66
クリックしていただきありがとうございます。
陽光が辺り一面を照らし出す。
遮るものは何一つなく、隅から隅まで行き届いている。
昨日と違い、草々は碧く光り輝き、花はその碧に負けじと様々な色で己の存在を強調している。
そんな碧がベースの何種類ものの色で彩られた水玉模様の天然の絨毯は、今や踏みに踏みにじられ、美しさを感じさせないほどに赤黒くくすんでいた。
俺を中心とした周囲には、体表が緑で、俺の腰ほどまでにしかない背丈に、醜悪な顔を持つ魔物、ゴブリンがそこら中にくたばっていた。
あるゴブリンは切り刻まれ、あるゴブリンは皮膚がドロドロに焼かれ、あるゴブリンは内部を焼かれたのか、目の水分が蒸発し白濁している。
あまりにも場違いな屍の数は、脳裏によぎるあの美しい夕日に照らされた場所と同じとは思えない。
それほどまでに醜いところへと姿を変えていた。
まあそんな所に変えてしまったのはほかでもない、俺たちなのだから何も言うことができない。
悲嘆するなどもってのほか……
もってのほかなのだが、言い表せないモヤモヤとした気持ちが渦巻いていた。
「レイ様、一通り殲滅することができましたので、標的を探して回りましょう」
山吹に促され、この場を離れる。
ゴブリンの後始末はやっていない。
やらずとも何かしらの魔物が寄ってたかり掃除をしてくれるのだ。
それほどまでここには多くの種類の生物が暮らしている。
そんなことが分かるほどまでに広大な草原。
遮蔽物が少ないため遠くまで望めるが、どこまでこの草原が続いているのか一切不明なほどに同じ景色が視界を占領する。
そんな中を歩き、先程の戦闘を行った方に目を向けると何匹かの魔物が死体の山に群がっていた。
これなら大丈夫そうだと結論づけ視線を戻す。
依頼の標的を探すが見つからないが、再びゴブリンを見つけ、戦闘になる。
数が前回より少なかったため、すぐに方が付いた。
「昨日から言ってるけど、ゴブリン多すぎだろ」
「そうですね。もしかしたらエンぺリアルゴブリンがいるかもしれません」
「なんだそれ?」
「ゴブリンの最上種ですよ、レイ様」
「強いのか?
「普通のゴブリンより強いです。大きさも人並みにあります」
「並のゴブリンの二倍の体格を持ってるんだな」
そんな話をしながら数時間の探索とゴブリンとの数度の交戦を終え、今回の標的、紅血牛を見つけ出すことができた。ちょうど俺と小さくなった山吹と白藍が隠れられるほどの岩あったので身をひそめる。
鋭く長い牙を生やした、人の背の倍は高い牛。
頭部には鮮血で濡らしたかのような光り輝く二本の紅い角。
その牛は大量虐殺を行い、返り血をくまなく浴びた後の様に、全身を赤黒く染め上げた短い体毛に包まれていた。
視界に入れば嫌でも意識させられる圧倒的な存在感は、別名『鏖殺牛』と呼ばれるのに相応しいものであった。
「それにしても一体何匹いるんだ、あいつらは?」
思わず声が漏れる。
驚くことに紅血牛が何匹も固まり、大人しく草を毟り喰っている。
普段群れることを嫌い単体行動を好むこいつらが、だ。
もし出会ったものなら、殺し合いがすぐにでも始まるほどに気性が荒い。
「これは、姉さんが言ったとおりのことが起きてそうだな」
白藍の声が耳に届く。
その言葉には俺も同感だった。
単体行動を好むものがこれほどまでに群れることはまずない。
なら、これをまとめ上げている何かがいてもおかしくない。
そして警戒するように周りを見渡す。
特に変わった様子はなかったが一匹だけ群れから離れている紅血牛がいた。
初めはただ孤立しているだけだと思っていた。
そのため気に留めていなかったが、もう一度そちらに目を向けた時、目が合ったような気がした。
