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高家の晒首  作者: 西季幽司
第四章「愛の形」
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二人の関係②

「まさか。お嬢さん、部屋にいる間、ドアに鍵をかけていたからね。忍び込むなんて、出来っこないよ。あの夜は、屋敷に閉じこもっているのに飽きてきたので飲みに行こうと思った。ほら、あんたたちと防犯カメラに映らずに屋敷を抜け出す方法を確かめただろう。あれ、久しぶりにやってみたくなった。昔に戻って、防犯カメラの目を盗んで、屋敷を抜け出して、飲みに行くことした。部屋を出て、階段を降りていたら、寝室のドアが少し、開いていてね。部屋の灯りで廊下が明るくなっていた」

 千載一遇のチャンスだ。正憲は寝室の様子を見に行った。ドアを開けると、目の前にだらりと何かがぶら下がっていた。

「一瞬、何だか分からなかったね」

 瞬きを忘れて、天井からぶら下がったものを凝視した。随分、長い間、立ち尽くしていたような気がするが、ほんの数秒だっただろう。

 正憲は我に返った。目の前にぶら下がっているものが翔子だと気がついた。慌てて周囲を見回した。

「お嬢さん、自殺したと思った。冷静に考えれば何でだろう? だけど、その時はそう思った。だって、そうだろう。姉貴にお嬢さんを殺して天井から吊るすなんて出来っこない。勿論、俺じゃない。誰かが外から屋敷に侵入した? そんなこと一族の人間以外、不可能だからな」

 時刻は既に深夜を回っており、公園に隣接する品川邸は、暗闇と静寂に包まれていた。屋敷の周りの虫の音と蛙の鳴き声だけが、煩く聞こえていた。

 天井を見上げながら、二階の物音に耳を澄ませた。何の物音もしない。二階にいる正子は寝ているようだった。

「正直、気味が悪かったが、とにかく指輪を探した」

 後は前回、聞いた通りだ。指輪はベッド横のサイドテーブルの引き出しに放り込んであった。正憲は指輪を見つけると、指紋が残らないように、指紋を拭いて回って、電灯を消して、ドアを閉めて部屋を出た。

「部屋の鍵は鏡台の上に置いてあったそうですが、気がつかなかったのですか? 鍵を使って部屋を密室にすれば良かったのでは?」

「気がついたよ。その時は部屋を密室にするつもりはなかった。それに、鍵を持ち出すと、どうやって部屋に戻す? 部屋に帰って、色々、考えている内に、部屋を密室にすることにした。だって、考えてもみな、屋敷にいたのは俺と姉貴だ。お嬢さんを殺したのが俺じゃなければ姉貴の可能性が高い。旦那か息子を呼んで手伝わせたら、不可能ではないだろう。折角、邪魔者を排除してくれたんだ。姉貴が捕まっては可哀そうだからな。だから、部屋を密室にすることにした。そこで、ひと芝居打った訳よ」

「そうですか。それで、そこまでして見つけた指輪ですが、それでギターを手に入れることができたのですか?」

「お陰様でね。一昨日、連絡があってギターと指輪を交換して来た。あのギターは俺のものだ」

「それは良かった。お兄さんも喜んでいるかもしれませんね」

「そうだろう。どう考えても俺が持っている方が兄貴も喜ぶ」

「まだあのお屋敷に滞在しているのですか?」

「ああ、いる。姉貴はもう帰るそうだ。姉貴はね。ふらりとお屋敷を訪れては、『これ。お兄様が大事にしていたものだけど、私も欲しくて仕方無かったの』とか言って、屋敷の中の物を物色していた。時に高房が『良いですよ。叔母さんが欲しいのなら持って帰って下さい』なんて言うものだから、用も無いのに屋敷に入り浸っていた。何か欲しいものでもあったのだろうけど、欲しいものは手に入れたのだろうな。後は持ち出せないものばかりだ」

「あなたには、まだ手に入れていないものがあるのですか?」

「俺はね。安井さんの為に、もう少し屋敷にいようかと思っている」

「安井さんの為?」

「彼、よくやってくれているからね。屋敷に人がいなくなると、仕事が無くなってしまうだろう。俺がいる間は安井さん、クビになることはないだろう?」

「ああ~そうですね」と圭亮が満面の笑顔で答えた。

 人を人とも思わない人物に見えるが、優しい一面を持ち合わせているようだ。

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