第1話 始まり
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全14話完パケ済み。
枯れたススキの原を駆ける二つの影があった。
一つは装束に身を包んだ男。
素早く移動しながら、その両手は何かの印を結び続けている。
その背後には、何やら巨大な影が二つ、男を守る様に付き従っている。
そしてもう一つの影は巨大な狼だ。
こちらもその巨躯に似合わず、驚くほどの速度で……と言いたいところだが、どうも動きが鈍いようだ。
よく見ると、体のあちこちに札のようなものが張り付き、体の動きを阻害している。
装束に身を包んだ男が大声で叫ぶ。
「どうした鳴狼!もはやわしの術を躱すことも出来まい!」
「ほざくな中角!貴様如きの術、避けるまでもないという事よ!」
鳴狼と呼ばれた狼はそう怒鳴り返しながら、自分の状態を確認する。
霊力は残り僅か……。
それどころか毛皮に張り付いた男の術札により、得意の転移術や、霊力を固めて飛ばす術も封じられてしまっている。
思った以上の強敵だ。
所詮人間と侮っていたが、役中角はなかなかどうして恐るべき使い手であった。
最早強敵と認めざるを得なかった。
走りながら鳴狼の動きを観察した中角は、戦況の確実な変化を感じていた。
よし、あの悪名高き鳴狼が弱っている。
いまこそ止めの時だ。奴を倒してこの一帯の村々を開放するのだ。
勝機と見た中角は、使役する鬼たちに命じた──
───役中角は陰陽師である。
かの有名な陰陽師、役小角に中途半端に似ていることから、本人に間違われたり、からかわれたりすることが悩みの種であった。
確かに役小角の親戚であるが、随分と遠い間柄である。
何しろいとこのはとこに当たるのだ。
だが、中角の実力は役小角本人にも勝るとも劣らぬ、確かなものであった。
幼いころから修行に明け暮れて鍛え上げられた術は、倒した相手を式神として使役することさえも可能にしていた。
そして今は二体の鬼を同時に操って戦っているのだ。
その実力を買われて、この辺境の村を襲っていた古い悪霊、「鳴狼」退治を頼まれたのである───。
「行け、紀元前鬼、紀元後鬼よ!鳴狼に止めを刺すのだ!」
「ウォォォム!!」
背後に影のように付き従い、中角の身を守っていた二体の鬼が、同時に鳴狼に襲い掛かる。
(その名前、どうしても気になるんだよあ……。なんで西暦なんだよ!!)
必死の戦いの最中、鳴狼は二体の鬼の攻撃をかろうじて避けながら、心の中で思わず突っ込みを入れた。
最初に中角が召喚した際に式神の名前を呼んだのだが、その時既に引っ掛かりがあった。聞き間違いかと思ったが、どうやら本当に「紀元前鬼、紀元後鬼」という名らしい。
「それはキリスト教由来だろうがっ!!お前は元号にしろよっ!!」
そう突っ込みたかったが、今は目の前の戦いに集中しなくてはならぬ。
余計なことを考えている暇はない。すでに押され気味なのだ。
いや大分後がない所まで来ていた。
「転移術は封じた、最早逃れられはせぬ!
今こそ年貢の納め時ぞ!覚悟せよ鳴狼!」
「……しょうがねえ、使いたくはなかったが、あれを使うか」
紀元前鬼、紀元後鬼が中角から命じられた大きな技を使おうとして、力を溜めている。
ここが最後の機会と見た鳴狼は、迷わず切り札を使うことにした。急いで詠唱を開始する。
「……異界なる地よ、かの地へ我の怨敵を誘いたまえ……
奥義、『鳴狼転生』!!」
鳴狼の詠唱が終わると同時に、鬼たちの放った火の玉が鳴狼を包む。
大爆発が起き、辺りは光に包まれた。




