言って私は二人を連れて、逃げ出すように城を立ち去った。
「ちょっと。なんであんなこと言ったのよ」
「俺か? 俺は勘だ」
「勘って何よ」
ため息をついてフクオカちゃんにも聞く。
「いいわ。それでフクオカちゃんは?」
「勘よ、でも論理的に説明しようとすると言語化できないだけで、当てずっぽうで言ってる訳じゃないの。理由はある。ともかくあの女はアヤカシ、それは確定。そういう前提で行動したほうがいい」
「そこは説明がほしい……」
ため息をついてばかりじゃ仕方ない。まずは聞き込み調査をこころみた。
調査の結果、一家丸々忽然と消えるそうだ。
争った形跡もなく、家財道具も置きっぱなし。何かがおかしかった。
「だからさ、食べたんだよ、あのアヤカシが」
「いやおかしいだろ、肌の色も気配も人間じゃないか、だいたいアヤカシならそばにいるソアラ大名が、真っ先に食われているハズだろ」
最初はリラさんをアヤカシと思ったライガーも、常識的な判断をして、フクオカちゃんと意見が対立している。
なんだか私は大事なことを見落としているような。なにかの迷路にはまりこんだような気がしていた。




