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高レベルなイケメン? 後

 色々と不満は残るものの、綾音に言われたとおり休憩時間になると小春はぐーぐー鳴るお腹をなだめすかして裏口へと急いだ。本人から「聞き出す」のはあらぬ誤解を受けそうなので、黒須の先生として来ているれれど、黒須が優秀な為裏で暇そうにシルバー磨きなどの軽度の雑用をしていた柏木に聞いて。柏木はなんでそんなことを聞くのかと訝しげな顔をしていたけれど……。小春の方も割と駄目モトで聞いたのに、柏木が知っている事がびっくりだったけれど。

 「聞いてきた?」

 綾音は偉そうに腕を組んで、仁王立ちでふんぞりかえっている。

 「来たけど。もうちょっと人にモノを頼む態度ってあるでしょ?」

 何度か口にした言葉だけど、また言ってみる。今まで言って効果がなかったからあまり期待していないけれど。既に惰性で言っている。

 「その事なら考えてあるから、心配しないで」

 何がだ? 意味が分からない。会話がかみあってないんじゃないかと心配になる。

 「で? いつだって? お誕生日」

 待ちきれないように綾音が聞くので、小春も気を取り直して柏木から得た情報を話し出す。

 「あ。それがね。びっくり。もうすぐだった。っていうか、一週間後の丁度今日。あと、血液型は予想通りA型」

 綾音はこれまた若めの女の子に人気の有名ブランドのロゴの入った光沢あるエナメル地の、濃いピンクの手帳を鞄から取り出して、メモを取りながら言う。

 「来週なんて、びっくりだわ。……占いをしようと思ってただけだったけど、これってもしかして、何かするチャンスかしら?」

 「え? そ、そうかな?」

 バレンタインとかならばともかく、あまり親しくない女の子にいきなり誕生日にプレゼントとか貰ったらどうだろう?

 (私なら、どこから誕生日知ったんだろうって、ちょっと恐くなるかも)

 思ったから、敢えて言う。

 「誕生日だって聞いたんです、おめでとうございますとか、言ってあげるくらいならいいかもね。話しかける切欠になるかも」

 「分かったわ。小春から誕生日だって聞きましたって言って、あげるわ」

 (あれ?)

 なんとなく違和感はしたけれど、どこが違うのかわからなかった。

 それで、と綾音は自分の鞄の中に手を入れて、中から掌に乗る位の大きさの長方形の箱を取り出す。

 「これは、お礼よ」

 「へ!? 何の!?」

 「あんた、いつもしつこく言ってるじゃない。物を頼むなら態度があるって。それってこういう事でしょ? まあ、大したものじゃないけど」

 (大したものじゃないって)

 小春から見たら、中に何が入っていようと大したものだ。だって、その包装リボンにシンプルにお洒落に印刷されたブランドの名前は、綾音の手帳と同じものだったから。ちょっとした小物でもかなり値が張るだろう。

 (っていうか、そういう意味じゃないし!)

 完全に意味を取り違えられている。賄賂を要求していたと思われていたとは。

 「や。いらないよ」

 「え? なんでよ!?」

 綾音は本当に心外だというようにきょとんとした顔をする。

 「私べつに金品を要求したわけじゃないよ? ただ、その偉そうな命令口調やめて欲しかっただけで。知ってる事を教えるのなんて、私には別にそんなに大変な事じゃないんだから」

 小春が言うと、綾音は眉を寄せて不可解だという顔をした。

 「そうなの? でも、折角買ってきたんだし受け取りなさいよ。行きつけの店のだし、大したものじゃないのよ?」

 「だから、その言い方が既に上からだし。っていうか、私は本当にモノなんていらないんだって」

 「変な子。みんなはすごく喜ぶんだからね?……じゃあ、私はどうすればいいのよ?」

 小春は呆れてしまった。綾音の周りにいる「みんな」はどんな人たちなのだろう? 行為の見返りにこんな高級品を喜んで受取れてしまう人たちっていうのは。そして彼女は、そういう人たちに囲まれて大切な言葉も教えられずに育ってきたのだろうか。

