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死んでないおれの不確定な死亡説  作者: 提灯鮟鱇
第三章 王都への道
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第三十七話 号外

 おれは夢を見た。

 また、あの妙な白髪の男が出てくる夢だ。


 そいつは荒野を物凄い速度で走っていた。

 見た限り、サヤバーン地方の荒野のようだ。

 おれの視点はそいつを上空から追っている感じだった。

 こいつ、こんなに急いでどこに向かっているんだ?


 と、そいつの前方に街が見えてきた。

 割と大きめな赤レンガの城壁に囲まれた街。

 その途中には大きな木が点々と生えている。

 異世界情緒を感じる街の全貌。

 見間違うはずがない。


 おれが異世界で初めて訪れた街。

 ウォーモルだ。


 この男は、城壁を前にして立ち止まった。


「ふむ、目の塔・・・はここを指していたな……」


 独り言をポツリと呟いた。

 おれには何のことだかサッパリわからない。

 だけどこいつは、どこか納得したような顔をしている。

 そして、そいつは躊躇うこと無く、片手に魔力を込め……


 城壁を爆砕した。


 それから、おれの視界はブラックアウトした。


 なんだか気持ち悪い。

 強制的に見させられてるイメージだったので、余計に気持ちが悪い。

 乗り物酔いをした時のような感じだ。


 すると、意識はだんだんと薄れていく。

 おれは深い睡眠状態に陥りそうになる。


 と、その時だった。



 まどろみの中で、誰かの声がハッキリ聞こえてきた。


「いつまで寝てるんだ? オレは起きてるぞ」


-------


「ハッ!」


 皆がまだ寝静まっている中、おれは目を覚ました。

 身体中、汗をびっしょりとかいている。

 この世界に来て、二度目の自然覚醒。

 いや、あの謎の回廊を合わせれば、これで三度目か……


 しかし、今回はとても嫌な感じだ。


 外はまだ薄暗く、日が昇るにはまだありそうだ。


 おれにとってはとても奇妙な感覚だ。

 いったいどうなってるんだ。

 もしかして、こっちの世界に来て変な魔力とかの影響で体質が変わったとか?

 原因はどうあれ、おそらくこっちの世界の何かしらが影響してるんだろう。

 魔力とかね。


 それにしても、また妙な夢を見たな。

 この間見た夢の続きっぽいけど、一体なんなんだろうか。

 またあの白髪男が出てきたし、前の夢と関係ある気がする。

 今度ジェフにでも聞いてみよう。


 そして最後の謎の声。

 あれは気持ち悪かった。

 直接脳みそに声をかけられているような、変な感覚。

 一体なんなんだ?

