表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死んでないおれの不確定な死亡説  作者: 提灯鮟鱇
第三章 王都への道
40/53

第三十八話 作戦会議

 赤眼魔族。


 それはそれは恐ろしい存在だそうだ。

 魔族とは、この世界に突発的に出現する人型の魔物で、人殺しフリークな存在だというのは以前聞いた事があるが、その魔族にも種類があるとサイババが言っていた。


 それは眼の色で区別される。

 全部で三種類いて、髪の色はすべて雪のような白だが、眼の色で、緑眼りょくがん魔族、赤眼せきがん魔族、金眼じんがん魔族に分けられる。


 緑眼魔族は、戦闘能力は高くないものの、特殊な魔術を使えるそうだ。

 その魔術については、特にわかっていないらしいが、精神に干渉したり、何も無い場所に物質を生成したり出来るらしい。

 戦闘能力が高くないと言っても、Aランクサーチャーくらいの実力は持っている。

 それでも低級魔族らしい。

 おれたちの目標であるグモーザは、これである。


 最も危険とされているのが金眼魔族。

 彼らは単体であっても、百の軍勢を潰せるほどの力を持っている。

 故に上級魔族と呼ばれる。

 武器も扱うが、徒手格闘でもかなり高い戦闘力を誇る。

 以前聞いたカンクエッド王を殺した後に消えたという史上最強の魔族、魔人オリサは金眼魔族だったという。


 そして、今回現れたのが赤眼魔族。

 こいつは真っ赤な眼をしていて、その特徴は魔力による補助をメインとする中近距離戦闘が強い事。

 平均的に能力値が高く、あまり弱点が無い。

 所謂、中級魔族だ。


 そんな奴が、このカンクエッド王国、それもウォーモルに現れれば、慌てふためくのも当然だ。

 アンとタディルが心配だったが、紙面によればウォーモルにそこまで被害はなかったらしい。

 と言っても門番は何人か死んだそうだ。

 魔族襲撃にしては奇跡的な被害の少なさと言えよう。

 しかし、その魔族が別の場所に移動を開始したという事態は、カンクエッド王国全体が緊張状態に陥るのは当たり前の流れか。


 だが、おれはもっと別の事で慄いている。


 夢の出来事だ。


 夢の中で、ヤツはウォーモルに魔術を放った。

 髪の毛は真っ白で、魔族の特徴に該当する。

 目の色まではわからなかったが、おそらく赤だったのだろう。

 多分、夢の中に出てきたアイツだ。

 夢の中でも全て魔術を使っていた。

 赤眼魔族の特長にマッチしている。

 これは確信を持って言い切れる。

 魔族だ。


 それに、あの夢は普通じゃない。

 誰かに見させられてるような、そんな夢だった。

 だから、なおさら何かあるのかと思ってしまう。


 ウォーモルが襲撃を受けたという事は、つまり。

 あれは、正夢だった。


 ということは、だ。

 前回に見た、回廊の夢も正夢の可能性もある。


 だとすると、

 こいつの狙いは、おれだ。

 一回目の夢で、おれを仕留め損ねたと言っていたから間違いない。


 ジャノバスのトップも魔族だ。

 と言うことは、今回現れたヤツは、ジャノバスの一味?

 普通に考えたら、その可能性は高い。


「……おい、シゲル?」


 気がつかないうちに青い顔をしていたおれの顔を、ジェフが覗き込んでいる。


「どうした?」


 そのジェフの声を聞いて、みんながおれに振り返った。

 一回目の夢を見た時点で、誰かに相談してればよかった。

 でもあの時は、別にそんなに気にしていなかった。


「……みんな、実は…………」


 おれは昨日見た夢をみんなに話すことにした。



-------



「なるほど……」


 おれが話し終わって、一番最初に口を開いたのはソルダットだった。

 他のみんなは黙って唸っている。


「信じられないかもしれないけど、おれは正夢だと思うんだ……みんなはどう思う?」


 おれの問いかけに、ジェフが長い溜息を吐きながら顔をあげた。


「シゲルは魂の記憶を持っている。それも大賢者並みの量の記憶だ」


 そこでジェフは一度言葉を切ると、みんながジェフに向き直る。


「それに素質も異様に高い。魔撃や身体強化なんかは、もはや凡人がたどり着けるようなレベルじゃない。しかも、まだ出現して半年も経たないんだぞ? いずれホワイトやソルダットくらいまでに成長する可能性だってある」

