11.真実は海の藻屑へ
陽気なナンパ男の後ろにいた、明らかに場違いな格好をした男性と目が合う。
何か・・・目が潤んでいるんだけど?
「キシリアナお嬢様・・・」
突然私の昔の名前を口にされギョッとする。何でその名前を知っているんだ!?慌てて止めようとするがいきなり膝をつかれてしまう。
「良かった・・・生きていられて、本当に良かった。」
ヤバイよ、この人、私の手を握りながら泣き始めてしまった。
「ちょっと待て!私はキシリアナじゃない!いきなり変なことを言わないで!」
ここは何としても知らないフリで押し通してやる!
「何をおっしゃいますか!!ずっと貴女様にお仕えして来たのです!間違えるはずなどありません!!」
この男、引き下がらない、せめて空気を読め!!
「勘違いです!人違いです!見間違いです!貴方の目がふし穴です!!」
全力否定する、それでもこの男は引き下がらない。絶対に忘れない、見間違えるなどありえないなど言い張ってきかない。というかコイツは誰なんだ!?
「というか何者です!名前くらい名乗りなさいよ!失礼でしょ!!」
「ベベルです、幼き頃より仕えた従者のベベルです!お忘れですか!!」
ベベル?眉間に指を当てて真剣に過去の記憶を遡る。
思い出した・・・私の元従者じゃないか!
そして私が特に謝らないといけない相手だ、フランシソアに勝てなくて癇癪をおこし、当たり散らかしてしまった相手。
「そのお顔は思い出されたようですね?」
ぐっ、すぐに顔に出てしまうのが私の悪い癖だ。
どうしよう、謝らないといけない相手だけに無碍にできない。
「・・・何か事情がお有りのようですね。なのでお話だけでもお願いできませんか?」
これだけかき回して、いまさら察しても遅いっていうの!!
「お前、本当にお嬢様だったんだ。」
「似合わねー。」
1番聞かれたくないヨヒムとクララに聞かれてしまった。もう隠し通せないなら仕方ない、アイツらには後で腹割って全部話すしかないな。
「本当に、本当に生きていて下さって、本当に、良かった、ううう、」
ベベルの方は私の手を握りったまま再び泣き出してしまうし、どうしよう収拾がつかなくなってきた。
「それで、いまさら何で私を尋ねてきたの?」
落ち着いてきたベベルに尋ねてみる。
「それはこちらのセリフです!生きていたなら生きていたとおっしゃって下さい。」
うん?私は死んでいることになってる?
「大旦那様がキシリアナお嬢様を海外へ逃がそうと動いていたのですが・・・それに感づいた王家か貴族が刺客をよこし、暗殺されて海に捨てられたとの話でした。遺体は見つからなかったのですが、持っていた手荷物が浜に打ち上げられて、その話が真実だと結論付けられて捜索は打ち切りに・・・」
ガタッ!
ヨヒムが明らかに動揺し顔が引き攣っている。
間違いない!お前が私を殺そうとした刺客だったのか!
ふふふ、後でからかってやる。
(性格悪っ!)
うるさい!私の頭の中に話しかけてくるな!
・・・仕方ないフォローしてやるか。
「・・・何者かに襲われて海に突き落とされたのは本当です。ただ、そちらにいる戦士体型のマッチョな女性が私の命を救ってくれました。彼女はその後の生活の世話までしてくれた恩人ですので丁重にお願いしますね。」
まあ、自作自演だね。
「何と!!それは誠ですか!?」
ベベルは立ち上がるとヨヒムに最上位の感謝を示す、明らかに困った顔をしており私のニヤニヤが止まらない。
そしてナンパで陽気な船乗りさんを見てようやく誰かを思い出す。
『ようやく思い出しました、貴方は外国語を教えてくれたビランダ先生のご子息様ですね。屋敷で一緒に遊びましたよね?とても立派になられて全然分かりませんでした。』
シシア言語しか喋れなさそうなので、尋ねてみると嬉しそうに手を握られる。
『はぁい!本当にお久しぶりです!ローヴィン=ビランダの息子のカリム=ビランダですよ!また会うことが出来て本当に嬉しいです!実は私も最初は何処かで見覚えあるなとは思っていたぐらいなのですが、ふと突然思い出したのですぐにベベルに連絡したんです!』
そんなに都合よく何十年前のことを思い出すだろうか?例の詐欺神が間違いなく何かやったのだろうな。
「・・・で?結局キアって何者なの?突然交易センターに押しかけて来て、家まで押しかけて来て、ちゃんと説明してくれないと怒れるんだけど?」
・・・クララが激怒してる。
というかコイツら交易センターに押しかけたのか?
「クララ、ごめん。」
「キアが謝らなくていいでしょ!悪いことしてないんでしょ!?」
いや、全て私の過去が招いたことです・・・もう覚悟を決めるしかない、せめて自分の口で説明しよう。
「私の本当の名前はキシリアナ=ローゼリア、内地にあるローゼリア侯爵家の娘だったの。」
「・・・だった?」
察したのかクララが過去形なのに気がつく。
「私は王太子であらせられたグラン殿下の婚約者だったけど、許されぬ不祥事を起こして婚約を解消され、お家からも追放されたの。」
「「・・・」」
誰も何も言わない、何をしでかしたか聞いても良いか悩んでいる様子だ。
「許されぬ罪とは、現王妃となったはずのフランシソア様への嫉妬心から嫌がらせや、暴行、毒殺未遂。本来なら投獄されるはずでしたが、父や母、祖父の尽力でこうやって生きているんです・・・失望したよね?」
2人共複雑そうな表情をしている、何と言えば良いか分からない様子だ。
「いえ、お嬢様、ここは少々訂正させて下さい。」
ここでベベルから横槍が入る。
「まずフランシソア王妃に対する暴行や毒殺未遂ですが、あの場の証言から自白を強要されていた疑いがあります。大勢の前で押さえつけられ、お嬢様が犯人だと強引に言わせられた。この件は私が調べたので証言に間違いありません。」
確かにあの時、大勢の前で床に押さえつけられて無理やり罪を認めるように言わされた・・・
「それにグラン殿下に公爵家のデルタ様らが用意した状況下で物申せる者がいないという、ある意味密室での出来事なのです。その場でお嬢様が罪を自供した事で一方的に有罪とされてしまいました。だがローゼリア家としてはあまりに不条理ゆえ、証拠を揃えて反攻の準備時間を稼ぐために、お嬢様を一時的に追放処分という名目で海外へ脱出させる手筈でした。」
ヨヒムの顔色が悪くなっていく。
「ただ、我々の方がどうしても後手に回ってしまいました。まさか口封じに暗殺までしてくるとは・・・」
ベベルが本気で悔いている。
・・・真実は海の藻屑として消し去った方が良さそうだ。




