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虹徹剣羽 ゼンライガー  作者: 雷然
虹の章
19/33

第19羽 滅殺

 悪い子はパパに叱られる。


 私は悪くない。悪党なんかじゃない。


 だってこんなにイイコだもの。

 

 なのに私を悪く言うこいつが悪い、こいつが悪いんだ。

 コイツをコロスコロス。きっとたくさんほめてくれる。


「ぴぃぎぎぎぎゃぎゃぎゃぎぁぁぁぁぁ!!」

 アヤカシは絶叫した。



「そこね! ライトニングブレード!」


 バニラが右腕部から発生させた、稲妻の刃で切りかかる。

 手応えがない、外したと思った瞬間。


「ぴぎィ!」


 背面からの一撃。

 とっさに背後に切りかかるも、刃は空を切るのみ。


 コイツ、見えないだけじゃなく早い!


 音や気配を頼りに攻撃しても別の角度から攻撃を食らう。

 握り拳なのか、蹴りなのか、鋼鉄のハンマーで殴られるような衝撃。


 刃物のような手刀、一撃で致命傷になるほどではないが、こちらにダメージを与えることを目的に浅く確実に傷をつけられている。

 消えてヒット&アウェイを繰り返す相手にバニラはそんな意図を感じていた。

 

 痛め付けて殺すというより、慎重に立ち回っている。

 姿が見えないのだからもっと大胆にきてもいいようなものなのに……。


「あなた、凄い臆病なのね」


 放った言葉は賞賛であり、打開策を捜してのものだった。返事には期待していない。相手に対して言っているようで、実質独り言であった。


 きゅるきゅるきゅる。

 聞こえてきた音は前方、思ったより離れたい位置に相手はいたようだ。何かを回転させる音がしている。独り言が役にたったのかもしれない。

 

 離れた相手に対して飛び道具を使いたい。姿が見えない相手に対して迂闊に飛び込めないというのもある。しかし周りは民家だ。誰かに当たるかもしれない。


 回転音は今やきーんと甲高いものになり、F1とかジェット機を連想させた。


「ここで決めようって訳ね……上等!」


 バニラは半身になって腕を伸ばす。雷の刃がバチバチと弾ける。出力を上げてリーチを伸ばした。

 限界出力。プラズマが刃の形を維持できず、崩壊する直前をキープする。ほどけた切っ先から、木の枝のようなスパークが飛び散っては風に溶ける。


 腰を落とし、音のする方向を睨みつける。


 ……


 …………



 ――――来る!


 恐るべき速度で圧が迫る。音も置き去りにした不可視の突き。

 ぶつかっていたら、まともに喰らっていたならミンチになっていただろう。

 

 相手の通過位置に重ねるようにして、こちらも刃を突き出したことがバニラを救った。


 眩しく光る超電圧を避けながら通過した、アヤカシの“ドリル”はバニラをミンチにすることなく、プラズマの発生源である右腕部の装甲と、右腕の外側をえぐりとるに留めた。

 戦闘不能であった。


()ぅー」


 右腕を押さえながら背後を振り返る。


 透明なアヤカシから煙が出ている。プラズマで焼かれたアヤカシの右腕がずぶずぶと音を立てて燃えていた。腐った肉が燃えるような嫌な匂い。


「ぱぱぁいいこ。いいごずるよぉぉぉおおお」


 それもすぐに終わった、再生したらしい。驚異的な生命力。生き物としての次元の違いを見せ付けられる。

 

 きゅぃぃん――。

 歯科医のもつドリルを、何万倍にも増幅させたような音。


 バニラはもう一歩も動いていない。立ち止まって呼吸を落ち着けている。


 アヤカシが再び接近する。その圧をバニラは感じていなかった。


「勝ちね」


 つぶやいたバニラがヘルメットを限定解除した。閉じ込められていた髪が風にそよぐ。


 その横を、きゅんと音をしぼませながら腕が通過した。白と黒の斑になった腕だ。二本。右腕と左腕。


 回転しながら吹き飛んだ二本が、それぞれバニラの右と左をくるくると飛んで落ちる。紫色の派手な色の血が、威力の全然ない水鉄砲のように流れて止んだ。


 肘からさきを失ったアヤカシが、乱入者をどこかぼぅと見る。

 だんっという剣士の着地音とともに、腕を斬り飛ばした剣は、大きく重い。

 その剣が羽のように軽く振るわれた。

 