「それは確かにあるっすね。明らかに成長のスピードが異常っすよ」

「ああ、それに加えてこんな夢まで見たとすれば、シゲルは僕たちが思っている以上に特殊な存在という事になる。そうは思わないか?」


 ジェフの問いにソルダットが無精髭を撫でながら答えた。


「確かにな。もしかしたら何かの能力を持っていて、シゲル自身、本当に賢者なのかもしれないな」

「そう。僕もそう思うんだ」


 ソルダットとジェフの意見は一致したらしい。

 二人は互いに頷きあうと、おれの方を向く。

 え? なに?

 おれの発言待ち?

 なので確認する。


「えっと、つまりなんだ? おれは賢者だったって事?」

「その可能性が高い」


 ジェフが真面目な顔で頷いた。


 賢者についておさらいしてみよう。

 魂の記憶と人外な能力を持っているヤツが、このゲートワールドで賢者と呼ばれている。

 その能力と言うのは、人により様々らしいが、大賢者クラスになると記憶の保持量も能力も本当に凄まじいらしい。

 おれは詳しくは知らないが。


「賢者ってどんな能力持ってんの?」

「どんなって……色々だ」

「例えば?」

「賢者マイゲルは医療知識と独自の治癒魔法を持っていた。何年か前に出会った賢者は、魂の記憶は少なかったが、空を飛ぶ能力を持っていた」


 と言うことは、おれにも隠れた能力があるって事か。

 それが、この異常な成長に絡んでるのかもしれないと推測されているわけだな。

 今更、寝たら起きない能力なんていうつもりはない。

 なんて考えながらアカネを見たら、プイっと顔を背けられた。

 まだ怒ってんのかよ。


「大賢者に至っては想像を超える能力を持つとされている」


 ジェフの話は続く。


「どんな?」

「いや、それが色んな説があってよくわからないんだ」


 ため息を織り交ぜながら、ジェフは肩をすくめてみせた。

 おれは賢者についてもう少し聞きたかったが、ソルダットがここでパンパンと手を叩いた。


「立ち話も疲れるから、とりあえず宿を取ろう」



-------


 宿に入ったおれたちは、一室に集まり会議を開いていた。

 作戦会議だ。


 とりあえず今回の赤眼魔族はジャノバスの刺客と断定して間違いないだろう。

 何せターゲットがおれだからな。

 しかし、サイババは刺客は盗賊だけって言ってたのに。

 仕方ない。

 いくら嫌でも、来るものは来る。

 ここでサイババをなじっても仕方がない。

 前を向こう。


 今回の会議は、赤眼魔族が襲撃してきた事を想定しての作戦会議だ。


 通常、ポアロイルには敵に合わせた戦い方がある。


 数の多い敵は、セレシアのエレメントで蹴散らす。

 ほとんどの場合は、これでKOだが、討ち損じもある。

 それはホワイトとソルダットによる個別撃破で片付ける。


 小数精鋭の場合は、立回りの大きくなるセレシアは非戦闘員であるジェフとアカネの盾として控え、ホワイトとソルダットで討つ。

 相手の動きはモリスが随時チェックして、相手の嫌なタイミングで、最も嫌な場所にピンポイントで狙撃を行う。

 誰かが負傷した場合、アカネが逐一回復させる。


 大抵の場合はこんな感じで片付くらしい。

 しかし、今回の相手は赤眼魔族である。

 非常事態だ。

 敵は一体とはいえ、野盗を相手にしているのとはわけが違う。


 過去に魔族と対峙した事があるのは、この中でソルダットとホワイトだけだ。

 ソルダットは一対一で戦って、何とか勝ったそうだが、ソルダットがギリギリだったということは、かなりタフな戦いだったはずだ。

 その時の魔族は金眼魔族だったそうだ。

 今回は赤眼魔族だから、一般的な考えで見れば金眼魔族よりは弱いはず。