気になり魔力を目に集め視力を上げる。
見えた先には、巨大な弓の弦を引き矢を放ったゴブリンの姿だった。
急いで体を岩に隠しすと、カーンと高い音が聞こえた。
もう一度ゴブリンの方に向け、まだ次射を放とうとしていないことを確認して音の正体を探る。
俺たちが隠れていた岩の前に矢が一本落ちていた。鏃はとても大きく、射られて抜こうとしても簡単に抜けそうにない形状をしていた。
分かり切っていたことだが、先ほどの音は岩に鏃が当たった音だった。
距離的には俺が魔力で視力を高めて確認するほど離れている。
超長距離の狙撃をされたということは俺たちの存在はバレており、あちらも戦うのはやぶさかではないということだ。
俺は口角を上げ、自然と笑みをこぼしていた。
「山吹、白藍。どうやらあちらは逃げるつもりがないらしい。ならやることは一つ。蹂躙だけだ。目にものを見せてやろうじゃないか」
「分かりました、レイ様。姿を戻し、攻め立てます」
そう言って山吹、白藍の順に岩から出て姿を戻す。
その際発生した禍々しいまでの魔力が紅血牛の視線を釘付けにする。
空白の時間が到来する。
どちらも動きはなく停滞していた。
「そうそう、言い忘れてたけど紅血牛の角は討伐の証拠になるから壊すなよ」
事態が動かないことに嫌気が差し、岩の上で仁王立ちをして言う。
眼下に広がる景色に今まで見えていなかったものが映り込む。
数えるのが億劫になるほどのゴブリンが近づいていた。
そしてその後ろには、先程矢を放ったゴブリンと一際大きいゴブリンが紅血牛に跨っていた。
「あれが、エンぺリアルゴブリンか」
他のゴブリンとは明らかに違う姿形に考えずとも理解させられる。
そしてエンぺリアルゴブリンが何かを発して、右手に持っている剣の切先を俺らに向けた後、ゴブリンたちが一斉に動き出した。
俺たちもそれに呼応するように動き出す。
こうして依頼遂行のための狩りと言う名の蹂躙が始まった。
俺は桜花だけを抜刀し、水平に一振りの斬撃を放つ。
その一直線にいたゴブリンは、皆同じように上半身と下半身がサヨナラしていた。
その光景に恐怖で足がすくむ者もいたが、エンぺリアルゴブリンが叫ぶことにより、また果敢に攻め立ててくるゴブリンたち。
そんなゴブリンたちを俺らは一蹴していく。
斬撃を放ち、灼熱の炎をで焼き払い、目に見えぬほどの雷撃で感電させていく。
紅い血が大地に染み渡り汚染され、生臭い匂いがこの場を充満させる。
またところどころだが、良い感じに焼かれた香ばしい匂いも漂ってくることから何とも言えぬ気持ちを抱いていた。
しかしそれは俺らの足元から漂ってくることはなかった。
俺らの前方十メートル以内には死体はなく、それよりも遠い位置で防波堤のように積み上げられた死体がゴブリンたちの数の多さを教えてくれる。
たった数分でこれを成し遂げたこの様相は、蹂躙などいう言葉では生ぬるいほどの地獄絵図そのものだった。
ゴブリンたちによる波状攻撃が終わる。
今度は俺らの番だ。
大地を踏みしめ、力いっぱいに蹴る。
ゴブリンたちの屍を越え、一気に距離を縮める。
まず狙ったのは、一番手前にいた紅血牛だった。
桜花に魔力を纏って切れ味を最大限に向上させ、それを上から振り下ろして胴体を縦に両断する。
ここまでの動作に斬られた紅血牛はついていくことができず、目を見張るので精いっぱいだった。
最後に見たのは、光り輝く純白の刀身の刀を振り下ろした死神の姿だった。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
評価や感想をいただけると励みになります。