 浅い。

 胸を薄く切り裂いただけ。

 腕を斬り飛ばした初撃はまぐれ当たり(ラッキーパンチ)だ。

 見たとこただの人間。一度逃げて腕のある万全の状態になったら殺そう。そうしよう。


 アヤカシは足を一歩後退させる。そこで自らの異変に気づいた。


 腕の再生が始まらない。それに、やけに熱い。





 …………


「はー熱くなっちゃって」


 路地に置き去りにされた。――そうせざるえなかったのだが。

 フクオカが愚痴る。

 

 少しだけ遡った時間、フクオカはライガーに抱かれていた。そこに恋だとか情欲だとかはない。

 お姫様だっこの体制で抱きしめられてはいるが、ライガーの走る速度が速すぎてしがみ付くのに必死である。他のことを考える余裕が無い。

 その上、ライガーの体温がどんどん熱くなるのだ。バニラがよく使うフライパン。あれで焼かれているんじゃないかという温度になったところで流石に降参した。


「ここでいい。降ろして」


 フクオカを降ろしたライガーは身軽になったとばかりに屋根まで跳んで、一直線に動き出す。放たれた矢のように飛んでいってしまった。




 ――ライガーはバニラの危機を感じていた。

 距離が近くなるほどそれは精度が上がり、彼女が傷つけられ痛めつけられていることを自身のことのように、あるいはそれ以上に感じていた。


 屋根の上から跳んで、バニラの元へ駆けつけようとした時、バニラに大きな殺意が向けられていることを理解した。


 剣をとって振り下ろす。自分の意思と剣の動きに寸分のズレもない。

 達人は自身の手足のように剣を振るうというが、ライガーはむしろ、剣が身体を使っているのではないか? という程の合一を感じていた。


 


 ――アヤカシの腕を斬り飛ばしたライガーは、続いて早い剣さばきで何度もアヤカシを斬りつける。

 アヤカシの再生は始まらない。ライガーは変身をしていない。まるで変身を忘れたかのように何度も斬る。その剣速は次第に早くなり、最初の一撃から淡く光っていた波紋は、火を放ち始めていた。

 剣の軌跡に火の粉が舞う。


 斬りつけるたびに波紋から湧き出す熱が、アヤカシに浸透する。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


 雄叫びをあげて斬り続ける。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 斬って斬って斬って――斬り続ける。

 ライガーの姿に変わりはない。ただつるぎだけが炎のように赤く染まり、火と火の粉を飛ばし続けている。


 滅茶苦茶に怒っていた。

 

 どうしてこんなに怒っているのか解らない。

 きっとバニラを傷つけられたから怒っているのだろう。

 でも、ライガーは意識しない。ひたすら怒りに任せてアヤカシを甚振(いたぶ)っている。


 こんなもんじゃない、もっと。もっと苦しめ。燃えろ。死ね。

 浅く入っていた刃が次第に深く入ってゆく。



 熱でふさがれた傷はほとんど血が出ない。

 それでも体内に蓄積した熱によって内側から肉体が崩壊してゆく、ああ私死ぬな。

 アヤカシは不思議と安らぎを感じていた。


 これでやっと、終わることが出来る。


「ふん!」


 太い刃がアヤカシの身体を貫く。いっそう身体が熱くなるのが解る。



「変身!」


 炎が、吹き上がる。

 怒りの炎でライガーの姿が変わる。血と魂が真っ白に燃えてゆく。

 

 剣から伝わる熱は、いまや血管を焦がしながら全身を駆け巡る。

 アヤカシの肉体が融点を超えて内側から溶け始める。


 ゼンライガーが剣ごとアヤカシを持ち上げる。遠慮はない。これでお終い。


「滅!」


 解き放たれた熱がアヤカシを破裂させる。細切れになった肉片は地に落ちる前に燃え尽き、白くなって砕けて消えた。

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