 それに今回はセレシアもホワイトもいる。

 前回より格下、しかも相手は一人。

 何とかなるだろう。

 ちなみにホワイトは、金眼魔族に半殺しにされて三日三晩生死の境を彷徨ったらしい。


 だからおれたちは慎重に作戦を練らなきゃいけない。

 と言っても、結局は総合力の戦いだ。

 正々堂々とやる必要などないし、勝つためには確実に相手を殺す事を考えたほうがいい。

 卑怯でも何でもいいんだ。

 でなければこっちが殺される。


 奴の移動速度から考えて、恐らく数日の内にこちらに到着するだろう。

 限られた時間の中で、しっかりと準備をしなくては。

 約一時間の話し合いの末、作戦が決まった。


 まずはモリスが敵の接近を察知した時点で、各自が自分の得物を持ち外に出る。

 街の被害も最小限にしたいし、狭い路地なんかでは上手く連携など取れないからな。

 回復役であるアカネにも出てもらうことになった。

 一応、ジェフが気配を消す魔道具「朧月」を持ってアカネと二人で戦場の近くに潜む。


 モリスの主導により移動式長距離砲を発射。

 これは鉄球の中に大量の爆薬を詰めた弾を撃ち出す物だ。

 地球で言う所の「てつはう」だ。

 チンギスハンのアレである。

 これは後から街の騎士団から借りてくる事にした。

 弾は買い取りになるだろうが、まあ仕方がない。

 コイツら金持ってるらしいし。

 おれもいずれランクをあげて、いっぱい稼いでポアロイル財政に貢献しよう。


 勿論、てつはうは牽制用だ。

 こんなものでは仕留められないのはわかっている。

 だが、高速で接近してくる相手を牽制によってディレイさせる事は非常に重要だ。

 これによって相手の速度が落ちれば次の攻撃が当てやすくなる。


 動きが鈍り、なおかつ肉眼で確認できる距離まで来たら、ホワイトの鉄槍の投擲で攻撃。

 これは直撃すれば結構なダメージが期待できる。

 何せその鉄槍は投げることを前提に作ったもので、重量は80キロほどもある。

 それがホワイトの全力によって投げられるのだ。

 だが、これも恐らくは躱されるかいなされるだろう。


 そうすると敵はおれたちの陣の中に突入してくる。

 そしたら直接迎え撃つことになる。おれたちは非戦闘員の二人を除き、後ろからモリス、おれ、ソルダット、セレシア、最前列にホワイトと言う縦の陣形を取る。

 まず敵が接近してきたらホワイトの前に岩の手を出して、敵の足を止める。

 これは勿論足止めとしての効果もあるが、相手の魔法をレジストする為にも、ギリギリのタイミングで出さなければならない。


 そこを狙うのは我らがポアロイルの切り込み隊長、ホワイトだ。

 武器は槍を使う。

 そもそも彼の得物は本来、槍なのだ。

 彼のリーチの長い槍によって、岩の手の隙間から先手を突く。

 もしも強行突破されそうになっても、長物のリーチで背後から刺す。


 それでも止まらなければ、二番手のセレシアがエレメントの巨大拳骨を落とす。

 これはかなりの高威力なので回避すると見られる。

 回避した所をモリスがヘビーボウガンで狙い撃ち、体制を崩したところをソルダットの暴れ太刀を叩きつける。

 先手は打たせず、一気に畳み込む。


 スムーズに行けば完璧だ。

 おれの出る幕はない。


 だが実戦において、これら一連の流れが上手くいく保証はない。

 なので第二第三のプランも練り、緊急時も想定して、おれたちパーティーが発揮できる最善の迎撃プランを話し合った。

 ただ、全てのプランで、おれの出番はほぼ皆無だった。

 今回、おれの役割は将棋の駒で例えるなら王将だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