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高家の晒首  作者: 西季幽司
第四章「愛の形」
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二人の関係④

 高房の遺体が発見され、後日、警察から高房が死亡した夜の防犯カメラの映像の提出を求められた時、安井は自分が裏庭の防犯カメラの映像を消去してしまっていたことに気が付いた。何時も通り、裏庭の防犯カメラの映像に人影が映っていたので、直ぐに削除してしまったのだ。

「私が防犯カメラの映像を消去してしまったのです。すいません。そのことを言えなくて、ずっと黙っていました」

 動転した安井は裏庭の防犯カメラの映像がないことを黙ったまま、その他、三台の防犯カメラの映像を証拠として、警察に提出した。

「裏庭の防犯カメラの映像が無かった!」

 刑事ではない中山には、これで十分だった。

 安井が防犯カメラの映像で人影を確認して削除したのだとすると、そこに飯尾の姿が映っていたはずだ。

「裏庭の防犯カメラの映像が無かったことを警察に黙っていたことをネタに、安井に合鍵の件で協力をさせた」と中山は証言している。

「話の辻褄は合っていますが、安井が全てを知って、中山に協力していたことは間違いないでしょう」須磨は少なくとも飯尾の事件に関して、安井は自らの意思で中山に合鍵を貸し与えたと思っているようだった。そこには高房に対する恩義と、会社をクビにした飯尾に対する恨みがあったはずだ。

 そして、「飯尾と翔子がどうやって品川高房氏を殺害したのか、今となっては謎です」と圭亮に高房の事件について見解を求めた。

「二人がどうやって高房さんを殺害したかについて、僕はこんな風に考えています」圭亮が自らの推理を披露した。

 高房が帰宅後、翔子は用事を装って、二階の高房の部屋を訪れる。そして高房に気づかれないように部屋の鍵を盗み出しておく。

 深夜、高房が眠りについた後、裏庭の抜け道から飯尾が品川邸にやって来る。抜け道の存在は、翔子に教え、翔子はそれを飯尾に教えて、密会に利用していた。

 飯尾は高房の部屋に侵入し、寝ていた高房を持って来たロープで縊り殺した。高房を天井から吊るして自殺に見せかけると、後は、圭亮たちが推理した通りのやり方で部屋に鍵をかけて、鍵をドアの隙間から部屋に蹴り込んだ。密室の完成だ。

「自殺に見せかけるには、絞殺した際の索状痕を、首と吊った時と同じようにつける必要があります。そこのところがよく分からないのですが、恐らく首にロープをかけ、両足を相手の肩にかけて思いっきり引っ張り上げた。そして、もう一人が両手を押さえて、苦し紛れに首をひっかいて吉川線を残すのを防いだのでしょう」

 吉川線とは絞殺された被害者が首に残す引っかき傷のことだ。苦し紛れに紐を解こうとして首に傷跡を残してしまうのだ。自殺と他殺を見分ける判断基準のひとつとなっている。

「恐らく、鬼牟田さんの推理通りなのでしょう」と須磨は、本筋である飯尾の事件に移った。

 高房の四十九日の法要が営まれ、親族と飯尾、それに高房を失い、社にいる意味を亡くし、辞職を申し出た中山は最後の奉公と、飯尾と共に品川邸に宿泊することになった。

 高房の恨みを晴らす、千歳一遇のチャンスが訪れた。

 中山は飯尾の殺害計画を練り上げ、品川邸に乗り込んだ。安井から飯尾を部屋の合鍵を借り、先ずは一度、仕事で飯尾の部屋を訪れる。後々、指紋が残っていても不自然にならないようにだが、実際に仕事があった。

 そして深夜、中山は合鍵を使って飯尾の部屋に忍び込んだ。

 飯尾はまだ起きていて、突然、部屋に乱入して来た中山に驚いた。「何だ?」とソファーから立ち上がった。中山は隠し持っていたスパナで、有無を言わさず飯尾の頭を殴りつけた。

 恨みの籠った一撃だった。飯尾は頭部へ一撃を受けると、くるくると駒のように回転しながら崩れ落ちて絶命した。

 予め万能鋸とポリ袋を用意してあった。中山は部屋で飯尾の頭部を斬りおとすと、ポリ袋に詰めた。勝手口から防犯カメラの映らずに門へ移動することができることを、高房から聞いていた。

「飯尾の頭部を門柱に突き刺し、顔を屋敷に向けたのは、鬼牟田さんの推察通り、飯尾の先祖の故事に倣ったのと、翔子への見せしめだったようです。次はお前だと伝えたかったようですが、翔子に通じなかった」

 飯尾の先祖の故事に詳しかった中山らしい復讐劇だった。

 飯尾殺害に使用した凶器のスパナと万能鋸が、意外な形で発見されている。

 中山は飯尾殺害の際に返り血を浴びた衣服を燃えるゴミとして廃棄し、凶器のスパナと万能鋸を家庭用の不燃物として、燃えないゴミとして出していた。足が付かないように、夜中に自宅から離れたマンションのゴミ捨て場に廃棄したことが裏目に出てしまった。

 不燃物は週に一度の回収で、ゴミとして回収されるまでに時間がかかる。中山が不燃物を廃棄したマンションでは、不法投棄を防ぐ為に、不燃物のゴミ袋に部屋番号を書くことが義務付けられていた。

 ゴミ回収日の早朝、マンションの管理人が部屋番号の無いゴミ袋を発見し、不法投棄として廃棄しなかった。マンション内の掲示板に、「ゴミを捨てた方はご連絡ください」と張り紙をして保管しておいた。

 いくら待っても誰も名乗り出ないので、仕方なく、管理人がゴミ袋を開封したところ、血の付いたスパナと万能鋸が出て来た。驚いた管理人は警察に通報した。

 凶器から中山の指紋が発見されている。

 中山が履いていた靴の靴底から微量だが血痕が見つかり、DNAを照合したところ飯尾の血液であることが判明した。

 飯尾殺害に関する物的証拠は揃った。

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