 謎だ。



 三段ベッドからごそごそと身を出すと、おれは大きく伸びをする。

 少し頭がさっぱりすると、向かいのカーテンに仕切られた秘密の花園から、豪快なイビキが漏れているのに気がついた。


 あ、これセレシアだ。

 アイツ、美少女のくせに、何でこういう残念ポイントが多いんだろう。

 言動が穏やかで、こんなオッサンみたいなイビキをかかなきゃ完璧なお嬢様なのにな。


 と、不意に昨晩のセレシアの全裸姿が脳裏に浮かんだ。

 ああ、裸を恥ずかしがらないのも、お嬢様ポイントのマイナス箇所だな。

 あんな堂々とされちゃ、裸を見た罪悪感も薄れてしまう。

 まあ、良いものは見せてもらったけどね。


 などと考えていたら、カーテンが少しだけ空いて、下の段から眠そうな目のアカネが顔を出した。


「……あれ、なんでシゲルが起きてんの?」


 完璧な寝起きの声である。

 おれがベッドから這い出た物音で起こしてしまったのだろうか。

 てか、セレシアのイビキもあるのに、おれの物音で起きるって器用だな。


 などと感心していたら、昨晩のお仕置きビンタを思い出した。

 あの後、アカネは一言も口をきかずにベッドに潜り込んでしまった。

 おれがカーテンの前でどれだけ言い訳をしようと、徹底的に無視をかましたのだ。

 だからアカネが声をかけてきた事に若干戸惑いを覚える。


「ごめん、起こしちゃったか?」

「…………」


 あたかも何事もなかったかのような声色でアカネに聞くと、彼女も昨日の事を思い出したかのか、カーテンを閉めた。

 あらら。

 結構怒ってたからな……


 事故とはいえ、アカネにとって女性の裸を見るというのは罪深い行為らしい。

 貞操概念が堅いんだろうな。

 あの張り手も魔撃っぽかったし。

 と思うと張られた頬が痒くなった。


 おれは馬車から出ると、まだ暗い空の下で再度大きく伸びをした。

 そして腰に下げた竜骨を構えて素振りを開始する。

 毎日、昼に行っているトレーニングだ。

 継続は力なり。

 毎日欠かさずにやってるから、かなり体が動く。

 戦う時の身体の動かし方は、スポーツとは違うからな。

 自分で言うのもアレだが、今じゃすっかり一人前の戦闘員っぽくなっている。

 でも、突然戦闘になったら、心理的にビビる可能性大だが。


 おれが汗だくになる頃、日はすっかり昇っていた。



-------


 馬車を走らせて一時間ほど経った。

 辺りの景色は、昨日までとは打って変わって、大分緑豊かになって来た。

 といっても今までの枯れ木が生きた木に変わったくらいだが。

 ジェフの話では、ついにサヤバーン地方を抜けるらしい。


 この世界に来てから、ずっと荒野続きだったので、馬車の外の景色が新鮮だ。

 なので、おれはソルダットの特等席の反対側に座り、外の風景を楽しんでいた。


 馬車の中では「シゲルが一人で起きたぞ!」とか言って色々騒いでるが、当の本人であるおれはのんびり馬車の旅を満喫していた。


 やっぱり緑があるっていいなあ。

 同じメンツで同じ馬車なのに、見える風景がすこし違うだけで全く違った雰囲気を楽しめるのだから、旅って良いなと思ってしまう。

 これぞ旅の醍醐味だ。

 まあ旅と言っても、おれたちの目的はジャノバスを潰すという、とても暴力的なモノなのだが。


 ジェフから聞いた話では、今日到着する街はエミレダという小さな街だ。

 ここはサヤバーン地方の末端に位置していて、荒野を行く旅人が必ずと言っていいほど補給に立ち寄るので、街の規模の割に宿泊施設や武器屋などが充実しているそうだ。


 また、商人が荒野を行く際に必ず雇うのが護衛である。

 ゆえに、エミレダの街のサーチャーは護衛専門みたいな奴が多く駐在している。

 つまり、戦闘員ってヤツだ。


 あー、なんかやな予感がするな。

 ウォーモルもそうだったが、戦闘員っぽいヤツに限って血の気が多い。


 所詮はCランクとかBランクのヤツばかりなんだけど、目が合ったら「ぶっ殺すぞ!」とか言ってくるような連中だ。

 それで、大体ホワイトとかを見て「サーセンでしたッ!」ってなるのがオチだ。

 おれもEランクだから、威張れる立場じゃないんだけどね。

 でも、虎の威を借る狐って思われるのはヤダから、ゆくゆくは高ランクになりたいとも思う。


 他の街と違わず、エミレダの街も城壁で囲まれていた。

 だが、城壁の高さはかなり低い。

 二メートルくらいか。

 今のおれならピョンと跳ねて越えられるな。

 こんなに城壁が低いって事は、周囲に魔物があまりいないのだろうか。

 確かに、荒野は魔物はあまり出てこなかったが、ここは幾分緑もある。

 魔物よりも盗賊の方が危険視されてるのかもしれない。


 まあ、バンドウムはおれたちが潰したから良いけど、五十人の大所帯盗賊団は健在だからな。

 なんだっけ?

 えーっと……あ、そうだ。マーリオだ。

 マーリオ盗賊団。

 当時は盗賊っていう響きだけでビビってたけど、おれも修行をして強くなったので、もう怖くない。

 今ならバンドウムでも一人で倒せそうだ。


 いや、慢心は良くない。

 強くなったと言っても、戦闘経験は圧倒的に足りない。

 戦いは命がけだ。

 個人の能力が突出しているからと言って、必ず勝てるという訳ではない。

 力では勝てるが、総合力では負けるかも知れないからな。

 徐々に経験を積んでいこう。


 と、思っていると、既に門をくぐり街の中に入った。

 おれたちは門番の詰所の横に馬車を預けて街に繰り出す。


 街の様子は、やはりと言うか、活気に溢れている。

 ウォーモルともバエカトリとも違って、ここエミレダは何かと濃い。

 主に人口密度が。

 この規模でこんなに人がいるんだから、小さな街と言っても、なかなか発展している。

 建物も割とピカピカで、道路も綺麗に整備されている。

 道は綺麗な石畳だ。


 そして路上は騒がしい。

 これだけ人がいるのだから当然なのだが、なんだかみんなソワソワしているようだった。

 何だろう、この感じ……


「なんか様子がおかしいな……」


 そう呟いたのはジェフだ。

 やはり変なのか。

 おれの見間違いではないようだ。

 人々は不安そうな顔をしたり、焦りの表情を貼りつけたりしている。

 一体どうしたんだろうか。


「なんか新聞をばら撒いてるみたいっすね」

「新聞?」


 この世界でも新聞はある。

 とはいえ、何か特別な事があった時にだけ新聞は発行されるというくらいで、毎日あるわけではない。

 三日に一回とか、そんな感じだ。

 宿に泊まってた頃は、暇つぶしによく読んでいた。


 新聞は朝に届けられる。

 今の時間帯は、昼を少し過ぎたところだ。

 この時間帯で新聞のネタに盛り上がるのは、少しおかしい。



「号外だ! 号外だよ!」


 遠くの方で声がする。

 その方に顔を向けると、いかにも新聞配達やってますって感じの男が新聞をばら撒いていた。

 よく見ると、道のあちこちに新聞らしき紙が散らかっている。

 号外って……

 三日に一度出す程度なのに、号外って言うのはどうなんだ?

 そんな一々号外にするほどのビックニュースがあったのだろうか。

 だと言うなら、今街がこうなってるのも納得がいく。


「どれどれ?」


 ソルダットが新聞を拾い上げると、おれたちは全員でそれにたかった。


「!?」


 その見出しを見た瞬間。

 ソルダットを含む、おれたち全員は一緒に息を飲んだ。


 この世界には写真はない。

 だから、新聞も文字とイラストだけだ。

 ただこの号外にイラストは一切書かれていない。

 紙面には大きな文字で、こう書かれていた。




『赤眼魔族、ウォーモルを襲撃』

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