 「ありがとって言ってくれればいいんだよ。あと、この前の事、ごめんって謝って欲しいけど。それだけだよ?」

 小春が言うと、綾音は当惑した顔をした。

 「謝った事なんて、私、ないわよ?」

 「じゃあ、ありがとうでいいよ?」

 言ったら、すごく難しい顔をして、綾音は口ごもる。

 「……ありがとう」

 随分と困惑したような口調で言って、それからちょっと首をかしげる。

 「いつも言われる方だから、よくわからないけれど、これでいいのかしら?」

 「まあ、初めてだったら合格かな? でももうちょっと、慣れた方が良いと思うよ」

 小春が言うと、綾音は「生意気ね」とちょっと小春を睨んだ。それでも、以前のようなすごく恐い顔ではなかったのだけど。


 「小春、人生得してるな。世の中、高レベルのイケメンと何人も出会えるなんてそうそうない事だぞ?」

 不幸中の幸いというかなんというか。柏木が手を怪我して黒須が代わりにバイトに入ってくれた為、柏木の時間に空きが出来た。そして、紺野からの命令で茉莉香がフラワーアレンジメント教室で不在の時間帯、花屋の方で小春を手伝う事になった。勿論、手伝うというのは建前上で本当の目的は防犯だ。柏木はまだ被害届けを出していないし、その後高本からの動きはない。万が一小春が一人の時に高本が再び訪れたら危険だというのが理由だ。

 そんな訳で、小春は柏木と二人きりで店番をしていた。

 「清、さりげなく自分も数の中に入れてない?」

 「さりげなくない」

 「そう……」

 否定できないのが悔しいところだ。

 「あと、イツ兄。黒須君」

 「ああ。黒須君の人気すごかったね。お昼、お客さんに色々聞かれて参ったよ」

 「だろうな。この店の昼はやっぱ、そういう人たち多いからな」

 柏木が言うので小春は傍らのその長身を見上げて、ちょっと付け足す。

 「……大丈夫だよ? 清も同じくらいカッコイイから復帰したらみんなの心は戻ってくるよ?」

 「ジェラシー燃やしてねえよ」

 「ホントに?」

 「どうせあんなの、遊び半分に騒いでるだけだしな。まあそれで店の売り上げに繋がるならと思って愛想は良くしてるけど、別に楽しくてやってるわけじゃーよ」

 「そうなの? ちやほやされて喜んでない?」

 「俺、割と昔からだから慣れすぎてうんざりしてるんだ」

 「はいはいご馳走さまでした」

 「……まあ、自慢を除いても実際な。それで、こっちがぞんざいな態度取ると向こうは思ってたのと違ったとか騒いで面倒くさいんだよ。そこら辺はお前と同じかもな。気持ちはわからんでもないよ」

 「……へー」

 「だからまあ、自然と猫被るのを覚えたんだよ。別に家族とか友達とかがホントの俺を知ってればそれでいいしな」

 「あと、私とかね」

 「はあ?」

 「何その顔。私一応彼女じゃないっけ?」

 「ああそういえば」

 「うわあ」

 柏木は軽く小春の頭を叩く。

 「まあ実際、お前とは猫被らないで話せて良かったと思うけどな」

 何故だか、言われたら小春の心は弾んで嬉しくなる。顔がにやけてしまいそうになる。頭に置かれた掌の圧力のせいにして下を向いて顔を隠して、小春もそれに「私も」と同意しようとした。

 「ただいまー! 小春。無事ぃー!?」

 茉莉香の元気な声が聞こえて顔を上げると、にこにこと笑う茉莉香の姿が目の前にあった。

 「いくらカップルといえども、職務中にいちゃつくのは禁止よ?」

 にっこり可愛らしく微笑んで、茉莉香は言う。

 「ははっ。何言ってるんですか? 茉莉香さん。三崎さんの頭に虫が止まってたからとってあげてただけですよ?」

 柏木はころりと態度を変えて、にこやかにそう言った。

 (あ。そういえば、清って茉莉香さんのコト好きなんじゃ……)

 思い出してちらりとその表情を伺ったけど、完璧なポーカーフェイスのそこからは何もうかがい知る事はできなかった。

 突然、何故だか小春の胸の中はもやもやとよくわからない不快感が生じた。

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